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7回目のReスタート  作者: くらはし
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第3話 葛藤とメイド

ミッションは部屋から出る前から始まっていると言っても過言ではない。

 出来る限り人に見られず父上の部屋へとたどり着かなければならないのだ。

メイドの…いや女性の噂話の伝わる速さは半端ではない。自分も中身が女だからよく分かる。

 地球時代、仕事の同僚にちょっとした噂を朝にポロっと話しただけで昼前にはほとんどの人が知っていて戦慄した事がある。

 つまり何が言いたいかと言うと、メイドの噂で自分がエロ本を探していたと悟らせないようにする為なのだよ!

 

 うん、別に父上の部屋に行くだけでエロ本を探すなんて事には結びつかない。むしろ結びついたら怖い。

 ならば何を怖がっているのか、答えは簡単、部屋に清掃メイドがいる事を想像しているから。

部屋にメイドがいなければ万々歳。あっちもこっちも探し放題!気兼ねなく探す事が出来る。しかしもしメイドがいた場合、限られた場所しか探す事ができない。 

 父上の部屋は仕事用の執務室と私室が一緒の2LDK型。

と言う事は1つの部屋にメイドがいたらその部屋を探す事は困難だし、別の部屋を探していたとしてもいつメイドが入ってくるか分からない。

 仮にメイドがいる時にエロ本を見つけられても手に持って堂々と出ていくなんてできないし、服の中に隠して出ていこうにしても服装が可笑しな事になった所を見つかってしまえば終わりだ。

 となれば時間との勝負になるので気ままに探せない。自由が無い!!!

メイドの勤務時間や勤務場所なんて一々覚えている訳も無く、ココはもういっそ賭けに出てしまおうか…?

 時間の猶予は限られている、メイドにもし会ったとしても父上の部屋に忘れ物をしたから探しに行きたい。うん、これで行こう。

 見た目可愛い男の子なんだ、上目遣いでイチコロだろ。中身はお察しだけどな!


よし、そうと決まればと気合を入れなおす。

元気よく部屋を飛び出たのはよいものの、ちょっと待てよと思いとどまり近くにあった執事も使える共同トイレの個室に籠って早数分。もはや猶予はこれ以上は無いだろう。

「うっし、いくぞ私。今後の生活の為に!!!」

 トイレだからか頬を叩く音が異様に響いたが、むしろ気合が入ったと意気込み手を洗ってから父上の部屋へと今度こそ向かった。



・・・


と言うのにこれはなんてタイミングだろうか…絶対呪われているぞこの7回目。

 父上の部屋の前へとたどり着き4回ノックをしていない事を確認。

 ココまで来るのに短い距離ではあったがメイドや執事に出会う事は無く堂々と入ろうと思った矢先に終わった。


「アル様、旦那様の部屋へ何か御用でしょうか?」

「おっふ…」


 なんという事でしょう。想像してしまった通りにメイドに出会ってしまった。

しかもメイドはメイドでも一番出会いたくなかったメイドである。

 170cmの身長と足首まで隠れるロングドレスに脛まである真っ白なエプロン、ポニーテールにされた真っ黒な髪は胸元まで伸び、髪と同じ色の瞳をもつ目じりがキリッと上がって威圧的な印象を受けるが本人はそれを気にしているという少し可愛らしいメイド。

 それが彼女、フェデルタ・アフェクションである。

何故彼女に一番出会いたくないのか、それは彼女こそ、アル専属のメイドであり、一番最初にこの世界へ来た時に大変お世話になった過去があるからだ。

 もし彼女がいなかったらこの世界の事は勿論、家の事や文字の読み書きまでもが分からず仕舞いで途方に暮れていたかもしれなかった。

 今でも覚えている。入れ替わった時に私が初めて彼女を見て「誰?」と言った時の驚いた表情、何一つ分からなかった私に救いの手と言わんばかりに色々な事を教え、私も覚える事に必死だったという事もあり、たった2年でありながら簡易的なマナーから文字の読み書きまで完璧に出来るようになったのを自分の事のように喜んでくれた初めて見せた笑顔。

 そして死ぬ時には目が溶けてしまうのではと心配になる位の大粒の涙を流し自分の名を呼んでくれていた泣き顔。

 一番お世話になった彼女には頭が下がるし足を向けて眠れない位に恩義を感じている。無論、それ以降の2回目~6回目も1回目程ではないものの大変お世話になっていた。

 だからこそ恩義ある彼女にエロ本を持った自分の姿をとても見られたくないのである!


「アル様?」

「ほぁあ!?い、いや父上の部屋に忘れ物をしたから取りに行こうと思って」

「そうでしたか、ならば私が取って来ましょう」

「え?」

「これから旦那様の部屋を掃除いたしますので何を忘れたのか教えていただければこの私が取ってまいります」

 詰んだ。

いやいやマテまて待て落ち着こう自分。まさか取りに行ってきます発言が来るとは思わなかった。

 メイドに、それもよりにもよって恩義を感じている女性に「エロ本取ってきてください」なんて頼める訳ないだろう!

 そんな事を頼んでしまった暁には、お疲れ様でした我が人生!自分の名誉と共にさようなら!と叫びながらエロ本を抱えて自爆しなければいけなくなる。自分で言うのもなんだがこんな新しい死に方したくない!

こんなの現代的に言わせてもらえれば


「ごめーんちょっと忘れ物しちゃった!そこにあるから取りに行ってもらってもいいー?」

「えー?何々?何忘れたの?」

「お父さんのエロ本ー、そこに置いてある筈なんだー」

「分かったーちょっと待ってねー…えーっとあったよー!はいどうぞ!」

「ごめんねー、助かったーありがとう!」


嫌すぎるわ!!!なんだこの生々しい女子高生のような会話は!(独断と偏見)

 思わず思考がトリップしてしまったが何が何でも手伝わせたくない。

当たり前だが自分でりに行くのが一番ベストな答えでしかない。これから仕事をするのに邪魔にしかならない子供を部屋に入れて気を遣わせてしまうのがとても申し訳ないが今日ばかりは勘弁してもらおう。


「あのね、滅多に入れない父上の部屋と言うのもあるけど、僕が自分で探したいんだ!」


 目一杯の子供らしい上目遣いと小さな拳を2つ作って力説する。

うーん、痛い。これは痛い。とても痛い。だがこれは致し方が無い事で誰にも迷惑はかけていない。強いて言うならば自分の精神的ダメージが極大だったというだけだ。

 エロ本を見つけ出しミッションコンプリートをした時には布団に包まって泣いてやろう。

無言でこちらを見ていた彼女も小さく頷き部屋へ入る事を良しとしてくれた。

 よっしゃ、許可が出たから一緒に入っちゃうぞ!待ってろ父上のエロ本よ!


今、狩りに行きます。


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