1ー8
エプロンや羽織を滅茶苦茶に纏い、小さな両手をこれでもかと広げた少女が、精一杯の力で、目の前の大人達へ叫んだ。
「だめ‼︎ わたしを、すきにして、いいから」
震える腕を叱責する様に、何度も同じ言葉を繰り返す少女。次第に青年に向けられていた刃先が、ゆっくりと下りて行き、大きな大きな溜息が部屋へ響いた。
「あんたは、子供にも手を出すのかい?」
青年の後ろから、足に男の子をしがみ付けた女性が、冷たく言い放った。腕を組み、胸を張り、力強く、目の前の人間達を叱責する様に。
「そもそも、私が殺られると思うのかい?」
「わたしを、すきに、して」
女性の言葉と小さな少女から発せられる言葉に、顔の見えない人間は、誰の耳にも届くほどに息を吐き、部屋の中へ入ると、じっと目の前にいる少女を見つめ、頭を撫でた。
青年の事など構うこと無く、優しく、ゆっくりと。
「何も知らず、ここへ入り込んでしまって、申し訳」
「事情は知らん。しかし、こんな小さな子に、こんな事言わせてすまん」
されるがままだった少女だったが、ゆっくりゆっくり後退りし、そっと青年の服を掴むと、そのまま青年の陰に隠れてしまった。
少女がいなくなって、空いてしまった手は、小さな足音を立ててやって来た、つい今まで女性の足にしがみ付いていた男の子を抱き上げ、部屋の奥へと促してくれた。
しがみつく様に隠れる少女を宥め、青年は男とその仲間だろうか、側にいた二人と、そして女性の背中を見届けていた。
が、その様子に気付いた男の子が、不思議そうに首を傾げ、小さな手で手招きを見せた。
「いこう。ここ、こわいところだよ?」
もしかするとーーーーなんて。都合が良すぎるか。
微かに湧いた期待を胸に秘め、青年は頷き返すと、少女を抱き上げて後を追った。