プロローグ
月が蒼白く妖しい光を照らしている。
自分がいるこの場所は広大なビル街で、建物の窓には明かりが灯っており看板やネオンが輝いているが、人の気配は一切ない。
自分は巨大なビル群が建ち並ぶ中でも最も高いビルの最上階、その外郭の一部から下界を見下ろしている。勿論、夜景を臨む為ではない。わざわざこんな所にいるのは、ターゲットを待つ為だ。もうじきターゲットがこのビルの前を通る。
黒いコートの中から拳銃を2丁取り出し、安全装置を外す。ベレッタM92、数ある銃の中でも自分が最も愛用する拳銃だ。これで何人ものターゲットを闇に葬って来た。任務とは言え、その手にかけた者は数知れない。
耳に付けた小型通信機が音を立てる。通信機から聴こえるのは男の声。
「おい!今どこにいるんだ!まさか、まだアレを追っているんじゃねぇだろうな!?」
その声を無視し、黙って通信を切断する。今の自分に雑音など不要だ。仲間の言葉を振り切ってまで会いたい人物・・・自分がこの職に就いてから、そんな者は誰一人としていなかったのに。もしかしたら、今の自分は『正義を行う者』という存在から逸脱しているのかも知れない。
人は自分の信じた道を進むしかない。そしてどんな行いも常に正解であり、過ちでもある。悪にも人間の心はあるだろう。その心とやらを・・・今夜この目で確かめようではないか。
そんなことを考えている内に、ターゲットが姿を現した。
ボブカットにした黒髪に、光を宿してない蒼い瞳。年齢は15、6歳ぐらいだろうか。その少女は無感情且つ無表情で、薄暗い夜道をただ1人歩いていた。
直後に新たな人の気配が5人・・・10人・・・イヤ、20人は増えた。少女を囲うようにサングラスに黒いスーツを着た男達が姿を現す。少女を尾けていたのか待ち伏せしていたのか不明だが、あの男達は間違いなく少女に敵意を向けている。
少女はすかさず懐から仕込み刀を2本取り出し、襲い来る男達を斬り始めた。その動きは非常に流麗且つアクロバティックで、見る者全てを魅了するものであった。男達も格闘術の心得はあるようだが、少女の前には赤子も同然だ。
黒いスーツの男達を全員斬り伏せると、少女は摩天楼の上を見上げる。ビルの上から様子を見ていた自分と目が合うのを感じる。どうやら自分の存在に気付いたようだ。摩天楼の上にいる人物が明らかに自身を狙っていると感じ取った彼女は、高く跳躍した後にビルの壁を駆け上がる。
自分も少女がこちらに迫って来るのを確認すると、すぐさまビルから飛び降りる。だが、彼女を迎え撃つ為ではない。話の邪魔になる者達を排除する為だ。
少女とすれ違うように地上へ着地すると、黒いスーツの男達が物陰から4人現れる。まだ地上で人の気配が消えてないと思ったが、やはり伏兵がいたか。目の前の男達は考える間でもない、明確な悪だと分かっている。故に自分は躊躇なく引き金を引き、即座に全員制裁する。
邪魔者が全ていなくなったところで、少女が再び地上に飛び降りて来た。彼女は自分と距離を取り、武器を構えて対峙する。
「あなた・・・何者?」
「俺が何者かなんてどうでもいい・・・王 愛蓮、お前に用がある。」
プロローグです。
補足事項等があれば、こちらに書き込んで行きます。
更新のタイミングは不定期ですが、出来る限り早くやって行くつもりです。