笑顔の為に
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GWはもうちょい投稿できるように頑張ります!
リーリア目線では、レオンハルトは「レオ」呼びですが、他ではレオンハルトにしてあります。
ちょっと読みにくいので、コソッと直すかもしれません。
「クラフティにはさくらんぼをたっぷり入れてくれよー」
「面倒かけて済まないね」
「おや、坊ちゃん、お早うございます。準備は順調ですよ。味見てかれます?」
貴族の屋敷に相応しく大きな厨房で慌ただしく人が動く。
その中心で指示を出している料理長はキッチンメイドや見習いに声をかけてから、セシルに向き直る。セシルは焼きあがったクッキーをひと口かじり満足そうに笑った。
「……うん、美味しい。これならリーリア嬢も喜ぶと思う」
セシルの言葉に少し頭髪が寂しい料理長が嬉しそう頬をゆるめる。
「そりゃ結構。奥様が亡くなられてからデザートやスイーツとかは作りませんでしたから、少し心配してたんですよ。お嬢様の反応も教えてくださいね」
「あぁ、必ず伝えるよ」
リーリアとレオンハルトとセシルのお茶会当日の朝。
手土産として持っていくスイーツをセシルは料理長に頼んでいた。
セシルが産まれる前から屋敷で働く料理長は、驚きながらも事前に材料を取り寄せて準備を進めててくれた。
セシルの母は彼が幼い頃に病で亡くなっている。
それ以来父親と二人のセシルは、使用人達にも優しく、良好な関係を築いていた。
「……懐かしいですね。旦那様が奥様とお茶をする為に甘さ控えめな物を求められたのは、いい思い出です。奥様は自分のと少し違うお菓子を見ては笑っておられました」
焼きあがったクッキーを箱に詰めるようメイドに声をかけながら、料理長が寂しげに語る。
「……奥様が亡くなってからは、旦那様は食事の時間も惜しむように務めを励まれて……。坊ちゃんとの時間は大切にされているからいいですけど。料理人としては少し寂しいんですよ」
料理長の嘆きとも呼べる言葉に耳を傾けながら、セシルは亡くなった母を想う。
病弱であった彼女は、未だ騎士団長ではなく日々を焦って過ごしていた夫を見守り、息子である自分にも、笑顔しか見せなかった。
忙しい夫を責めるわけでもなく、必ず三人で共にした食事の時間を、何よりも大切にしていた。
そんな母。
「……っと、坊ちゃんに愚痴っては私のクビがとびますね。いけないいけない。クラフティが出来上がったら包んでおきます。出発まで部屋でお茶でも飲まれます?メイド呼びましょうか?」
湿っぽくなったと話を変えた料理長がそう訊ねる。
セシルは苦笑しながら、厨房に来た目的を口にした。
リーリアを喜ばせる為、笑顔を見る為、ちょっとしたサプライズを仕掛ける為に。
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「これでよろしかったでしょうか?」
「……あーっと、うん。ありがと」
「いえ、とんでも御座いません」
大きな箱いっぱいに詰められたカラフルなマカロンを受け取り、レオンハルトはメイドに礼を言う。
「……然し、なんでセシルはマカロンなんて……」
手に持っているマカロンは、リーリア達とのお茶会のお土産。だが、マカロンと指定したのはセシルだった。
『え、マカロン?もっと手の込んだものとか……うちの料理長が嘆くよ……?』
『マカロンにして。ね?頼むよ?』
セシルの笑顔の圧力は思い出すだけで鳥肌が立つ。
おっかないったらありゃしない……とレオンハルトは考えながら、箱にリボンを付ける。
「あらあらレオちゃんったら、お出かけ?」
「あっ?!……うん。いきなり後ろから声かけるのは辞めてよ……母さん」
レオンハルトの後ろに居たのは、ふわふわとした栗色の髪を持つ女性。
一児の母とは思えない幼さを醸し出す、レオンハルトの母親。
「ユリウスが言ってたお茶会って今日ね?」
「うん、そうだよ」
ユリウスとは王位継承権第二位であり、国の宰相であるレオンハルトの父親。
兄である国王をよく支えていると周りから褒められる父親であるが、レオンハルトにとっては……。
「もう、変なとこだけユリウスに似てるんだから!いい?お菓子だけなんてダメよ!折角好きな子にお呼ばれしたんだから、お花くらい用意なさい!……ユリウスも気が利かなかったのよ……もう……。」
レオンハルトにとっては、自分おいてけぼりで母親とイチャつく父親である。
その分子煩悩な人物でもあるが、母親も父親が大好きで、父親も感情を表に出さない割には、母親にだけ愛情表現があからさまなので子供のレオンハルトからしてみれば少し鬱陶しい。
「えっ、てか、えっ!好きな子って、何言って!!!」
「え〜〜〜、だってベルナード家には、レオちゃんと同い年の女の子が居たでしょう?ラヴィア様のお嬢様なら可愛いに違いないもの!!!」
興奮気味にいう母親に、レオンハルトがジトっとした目を向ける。
「…………ラヴィア様…………?」
「あら、レオちゃん、ラヴィア様について聞きたい?!!!」
一層母親の熱が上がった。
レオンハルトが何か口にするよりも早く母親は、瞳を輝かせ言葉を紡ぐ。
「ラヴィア様は、公爵家令嬢という名に相応しく、高貴で可憐で美しく、儚げでまるで人形……いえ、花の妖精のような方。彼女が出席する夜会や茶会や舞踏会は、欠席者がいなかったくらい。女も男も彼女に魅了されたわ……。」
うっとりとする母親の姿に、レオンハルトは王宮で見たリーリアの母親、ベルナード夫人を思い浮かべる。
確かに綺麗な人だった。
リーリアと同じ顔のその人は、あまりに完成した姿過ぎて近寄るのが恐ろしくも思えた。
「……かつては、御学友である国王陛下や、フレジード侯爵様との歓談の為なのか、様々な催しに顔を出されていたのに……。ご結婚なされてからは……いえ、婚約者様のことがあってから……」
不意に母親の声のトーンが落ちた。
だが、レオンハルトはその理由を問うわけでもなく、柱時計に目を向け体をビクつかせた。
「いけね!もうこんな時間!!!母さん!行ってきますっ!母さんも一人でそれに乗ってるの危ないんだから、誰か呼びなよ!」
お茶会の時間が迫り慌ててその場を離れるレオンハルトに気づくことなく、彼の母親は言葉を続ける。
「…………お気の毒だわ。あの方は、あんな扱いを受けていい存在ではないのに。…………あの、あの無能は…………」
その言葉に含まれた棘は、誰が知ることも無い。
「……レオちゃんが、少しでもお嬢様の心を和らげる存在になれるといいのだけど」
人に笑顔しか見せないレオンハルトの母親に、なんの表情もない。
「ごめんなさいね〜、誰かいるかしら?」
すぐさま顔を戻した彼女は、くるりと座っていた車イスを回転させた。
そんな母親のことは露知らず、レオンハルトはリーリアが住む屋敷に向かう馬車で、楽しそうに足をぶらつかせていた。
「……リア、喜んでくれるかな」
レオンハルトは少しだけ、手土産のマカロンに不安を抱いていた。
彼の屋敷の料理人の中には、デザート担当がいる。甘いものが大好きな母親のために雇われた人だった。その人はもっと手の込んだものを作らせろと文句を言いながらマカロンを仕上げてくれた。
確かにマカロンも美味しいし、好きな人は多いだろうけど、折角初めてのお茶会なんだから、もっと手の込んだものを……というのが本音だった。
「くっそーーー、セシルのヤツめー!リアが喜ばなかったら怒るからなー!」
それでも歳上の幼馴染の言うことを聞いてしまうあたりが可愛いやつである。
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「リア嬢〜マフィンの香り付けはオレンジでよかったんですよね〜〜〜!」
「こらっ!お嬢様をリア嬢と呼ぶなって言ってるでしょ!!!」
「ちょ!ハニー!殴るのは無しだよ!!!」
苦笑いを浮かべながら、もはや恒例となっている厨房での夫婦喧嘩を見る。
料理長とキッチンメイドの夫婦は子供も含めてベルナード家で働いてくれている。
殆どの使用人がお母様の嫁入り時に雇われているから、付き合いは長い。……といっても、4歳児なので4年だけど。
私よりお母様と一緒にいるって所にも少し妬けるけど。
まぁ、でも前世と足すと20年越す時間を共に過ごしてることになるので、ほぼ家族である。帰ってこないどこかの伯爵と違って。
「……あ、リア嬢、マフィン以外にダックワーズとクレームブリュレも用意しておいたので、良かったら食べて下さいね〜〜。甘いものがダメだったら、サンドイッチも出してください。果実水も冷やして有りますよ〜〜」
「いつもありがとう。頂きます」
ちょっとおちゃらけてはいるものの、料理の腕は確かな料理長に笑顔を向ける。
料理長にはレオの好物のマフィンと、セシルの好物は分からなかったから何か適当にお願いしますと頼んだ。
私とお母様の好物を作ってくるあたり、食べさせる気があるのかないのか分からないけれど。
そんな私の思考を読んだのか、
「多めに作ってありますから、ディナーの後にもお出ししますよ〜〜」
くっ、優秀な料理人め。
前世から貴方の美味しい料理のせいで、体重管理が大変だったんだよ!
セシルが甘いものを食べられるのか否かは聞いておかなかったから分からない。
ちょっとだけ後悔してる。
忘れてしまったことは仕方ないし、どうしようもないけど。
『うっまーーーー!リアの家のマフィンうまー!えっ、レモンもいいけど、オレンジのやつ俺すごい好き!!!』
前世でレオがマフィンを頬張って嬉しそうに笑ったことを思い出す。
私の大好きな顔。
公共の場や、大人の前では使わない言葉で、真っ直ぐ感想を伝えてくれた。
私の大切な思い出。
「……また、喜んでくれるといいなぁ」
「お嬢様〜」
「はーい、今行きます!」
大切な人の笑顔を思いながら、お茶会の準備を進めた。
お菓子を調べてる時が幸せでした。
あまり食べられないのでリアリティが出るか心配ですが、次回実食(?)です(笑)