冒険者ギルドに飛ばされてきた
僕は飛ばされてきたこの部屋を、じっくり見てみることにした。なにもない殺風景な部屋。僕はその部屋の中心に立っていた。足元には何かの魔方陣が描いてある。恐らくこれが転移の魔方陣なのだろう。
とはいえ、ボクは魔法陣の事は何もわからないので何が書いてあるかわからないんだけど……。
ここにいても仕方がないので、ここから出て誰か人に会おう。もしかしたら助けてもらえるかもしれない。
部屋を出れば……いや、建物から出れば誰かはいるだろう。そう思った僕は、この部屋にある扉を開けようとした。
ガチャガチャ……。
「開かない……外側から鍵がかかってる?」
呼んだら誰か気付いてくれるかな?
「すいませーん! 転送されて来たんですけどー!」
…………
………
……
返事はない。もう一回叫んでみたがやっぱり反応はない。もしこの部屋が、地下ならば声は届かないかもしれない。
うーん。目の前の扉は、頑丈そうだ。
蹴破れるか?
……よし、軽く蹴ってみるか。
「せーの!」
ドゴォオオオオオオオン!!!
あれ? 扉はアッサリと蹴破れた。なんだ、思ってたより脆い扉だったようだ。
「さて……誰かいるかな?」
扉の外は窓もない廊下だった。薄暗い。こんなに暗いという事はもう使われていなかったのかな?扉を蹴破って正解だったね。
暗い廊下を歩いていると、明かりを持った二人組がこっちに向かって走ってきた。
一人は長い髪の女の人。もうは一人はでかいおじさんだ。
「お、女の子? どうしてこんなところに女の子がいるの?」
そんな事、僕が聞きたいのだが……。
「もしかして、転送されて来たのでは?」
そうですよ?
「なにを言ってるの? 勇者が来ることは報告にはなかったわよ?」
報告? 強制的に連れてこられたのに報告って何?
「アレでしょう」
「アレか……」
アレ? アレって何だろう?
二人はそう言って僕を可哀想な子を見る目で見ていた。失礼な人達だ。初対面で人をそんな目で見ちゃダメと教わらなかったのかな?
僕が村で初対面の人をそんな目で見たら、じじいに怒られるぞ?
「お嬢ちゃん名前は? 何歳? どこから来たの?」
子供扱い!? 僕は16歳だ。可哀想なものを見る目をした次は、子供扱いの上、質問責め? 無茶苦茶だな……。
飛ばされた先が噂通りのアロン王国王都なら、ここの人間は田舎者をバカにしてるんだな。僕は、不機嫌になり二人を睨み付けた。
「リリアンさん。初対面の人に失礼ですよ。君、すまないね。混乱しているところ悪いけど、応接室に案内するから、この人に付いて行ってくれるかい?」
おじさんはそう言うと、僕の頭を撫でた。いや、もう一人のお姉さんよりは話せるけど、僕は子供じゃない! 確かに、同じ年の村の子よりは多少小さいけど。僕はおじさんの手を振りう払う。
「リリアンさん、私は勇者の間を調べに行きます。あの音は何かあったのかもしれない。この子を安全な場所へ」
「わかったわ。えっと……」
名乗って欲しいのかな? 仕方ないなぁ……。
「僕はみつき。お姉さんは?」
子供扱いされて不愉快だけど、ここでおばさんと言わないのは僕が優しいからだよ? 別に明かりではっきり見えなくてもスッゴイ美人さんだからじゃないからね?
「みつきちゃんね。私はリリアン。一緒に上の部屋まで来てくれる? これからの事とか説明したいから」
ん? 説明してくれるの? 聞いてた話と何か違うんだけど。説明してくれるのなら、それでいいや。僕は大人しく付いていくことにした。
案内された部屋は、転送されて来た部屋とは違い、ちゃんと椅子もテーブルもある部屋だった。
「そこに座って」
僕が椅子に座ると、正面にリリアンさんが座った。
真正面に座られると良く分かる。正真正銘の美人さんだ!! 僕はなんとなく嬉しい気持ちになる。
リリアンさんは勇者についての説明を始めたようとしたが、さっきの会話で気になってたことがあったので、それについて尋ねてみた。
「さっき言ってたアレって何ですか?」
僕の質問に、リリアンさんは少しだけ悲しい顔をして、くじ引きで選ばれた人達の事を教えてくれた。
「本来ならアロン王国軍の兵士が持っているクジ引きを引いてもらって、アタリが当たった後に、王都に来るかどうかを聞く決まりがあるの」
「え? 僕の村では勝手に置いてあったけど? しかも、当たった後でも拒否できるの?」
僕がそう言うとリリアンさんは困ったような顔をした。
「出来るわ。嫌がってる人に来てもらっても、無駄に犠牲を出すだけだからね。でもね、中には見習い勇者の支度金を盗んでどこかに行方をくらませる兵士もいるの」
「アタリを引いた時点で転送されるのなら、支度金もなにもないんじゃないの? 少なくても僕はアタリを引いた直後に転送されたよ?」
「え? それはおかしいわ。そもそも転送には呪文が必要だもの」
呪文という事は、あの場に兵士がいたことになるのか? 気付かなかった。僕の生体感知にひっかからないなんて……。流石は王国の兵士だ……。
「でも、みつきちゃんのようになんの説明もなく、強制的に転送されて来る人もごく稀にいるのよ」
成る程、僕はそのごく稀だからアレと言われてたわけか。
まぁ、済んだことはいいとして、王都に来た以上、僕が勇者としてやっていかないといけないのか、聞かなくちゃいけない。
「みつきちゃんは、どこから来たの? それによっては送り返せるかもしれないから」
送り返す? それはダメだ。帰ればあのじじいに何をされるか分からない。村の生活は楽しかったが、もし毎日のように、じじいの小言を聞かされれば、僕はストレスでおかしくなるかもしれない。だから、村には帰らない。
「王都で勇者以外の生き方は無理ですか?」
「ちょっと難しいかしら。転送された時点でみつきちゃんは職業が勇者と記されてしまっているのよ。送り返す時にそれが消滅するらしいから、ここに残る場合は勇者として、最低限の活動をしてもらうことになるわ」
「消滅だけできませんか?」
リリアンさんは、静かに首を横に振った。なるほど、無理ってことか。困ったぞ。
村に帰らない以上、勇者として働かなきゃいけない。村周辺で戦った魔物程度なら狩れるけど、それで食べていけるのだろうか? そんなことを考えていたら、さっきのおじさんが部屋に入ってきた。
おじさんはリリアンさんに何かを報告している。おじさんの話を聞いた後、リリアンさんの顔は険しい顔になっていた。
少し書き直しました。