ゆづき
少し書き直しました。
ゆーちゃんの突然の仲間宣言に冒険者ギルド内がざわついている。
こんな小さい子が冒険者なのだろうか?
「みつきちゃん、落ち着いて! ゆづきちゃん、勇者の仲間になるってことは、大変なことなのよ!!」
リリアンさんが、慌ててゆーちゃんを止めようとする。
なに? ゆーちゃんには大変なことをさせたくなくて、僕はいいのか? やっぱり見習い勇者は使い捨て出来る消耗品としてみているのかな。
ゆーちゃんはリリアンさんの説得に耳を貸そうとしない。
リリアンさんは僕の肩を掴んで「みつきちゃんも考え直して!」と言ってくる。
うん。リリアンさんの気持ちも分かるよ。こんなに小さい子を危険な目に合わせたくないんだろうね。僕は良いんだろうけど……けっ。
「なにより、有能な勇者を失いたくないのよ!!」
ん? 勇者を失う?
僕は聞き間違いだろうかと、周りの冒険者を見渡す。周りの冒険者は僕と目が合うと、必死に首を縦に振る。
必死に説得リリアンさんにゆーちゃんが「おいきょにゅー。ゆーちゃんにもんく?」というと、ゆーちゃんな周りの空気が重くなる。
あれ? この空気感は、うちのじーちゃんが怒っている時の空気感と一緒だ。
ゆーちゃんは口角を釣り上げて、両手を上にあげて「いうよ?」と一言だけ告げる。
その言葉を聞いた冒険者達はパニックになり、逃げだす者、泡を吹いて失神する者様々だ。
この冒険者ギルドの冒険者達は、こんな小さい子にどんな弱みを握られているの? そこまでパニックになるなんて、ゆーちゃんは何を言おうとしているの?
ニヤニヤしているゆーちゃんに、リリアンさんが立ちはだかる。
「ぐっ……ゆづきちゃん! た、例え、あの言葉を言われたとしても、これだけは引き下がれないのよ! オリハルコンの勇者なんて、ここ十数年は出てないのよ! 私一人の命で済むのなら、私一人の命でみつきちゃんを諦めて!!」
「きょにゅーいいどきょう」
ちょっと待って!? リリアンさん何を言ってるの!? リリアンさんの命ってなに!?
そもそも、リリアンさんをきょにゅーって、いや確かに巨乳だけども、羨ましいけども、いや、それどころじゃない。止めないと!!
「てい!」
ポコッ
ゆーちゃんの頭を軽く叩いてみた。その瞬間、冒険者達の顔が真っ青になる。
「こら! 人を困らせちゃだめでしょ!」
ギギギギ……
ゆーちゃんがゆっくりこっちを向く。ゆーちゃんの目が真っ赤になっている? あれ? これって? それは後で、とにかく。
「ちゃんと仲間になったげるから、人に迷惑かけないの! わかった?」
僕の仲間になれば、この子は大人しくするのだろう。
ゆーちゃんはじっと僕の事を見る。さっきも思った通り、この目は魔眼だ。しかも両目。
僕の知っている魔王ですら片目の魔眼なのに。
「みーちゃんのいうこときく」
「よろしい」
僕はゆーちゃんの頭を撫でる。ゆーちゃんは頭を撫でられて嬉しそうにしている。
リリアンさんは、僕達のやり取りを、驚いた顔で見ていた。
「ゆーちゃんの職業はなに? 魔導師?」
「ゆーちゃんはそうりょ」
ゆーちゃんがそう言うと、また周りの冒険者達が一斉に引く。
ここの冒険者はいちいち反応が大きい。一体何なんだ?
ここでリリアンさんが会話に入ってくる。
「ゆづきちゃん、貴女は僧侶じゃないでしょ?」
「そーりょ」
リリアンさんが、訂正するけどゆーちゃんは折れない。きっとこの子には譲れないものがあるのだろう。
「じゃあ、ここでヒールを使ってもらったらどう?」
僕がそう言うと、リリアンさんが物凄く慌てだす。
ゆーちゃんの口角がまた上がる。目も輝いている。
「ダメよ! ゆづきちゃんのヒールは……」
「ひーる!」
リリアンさんは何故か止めようとしていたが、ゆーちゃんはヒールを無詠唱で使っていた。
リリアンさんはひーるを使ってしまった事を、僕はゆーちゃんが無詠唱で魔法を使った事を驚いていた。
魔法の無詠唱は凄く高度な技術って聞いたことがあるんだけど、この子、普通に無詠唱で魔法を使ってる……。
ゆーちゃんが使ったヒールの影響か、体がポカポカしてきた。なんだ、ちゃんと使えるじゃないか。
「ゆーちゃん、ありがとう。リリアンさん、ゆーちゃんはちゃんとヒールを、しかも無詠唱で使えたのだから、立派な僧侶なんですよ」
「そ、それは……」
リリアンさんはこんなはずじゃって顔をしてはいたが、少し考えてから、なにかを決意したように、僕を真面目な顔で見た。
「みつきちゃん、そこまで言うなら止めはしないけど、後悔しないわね?」
後悔? さっきのやり取りを見る限り、ちょっと我が儘な所もあるけど、我が儘だけなら許容範囲だろう。
「大丈夫ですよ。後悔はしませんよ」
「もう一度だけ聞くけど、本当に後悔しないわね? ゆづきちゃんが何をやっても許せるわね?」
なんで二回も聞くんだろう? 後悔なんて、よっぽどの事がない限り、後悔なんてしないのに。ゆーちゃんが何をやるかはわからないけど、大丈夫だろう。
「後悔しませんよ」
リリアンさんは、ため息をつきながら、ラビさんにパーティー結成の書類を作るように話をしてくれた。
これには受付の人も凄く驚いていた。
「リリアンさん、いいんですか?」
「本当は止めたいけど、みつきちゃんの意思は固いし、正直ここでゆづきちゃんに暴れられるよりは、よっぽどマシだしね」
え? 今、暴れると言いましたか?
ラビさんもため息を吐きつつ「はい。わかりました」と書類を用意していた。
書類に僕とゆーちゃんの名前を書いて、僕達二人は勇者パーティとして冒険者登録をした。この決断がとんでもないことだった事に気付くのは、この直後だった。
「ゆーちゃん、これからよろしくね。あと、もう一回ヒールを使ってくれる? 村から直接ここまで来ちゃったから疲れているの」
「わかったー」
ゆーちゃんは、笑顔でヒールを使ってくれた……はずだった。
「ぐはぁ!!」
僕は急に気分が悪くなって血を吐いた。これはあれだ!! 毒をうけたときの症状だ!なんで!?
「みつきちゃん!! 浄化の光を照らせ、キュア!!」
僕の体を優しい光が包む。体から毒が消えた。でも、なんで!?
「これがゆづきちゃんのひーるの本当の力なのよ。なにが起こるかわからない危険な魔法。使わないでって言っても、聞いてくれず、すぐに使う子なのよ。しかも、無詠唱だから誰にも止められないの。みつきちゃん、頑張ってね!」
…………
………
……
え? いや、えー!!!? めちゃくちゃ危険人物じゃないか!?
みんなが引いたいた意味がやっとわかった。で、でも注意すればやめてくれるかも。
「……ゆーちゃん? ひーるは禁止ね?」
「やだ」
………
……
ダメだった……考えることすらしてくれなかった。
僕は、とんでもない子を仲間にしてしまったことに、少しだけ後悔をしてしまった。後悔はしないと言ったばかりなのに……。
でも、これから楽しくなりそうとも思ったのは、ゆーちゃんには内緒だ。