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復讐はしあわせのもと?!  作者: 森本美夜
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毒(三)

生まれた時から、人生は決まっていた。


ルディウス・セヴァ・ラティフォリアム


それが、与えられた名。


国王の第一子として生まれ、幼い頃から様々な教育を施されていた。


大抵の事は一度習えば理解出来た。

教科書も、一回読めば覚えられた。


学園に入る頃には、国王である父を凌ぐ鬼才と呼ばれるようになっていた。



詰まらなかった。



退屈な日々。


それでも生きてこられたのは、何よりも大切なものがあったから。



初めての社交界で出逢った花。

不機嫌そうに可愛らしい顔を歪めていた少女。


名前を知る前から心に居座り続けた彼女とは、学園で再会することになる。



きっと、初めて会った時に恋をしたのだと思う。


人生で初めて、手に入れたいと思った人。




だが、その願いは叶わない。





この身に絡みつく“次期国王”の座は、心のままに生きることを許さなかった。


彼女は、この国を護るよう、王としての役割を説いた。


自らも公爵家令嬢として国に尽くすから、と。




彼女と愛し合うには、この国は腐敗し過ぎていた。



彼女が、彼女の子孫が生きるこの国を正すと決めた。


その為に望まぬ結婚も、面倒くさい根回しも、公務も、全てを受け入れてきた。


自分の犠牲で、彼女を護れるのならば。


彼女が笑って暮らせるように。



彼女は、彼女自身が慕う人と婚約していた。

彼女が幸せなら、それで良かった。


それも叶わない。



結局、彼女も望まぬ結婚をした。

政略結婚という名目には似合わない、利益のない結婚。


私が為そうとしていることを手伝う為に。



彼女の夫は酷い男だった。


何度殺そうと思ったことか。



そんな時、彼女が子供を産んだ。


彼女そっくりな女の子。


彼女は生まれたばかりの子を抱きながら言った。


『ごめんなさい。私、もうこの国を一番に思えない。私は、この子を護る。この子の為に生きるわ。』



私も決めた。


彼女と、その娘が笑って暮らせるようにしようと。

この二人を幸せにしようと。


この国も、血を分けた家族も、国民も、どうだっていい。


彼女達が、幸せに、穏やかに暮らせるのならば。





だが、その願いは____。





____________________



「毒……?リーリアが、毒を?」



ベルナード家の執事長と、王位継承権第三位で甥っ子であるレオンハルトが挨拶もそこそこに口にした言葉は、国王…………ルディウスの表情を凍りつかせた。


「……っ?!」


そして、レオンハルトがビクつく程の殺気を放った。


「…………今日、ベルナード家にいたのは?まさか、使用人が彼女を殺めるわけないよね……?」


「奥様、お嬢様、使用人達に、レオンハルト様、フレジード侯爵ご子息のセシル様。」


執事長が頭を下げながら響く声で淡々と話していく。




「そして、ベルナード伯爵で御座います。」





「…………ふぅん。そうか……。」




国王が長い間を置いて呟いた。

美しい悪魔のような笑みとともに。


「あ、の、此方が件の毒物と思しきものと、ベルナード夫人からお預かりした手紙です。」


国王の出す無言の圧力に負けず口を開いたレオンハルトに拍手を送りたい。

たとえ大人でも、身動きひとつ取れず硬直するだけであっただろうから。


後ろに控える侍従がペーパーナイフを差し出す。


流れるような動作で手紙の封を開けた国王は、一瞬目を通しただけで便箋を封筒に戻した。



次の瞬間、握られていたペーパーナイフはテーブルに突き立てられていた。



「陛下……!手が……!!!」



深々と机に刺さったペーパーナイフの刃の部分を握ってしまっていたのだろう。

国王の手から鮮血が滴っていた。



「……レオンハルト、ユリウスを呼ぶから一緒に帰りなさい。執事長、貴方にはやってもらいたいことがある。」


「畏まりました。然し陛下、先ずは手の治療をされませんと、ラヴィア様が悲しまれます」


丁寧に一礼した執事長が告げると侍従が白いハンカチを差し出す。

それで血を拭いながら国王は指示を出していく。


「薬草園から一人、王宮医も一人ベルナード家に派遣して。あぁ、これを見せてから。これが盛られたなら時間の勝負だから。あと、ユリウスを呼び出してレオンハルトを連れて帰らせて。…………執事長」


「はい」


「案内させるから、私の執務室にいてもらえる?手間は掛けさせないから安心して」


「滅相もございません」


「あー……、あと、王妃と王太子を王宮から出さないように。一人ずつは私付きの者を遣わせといて。理由は何でもいい。」


思い出したように付け加えると国王は立ち上がった。


「さて、どうしたものかなぁ……」




困ったような口調と裏腹に、国王の瞳は狩りをする獣のように鋭い光を灯していた。





____________________



「おかえりなさい、パパ!」


淡い桃色の髪をした幼子が、扉を開け家に入ってきた男に抱きつく。


綺麗な身なりをした男は嬉しそうに顔をほころばせ幼子を抱き上げる。


「あら、おかえりなさい。あなた」


そこに幼子と同じ髪の色の女が現れる。


「ママ!」


「……どうだった?」


女の言葉に男は顔をゆがめる。


「相変わらず傲慢な女だった。時間の無駄だ。」


「……そう。()()はどうしたの?」


「お前が言ったように置いてきた。伯爵は私だというのに、使用人共は案内もしない。使えない奴らばかりだ。」


その後も愚痴愚痴と人を罵る言葉を吐き続ける男に、幼子が首を傾げる。


「お嬢様はどんな子だったの?」


女の言葉に幼子が反応する。


「お嬢様……?」


「貴女のお姉様よ。」


女がそう言うと幼子は嬉しそうに足をばたつかせた。

男はというと、苦虫を噛み潰したような表情である。


「……姿は、見ていない。どうせ、大した娘ではないだろう。」


「あらあら。…………手土産が、奥様やお嬢様のお口にあうといいのだけど」


「私の家族はシーラとマーガレットだけだ。アイツ等を家族と思ったことは無い」


幼子はなおも首を傾げる。

女は「そんなこと言うものでは…」と言うが、男が言葉を改める様子はなかった。




「……お姉様…………会ってみたいなぁ。」





















「……報告は以上です。引き続き対象の監視にあたります」


「うん。ご苦労様。」


ゆらりと国王の背後に黒い影が動く。

かと思えば、その影はいつの間にか消え去っていた。


キィ……と木の椅子の音を立てながら、国王は机に肘をついて微笑をうかべる


「……さてと。今一緒に聞いてもらった通りだよ。多少計画は前後するかもしれないけど、今後()()()()()()手を出させないから、もう少し我慢するよう伝えてもらえる?」


「……はっ。然し、恐れながら陛下、奥様が納得なさるとは思えませんが……」


「その時は私から頼むから大丈夫。ラヴィアが言うことは尤もだけどね」


執事長はそれ以上何も言わなかった。



「これでも、私は怒ってるんだよ。……………低能が、生かされてることも知らずに、のうのうとしていることも。あたかも自分が強者であるかのように振る舞うことも。全部、ね。」












執事長が退室した部屋で、国王は冷たい窓ガラスに指をなぞらせながら呟く。



「『淋しい美しさ』ねぇ……。勘違いも甚だしい」


ユリウスさんは、レオンハルトくんのお父様です。ついでに、ルディウスさんの弟さんです。


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