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「それは……間違い無く父上の “モノ” ですから」
「ハハッ冗談だ。気が利くお前には、次はいい所を譲ってやるからな。おやすみよ子供」
王は無理矢理少女の唇を自分のと重ね、満足そうに放り投げると、何事も無かったかのように、再び酒を煽り始めた。
震える少女の姿に、青年は怒りを抑える事に必死で、去り際の挨拶も忘れていたが、上機嫌の人々にはそんな事気にも止める者は無く、何事も無く二人は部屋を後にした。
賑やかな部屋から離れ、誰の声も聞こえなくなった少女の部屋の前。青年は少女の鎖を外し、いつも世話役がやる様に、扉を開く事はしなかった。
そのまま少女の手を取り、視線を合わた。
「今すぐここを出ましょう、そして出来る限り遠くへ」
掴まれた手が震えていたが、それでも青年は少女をしっかりと抱きしめ、走り出した。
「しっかり掴まっていて下さいね」
きっとこの子は何も分からないかも知れない。
それでももう、こんな辛い生活を送らなくて済むのなら、私がどうなろうと構わない。
この子に自由を、幸せを。
幾つもの抜け道を通り抜け、城の外にある馬小屋から一番大きな馬に跨り、祝宴のお陰で開かれたままになっていた城門を、勢いよく通り抜けた。
「ちょっと走りますよ」
青年の胸の前で更に小さくなった少女は、その小さな手で、しっかりと青年の服を掴んだ。
規則正しい蹄鉄の音が響き、遠のいて行く。
何も音がしない、誰も居なくなった頃に、ゆっくりと人の手でその門は閉じられた。