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復讐はしあわせのもと?!  作者: 森本美夜
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悪夢

投稿ペースが落ちないように頑張ります!


母親が死んだ。


残された母親そっくりの娘は、ただただ泣いていた。


夫であり、少女の父親である伯爵は速やかに葬儀を行った。


だが、葬儀の場でも呆然とする娘に声をかけることは無かった。



そして三ヶ月後。


妻が娘を身篭ってから殆ど帰ってくることがなかった……妻が死んだ後も一度も帰ってこなかった伯爵が屋敷に帰ってきた。


新しい母親だという女と、自分の娘だという母親を亡くしたばかりの少女と一つ違いの女児を連れて。


『会いたかったわ、お姉様!』


淡い桃色の髪の女児は、少女に嬉しそうな笑みを向けた。


少女の表情は硬直し、込み上げる吐き気をなんとかやり過ごそうと口元に手を当てているのにも気づかず。


少女は部屋に戻るなり吐いた。


だが、母親の死後食事も喉を通らないため、出てくるのは胃液だけ。


彼女付きのメイドが必死に励ましの言葉をかけ、背中を撫でるが彼女の嘔吐と涙は止まらない。


悲鳴のような嗚咽を喉から漏らしながら、彼女は自身の体を抱きしめるように腕を回した。


____________________



その日、新しい母親が付けていたのは、自分の母親が付けていた装飾品だった。


少女は言葉を失う。


いや、屋敷では使用人以外と話すことなど殆どないのだから、失うという表現は可笑しいのかもしれない。


母親と過ごした屋敷がどんどん変えられていくのも黙って見ていた少女だったが、それだけは黙っていることが出来なかった。





『何故!何故お母様の宝石をあの女が使っているのですか!!!お母様の宝石は、公爵家に返すか、娘の私に渡すべきです!!!』



『馬鹿なことを言うな!死んだ妻の所有物は、夫である私のものだ!私が贈ったのだからな!お前が口出すことではない!!!』



『馬鹿なことを言っているのはお父様でしょう?!お父様は、一度だってお母様に贈り物をしたことないじゃない!!!デタラメ言わないで!!!』


少女が言っていることは正しかった。

そう、傍から見れば。

だが、此処は社交界でもなければ、往来でもないのだ。

この屋敷にいるのは、伯爵家の一家と使用人のみ。


『五月蝿い!』


父親が怒鳴りつけ、少女の頬を叩いた。


いや、叩いたなんて優しいものでは無い。殴った。


女にしては背が高い少女だったが、体格のいい父親に殴られあっさりその勢いで廊下に倒れ込んだ。


父親は少女に手を伸ばす訳でも、謝罪や優しい言葉をかける訳でもなく、冷ややかな眼差しで言い放った。



『父親である私にお前如きが口ごたえするな。』



父親はそれだけ言うと踵を返し少女を放置して行く。


口を挟むことも出来ず、そっと状況をうかがっていたメイドが少女を抱き起こした。


少女の頬は赤く腫れ、唇から細い筋が流れている。


メイドが驚き、すぐさまその血を拭おうとするが、少女は生気の感じられない瞳でメイドを見返しただけだった。


唇から流れる血は、少女が唇を噛み締め過ぎたことから流れたものだった。



メイドはどうにか少女を歩かせ、自室に戻らせる。


すぐさま厨房より氷を貰ってきて、柔らかい布で包み少女の頬にあてた。


すると、少女の瞳からぽとり、ぽとりと涙が零れ落ちる。


『どうして……?どうして、あの人は奪っていくの……?』


涙と共に零れ落ちた言葉にメイドが苦しげに顔を歪ませる。


『どうして、今更父親面をするの?どうして、今更家族ごっこに私を加えようとするの?どうして……?』


少女が氷の入った布をテーブルに叩きつける。


ごんごんごんごんと繰り返しテーブルに叩きつけていると、氷の破片が手に刺さったのか、布に赤い染みが出来始めた。



『どうしてどうしてどうしてどうして!!!!!!!』



メイドは泣きながら少女の腕にしがみつく。


もとから細い体をしていた少女の腕は、かつてないほどに肉が落ち、骨の感触がしたことを、メイドが忘れることはない。




言葉は喉でつまり、食事は喉を通らず、なのに吐き気は止まらない。


日に日にやつれ、弱っていく少女の「百合のようだ」と賞賛された美貌は、見る影もなかった。



家族揃った場に居ても、話が振られることは無い。言葉が交わされることは無い。

置物どころか、空気のような存在に成り果てていた。




睡眠薬が無ければ眠れない。

食事を口にしても、その後に吐き出してしまう。


『誰か……、誰か…………』


助けを求めて手を伸ばす。





それなのに、目の前は真っ暗闇だった。











____________________


「……ッ!!!!!!!」



体が跳ねた。


まるで痙攣をおこしたように、震えた。



「はぁはぁはぁはぁ……ッ」



乱れた呼吸を整えようと必死に酸素を取り込むが、早まった鼓動は一層強く振動しているようだ。


ベッドから身を起こし胸を押さえて続ける。


やがて、鼓動は元の速さに戻るともう一度身をベッドに預けた。


「……夢…………」


一度目の人生だった。


ほんのひと部分。

味わい続けた地獄の一部。


汗でぐっしょりと濡れた夜着が気持ち悪い。


小さくため息をつきながら時計に目をやる。


決して早い時間ではないが、お母様なら起きているであろう時間。




「……お母様…………」


「あら!リーちゃん、どうしたの?」



ベッドから抜け出し、お母様の寝室を尋ねると、案の定お母様はソファに腰掛け書類を眺めていた。


私の姿を見るなり、テーブルに書類を戻し私の元へ駆け寄ってくれる。



「怖い夢を見たの……、お母様、今夜は一緒に寝てはだめ……?」


「だめなんかじゃないわ。……夜着もびしょびしょじゃない……!お着替えしてから一緒に寝ましょうね」


そういって私をお母様は抱きしめた。




生きてる。


私も、お母様も、いきてる。


夢なんかに、過去なんかに負けていられない。


復讐するのだから。


もう繰り返さないと決めたのだから。



そう自分に言い聞かせたが、改めて自分の前世を見て、涙が零れた。



「…………今度こそ、幸せになるの…。絶対。」



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