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案内されたのは小さな棚の前。其処も先の部屋同様、沢山の本が綺麗に並び、背の高さまで綺麗に揃えられていた。
その内の一冊に男の子を抱いた男が触れると、小さな音がして、棚がズレた。
重いだろうはずのそれを、難なくスライドさせると、大人の背丈ほどの穴が現れ、直ぐに中へ入って行く。
青年が入るのを確認した仲間だろう人間達が、そっと棚をずらす様に戻すと、一瞬にしてそれは閉じられ、代わりに、壁一面を星の輝きが覆った。
冷たい空気を肌に感じながら、穴から続く階段を下り切ると、其処は想像以上に広い空間が広がっていた。
そして変わらず広がる星を散りばめた天井は、まるで夜空のよう。
「ほし」
青年の胸から顔を上げた少女は、不思議そうに天井を見上げ、伸ばされた白く細い腕から伸びる手が、それに触れようとした。勿論、届くはずも無く、ただ白い肌が目に焼き付いただけだった。
「こっちだ」
幾つもの穴がある場所。一つ一つの穴にはロープが延びていて、そこに掛けられた布が上手く空間を仕切っていた。
青年達が通されたのは、その中でも一番大きな穴、ここには仕切りの布も無く、ただ大きなテーブルと、壁をうまく利用した椅子が並んでいる。
「座れ」
「ありがとうございます」
男の子を下ろした男は、最初に会った女性と抱き合うと、自分も青年同様腰を下ろした。
青年の膝の上で緊張した表情を浮かべる少女だったが、それでも周囲が気になるらしく、チラチラと辺りを見回している。
壁に貼られた大きな地図、天井を覆う星空、楽しそうに遊ぶ男の子、その全てが少女には不思議そうで、色んな表情を浮かべ、様子を伺っていた。
少女の様子を見ていたのは、青年だけでは無く、目の前に腰を下ろした男もその様子を眺めていた。