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復讐はしあわせのもと?!  作者: 森本美夜
5/19

友達

「…………涙は。慕う人以外には見せない方がいい」



とてもとても小さな声だった。


横にいるレオにも聞こえない、小さな声。


浮世離れした美しい顔と、これまた浮世離れした色素を持った彼はそう言って笑った。


綺麗で、優しくて、寂しそうで、懐かしい笑顔。


セシル様はそのまま私の頬の涙を拭った。



「大丈夫ですよ。リーリア嬢のお母様はちゃんと屋敷に帰られましたから」


「へっ」


「リーリア嬢のこともちゃんと送り届けますから。ご安心を」


「えっ、あ、はい」



突然帰りのことを言われ驚きつつも何とか返事をする。


泣き止んだことにほっとしたのか、レオが安堵の表情を浮かべた。


「リア、セシルはフレジード侯爵家の息子で、騎士を目指してるんだ!んで、俺達より二つ年上だから、すっごい頼り甲斐がある!」


あ、侯爵家子息なんだ。



ドミニア妃のお気に入りだからそれなりの身分であるとは思ったけれど、私の家より格上ですね。はい。

加えてドミニア妃の生家と同じ侯爵家ということで?納得のお気に入り理由ですね。はい。



「あ、俺は一応公爵家の息子ね」



レオがついでとばかりに言うが、決して軽く流していい話じゃない。



レオンハルト・セヴァ・スターリス



名前が、レオがこの国で特別であることを示している。


「……レオ、ちゃんと説明しないと。これから仲良くしたいなら」


セシル様が呆れたように言うと、レオはえー、と一瞬嫌そうな顔をしたものの、わたしに向き直り真面目な顔をした。


何を言われるかは分かっているけれど、四歳の子供が背負うには重いものだと思ってしまう。


「えーと、リアが気づいているかはわかんないけど、名前の通り俺は王位継承権を持ってる。」


存じ上げておりますとも。

よーく、よーーーくね。


この国で“セヴァ”の姓が持てるものは四人だけ。


国王と、王位継承権第三位までのものだけだ。


レオのお父様は国王陛下の弟君で、現在宰相を務めていらっしゃる。

とても温厚で優しい方で、王位継承権は第二位。

優秀な方でもあるため宰相という立場になったが、反対した貴族もいた。国王陛下がそれを退けた。


曰く、弟に私や息子を殺すことは出来ない、と。


確かにそうである。


心のうちはわからないが、レオのお父様から野心なんて感じられないし、何より国王陛下は建国以来の鬼才と言われている。


そんな人を亡きものになど出来やしないだろう。


…………前世と変わっていなければの話ではあるけれど。


さっきの、お母様と軽口を叩き合っている姿からは想像もつかないけれど。



「あ、ちなみにさっきの場所に置いてきたルミア……王太子様が、王位継承権第一位ね。まんまだね。俺の従兄弟」


そう言えばあの場にルミア様もいたんだった。何か言いかけていた気もするけれど、まあいっか。


「でも、俺はドミニア王妃に嫌われててあんまり仲良くないんだよね。……リアさ、もし関わることがあったら仲良くしてやってよ」


「えっ」


いや、それは嫌かな。

未だ子供だしあからさまなことしてないだけで、ルミア様はがっつり復讐対象なので。


特に何をするかなんて決めていないけれど、泥水を啜らせるくらいはしないと気が済まない。

……いや、まあ、泥水はものの例えであって実際に啜らせるかどうかは…………うーん。



そんな私の想いを何も知らないレオは寂しそうに笑った。


「……あー、でも、リアはベルナード伯爵家か…………」


そうなんですよね。


前世では国王陛下の命とお母様の生家が公爵家であること、父親がそれなりの功績をあげていたということで王太子のルミア様と私が婚約したけど、本来ならそんなこと出来る位じゃないんだよね。


異母妹が婚約できたのは……王太子とドミニア妃の圧力でしょうね。


異母妹の立ち振る舞いにドミニア妃が文句をつけなかったことには驚いたが、余程気に入ってたんだろう。


国王陛下が帰ってきてどうなったのかは知らないけれどね。首と胴がおさらばしたので。


正直伯爵令嬢如きでレオとセシル様と仲良くするのも、面倒くさい社交界では問題とされかねない。



然し、相変わらずドミニア妃はレオのことも嫌いなのか。



前世でも王位継承権を持つレオのことをドミニア妃は毛嫌いしていた。


それもそうだろうとは思うけどね。


歳を重ねるごとに自分に似る息子。そして、夫に似ていく甥っ子。


優秀だと言われながら、どこか物足りないと陰口を叩かれる息子。

剣術でも才を見せ、人からの期待を一身に背負っていた甥っ子。


何をしても息子は甥っ子に勝てない。


世継ぎである男の子を産んだのに、別の者がチヤホヤされるなんて耐え難い屈辱だったに違いない。



思わず笑ってしまう。


ドミニア妃も可哀想な人だ。

誰も彼も敵とみなして攻撃して、身分で人を差別し、その実自分のことを一番追い詰めるのも自分。


そんな、貴族にありがちな可哀想な人。




「……ど、ねぇ、リア聞いてた?」



少し拗ねたような声がすると共に、視界いっぱいにレオの顔が広がる。


「えっ、わっ!」


驚いて後ろに飛び退くと、レオがぷぅと頬を膨らませた。


「やっぱりリア聞いてなかった!」



四歳児こわい。


確かに私も見た目は四歳児ですよ。

前世でこのくらいの歳のことは覚えてないけれど、距離感なんて気にしてなかったのは分かるよ。


でも、四歳にして完成された美しい造形の顔面を近寄らせないで欲しい。


顔が良すぎる。


四歳児の平たい胸がどきどきしてしまう。



話を聞いていなかったと責められているのに、尚もくだらないことを頭に浮かべていた私の頬をレオが両手で挟み込んだ。




…………四歳児がなんて顔してんだ。




「あのさ!俺は、身分とか位とか関係無くリアと仲良くしたい。でも、王位継承権を持ってるってことはそれだけで周りに迷惑をかける」




レオは生まれた時から“王位継承者”という名を背負っている。



どれだけその立場に興味が無いと言っても、レオを邪魔者とするものは必ずいる。


そのせいで、前世でレオは何でもかんでも責任を負う人間になってしまった。




「俺が護るから。絶対リアに迷惑かけないって誓うから。……俺と友達になって?」




完璧人間のたったひとつの欠点。




「……護るだなんて、それは恋した令嬢にのみ言ってください。友達ですから、迷惑でも何でも私は一緒に背負います」



不敬でも何でもいい。


私はレオの手をにぎりしめて、そう伝える。


……前世では伝えられなかったから。


レオが抱え込んでいるものに気づいていながら、自分のことでいっぱいになって何もすることが出来なかった。


そうこうしている間に、二度と会えなくなってしまった。



「迷惑かけないなんて言わないで。そんなもん迷惑でもなんでもないから」


あっ。


口に出してから、敬語を置き去りにしていたことに気づいた。



ちょっと拙いかなと思いながらレオの表情を窺うと、レオは目を見開いて静止していた。


……間抜け顔。



「……レオ」



セシル様が優しい声でレオを呼ぶ。


声はレオにあてられたものであるのに、セシル様の視線は私に向けられていた。


いや、何で。

何でそんなに優しい目で私を見るの!



「……リア、ありがとう」



レオが笑った。



この笑顔が大好き。


どういたしまして、の意味を込めて笑みを返す。



笑顔合戦に収拾がつかなくなった所でセシル様が口を開いた。



「レオ、そろそろリーリア嬢を屋敷をお送りしないと。ベルナード夫人が心配する」


「それもそうだな」


あ、お母様。

レオとセシル様の協力でドミニア妃の前から私は逃げ仰せたが、お母様は大丈夫だったのだろうか。


セシル様が大丈夫と言っていたが、姿を見るまでは安心できない。



「リーリア嬢、私の家の馬車でお送りします。お手を拝借しても?」



当然ベルナード家の馬車はお母様が乗って帰ったので王宮には無い。


頼めば馬車くらい出してもらえるだろうが、子供一人何をしていたんだと問われ問題になるのも厄介だ。


「……よろしくお願いします。セシル様」


差し出された手に自分の手を重ねる。


騎士を目指しているというセシル様は、そんな私に笑みを向けて手を握った。


「それじゃあセシル、リアを頼んだ」


「頼まれました」


じゃあレオはどうするんだと聞きたいような気もするが、レオだって馬車で来ているに違いないだろうし、口にするだけ野暮だと思いやめた。


ドミニア妃がこの時間には現れないであろう場所を通っていくというセシル様に続き歩き出す。


「リア!」


一歩、二歩と歩いたところでレオの大きな声に呼び止められる。


驚いて振り向くと、レオが満面の笑みを浮かべ白い歯を見せて言った。




「俺の事、レオって呼んでいいから。友達なんだから敬語もなし!」




何となく予想はしていた。


生まれ変わったのか、人生をやり直しているのか厳密にはわからないけれど、レオはレオで変わらないんだろうなって。


前世でも今世でも、レオは太陽のように明るく輝き、周りの人を幸せにする。


それは変わらない。



「……レオ、ありがとう!」



「…あぁ!またな!!」



だって、私はもう既にレオに幸せを分けてもらったから。



違うことだらけで混乱している中、レオの変わらない笑顔は、私に安心をくれた。



____________________



セシル様が案内してくれた馬車は、流石侯爵家…………という馬車ではなかった。



ごてごてとした飾りの類はなく、家紋が入っただけの質素な馬車。


勿論そんなことを口にするような私ではないが、侯爵家の馬車だというのに些か地味ではある。



「……地味でしょう?我が家の馬車」



地味で質素な外観に合った革張りのしっかりとした座席に体を置くと、向かいに座ったセシル様がそう呟いた。


確かに思ってはいたけれど、口に出せるわけがない。


なんて返そうと思っていると再びセシル様が話す。


「父親が騎士団の団長を務めていましてね。何でも飾らせるより、機能性重視なんですよ」


あー、そういうこと。


納得の理由である。



騎士の中で見た目よりも機能を、という考え方をする貴族は多い。

と言っても貴族が騎士になることは滅多になく、なったとしても王族を護る近衛兵所属が殆ど。

平民達を集め作った実力主義の騎士団トップに君臨するのは容易なことではない。


この国を護っているのは平民達である。


だが、大半の貴族はそれを認めない。


近衛兵ばかり優遇され、騎士団は苦汁をなめる状態が続いたのを改善したのが現国王陛下。


それでも出来た確執は消えず、何より貴族による騎士団差別は今も根強く残っている。


よって、騎士団に所属する貴族は変わり者と称され、社交界から追い出されることがある。

平民達からの支持はあついのだが。



お飾りのような近衛兵と違い、騎士団は本当に力がある者しか上に立てない。



見た目を気にするのではなく、機能を重視するあたりがセシル様のお父様は騎士団の在り方と似ているように思えた。



だいぶ脱線してしまったけれど……。



「セシル様だけでなく、セシル様のお父様も優秀な方なのですね。家紋がはっきり見えて、とてもいい馬車だと思います」


四歳児っぽい感想を言っておく。


いや、嘘じゃないよ?


本気で思ったからね。


セシル様はそうですか。とそっけなく呟いただけだったけれど、あと少しで私の家という所で私の手をとった。


「えっ、あのっ、セシル様?」


「セシルでいいです。」


「えっ」



突然どうしたんですか???


「……レオのことは呼び捨てに出来ても、私のことは出来ないと言うんですか?」


そういうなりセシル様は目を細めた。


え、それは、私に“セシル”と呼べと???


「で、ですが、セシル様は歳上で侯爵家の方です。私が呼び捨てなんて……」



「レオは公爵家でも呼べるのに?僕はダメと?」



…………は?


敬語が取り払われ、セシル様の一人称が「私」から「僕」に変わったことに思わず顔を上げる。


いつの間にかセシル様は私の目の前で笑顔を浮かべていた。


先程までの優しいお兄ちゃんといった笑顔では無い。


この顔は、したたかで腹の底が黒い者の笑み……。



「リーリア。レオと友達なら僕とも友達だよね?友達は敬語なんて要らないし、呼び捨てにするのも普通だよね?」



私の名前に「嬢」つけてないし!


これは本気ですね???セシル様。



「ほら、リーリア。君の屋敷に着いてしまうよ?早く、僕の名前を呼んでみて?」



これは誰得なんですかね。

一体何処がどうなったらこんな展開になるんですかね。

六歳児が四歳児に何を真面目に求めてるんですかね。


前世で無かったこと起こりすぎですよね?!



現実逃避にも近い文句を頭でつらつらと考えている間も、セシル様は「早く、早く」と急かしてくる。


何故私は自分の誕生日にこんな辱めを受けなければならないんだ。



名前如きで大袈裟と言われるかもしれないけど、レオは前世があったからすんなり呼べただけで、今日初めて会ってしかも自分よりも位が上の家の息子で、絶世の美少年ともなれば話は別。


人生やり直している身からすれば、全力でお断りしたい。



……けど、いつまでも黙りこくっているわけにもいかなくて。


「リーリア」


「せっ、せ、セシりゅ……ッ」



もうどうにでもなれ!と口にした瞬間舌を噛んだ。


…………四歳の体って、不便だよね。



噛んだ舌は痛いし、恥ずかしいやらなんやらで耳とか頬とか熱いし、……セ…シルの方見れないし。


涙目になりながら、文句のひとつくらい言ってやろうと思いセシルの顔を窺う。




セシルは可笑しな顔をしていた。




綺麗な顔の半分を手で覆って、瞳は閉じられている。

唇を噛み締めているのだろうか、顎のあたりに力が入っているように見えなくもない。


何かを堪えるような表情を浮かべていたセシルは、私の視線に気づいたのか顔を上げた。


そして私の頭を撫でる。



「よく出来ました」




結局セシルの見せた笑顔に負けて、私はセシルに対しても呼び捨てと敬語無しで接することになる。



大人の前では敬語でいいだろうと思い、我が家に着いてから口調を戻したら無言の圧力をかけられました。はい。怖かったです。


そんな私を見て、お母様が何故かにやにやしていたんですが。


注意する訳でもなくにやにやするって…………お母様……。






セシルを見送った後、王宮であったことをお母様に聞いてみた。


でもお母様は


「あの後?フレジード家の坊ちゃんのおかげで何も無かったのよね〜。お母様と離れてて寂しかった?ごめんね、リーちゃん」


と何かを語るわけでもなく、私の誕生日にあんなことが起きたことを私に謝った。


はぐらかそうとしているのは分かっていたけれど、お母様が隠そうとしていることを無理矢理聞き出そうとするのは嫌だし、四歳児の行動ではないから諦めた。


その後、お母様と使用人達に囲まれてささやかな誕生日パーティーを楽しんだ。


勿論父親はいない。いても困る。


『リーちゃん、お誕生日おめでとう』


お母様のその言葉だけで充分だった。



前世ではいなかった人がいたり、前世では起きなかったことが起きたり、前世では起きたことが起こらなかったり…………結局人生やり直してるのか何なのか謎ではあるけれど、私がリーリア・ベルナードであることに変わりはないので、今ある幸せを噛み締めながら、復讐を忘れず生きていこうと思う。


反発したところでどうにかなる訳でもないし。


兎に角、もう一度レオに出会えて友達になれたことは嬉しかった。

レオがいない人生なんてやり直しても意味が無いから。


「ふ、ふふっ」


パーティーが終わり自室のベッドで転がっている時で良かった。

少し気色の悪い笑いが出てしまった。


自分で自分に引きながらもう一人、今日出会い友達になった人物を思い浮かべる。


「セシルは、何者なんだろ」



浮世離れした美少年で、

侯爵家子息で、

レオの友達で、

ドミニア妃のお気に入りで、

優しくて、

ちょっと腹黒くて、


私を寂しそうに見つめる男の子。


前世ではいなかった男の子。


「……仲良くなれたら、それでいいや…………」


瞼が落ちてくる。


精神的にも肉体的にも疲れた一日だった。


それもそのはずだけど。


兎に角四歳の身体は早く休ませろと言わんばかりの悲鳴をあげている。


睡魔や疲労には勝てやしない。



私は考えることをやめ、目を閉じた。



この世界が、夢でないことを祈って。


明日も目が覚めて、お母様に会えますように、と。



____________________



「レオ、今戻ったよ」


リーリアを送った後、セシルは自宅に帰るのではなくレオを訪ねていた。


「あ、セシル、リアは大丈夫だった?」


「ベルナード夫人に会って安心してた」


「そっか」


なら良かったと呟くと、レオはセシルを屈ませて耳に口を寄せた。





「セシル、何があってもリアを護れ」





セシルが驚きに目を見開き言葉を失っていると、レオが四歳児とは思えない冷たい光を宿した瞳でセシルを見る。


「リアはああ言ったけど、それじゃ足りない。これから先リアは、必ず危険な目に遭う。こんな勘当たって欲しくないけど、そんな気がする。その時、俺自身じゃあの子を護れない。」


レオが自分の小さな手を見つめながら、唇を噛む。


自分達が傍にいることは、護りにもなるし、危険にもなる。


それをレオもセシルも分かっている。


その上で、リーリアの傍にいることを望んでいる。



「今度は護りぬきたいんだ」




「…………レオの、心のままに」


セシルはそう言いながら胸に手を当て頭を垂れる。


「ごめん、子供のお守りの次は我儘かよって文句言ってくれていいよ」


いつもの調子に戻りそう笑ったレオにセシルは少しからかうように返した。


「別に、父さんの言いつけでレオと一緒にいるわけじゃないから。それよりも、今日出会ったばかりの子にそんなに入れ込んで大丈夫?」


「大丈夫。一目惚れだから」


レオの即答にまたセシルが言葉を失う。


「それに、セシルが認めている女の子なら、間違いないし。…………さて、今日の夕飯何かなー!」


「は?ちょ、レオ?!待っ、それどういう意味……ッ」


「セシル夕飯食べてくー?」


「いや、それよりも話を……!!!」



結局レオに誤魔化され夕飯を食べて帰ったセシルだった。



____________________


「ポピーの花束をベルナード家の令嬢に贈っておいてください」




ルミアはそう侍従に言うとメイド達を追い出して自室に籠る。


閉められていたカーテンを開けると、外はもう真っ暗だった。


バルコニーに出て握りしめていた物を見つめる。


手に握っていたのは、リーリアに渡されたハンカチ。



「…………なんで」


自分の血で少し汚れたハンカチを見つめながら、ルミアはそうもらした。



暫くバルコニーでじっとしていたルミアだったが、ひとつ溜息を零し部屋に戻る。



そして、机に便箋を広げペンを手に取った。


____________________


暗闇の中、少年は一心不乱にノートにペンを走らせていた。


ノートは使い込まれて紙の隅がぼろぼろになり、本来の厚さよりも数ミリ分厚くなっている。


少年は、ノートに擦れインクで汚れた手で髪を掻きむしると拳で机を叩いた。




「 」



苦しげな呟きは、誰に届くことなく消えていった。

一旦書き終えてから、ルミア王子が放置されていることに気がつきました。ごめんね、ルミア王子。

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