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そうして幾つかの夜を、少女と扉越しに送り続けたある朝。王の生誕祭が盛大に催された。
国々の中を沢山の兵と共に練り歩き、少女を見世物にしながら歩く。勿論、その傍には青年もいて、一度も笑うことは無かった。
全ての国を回り終えた王は、最後、巨大な城の前に足を着けると、勢いよく両手を振り上げた。
「今日ここに一つ!! 皆に知らせる事がある!!」
ガチャりと鈍い金属の音を響かせ、青年の横にいたはずの少女が、王の元へと手繰り寄せられると、王は更に腹にまで響くように声を張り上げた。
「二日後の日の出!! 八つ目の国を配下へ入れる事にした!!」
騒めく民衆達を横目に、自分の言葉達に酔いしれるようにどんどん王は声を張り上げて行く。
「まぁ私も鬼じゃない。八つ目の国を手に入れる祝として、全ての者に金一封をやろう!! 但しっ!!」
誰の耳にも届く程の金属音。それは今、王の手から少女の首へと繋がる、見えない筈のネックレスへと繋がる鎖の擦れる音。
太陽の光を眩しく反射しながら、ハッキリとその姿を現した。
「大切な君達をこんな風にはしたくない、平和に行こうじゃないか」
目の前にいる人々は、不安の色を浮かべていた。それもそうだろう。こんなものを見せつけられて喜ぶ人間が何処にいる。
青年は二人の後ろで、拳に力を込めたが、勿論、誰にも気付かれないし、少女は自由にもならなかった。
そんな全ての事を露も知らない王は、更に大きく声を響かせた。
「もし今までよりも早く、八つ目の国を配下にする事が出来たなら、そうだな、祝い金を上乗せしてやる!!」
不安そうな人々の目が、顔色が、互いに見つめ合い、少しして小さな拍手が起きた。
つられるようにそれは少しずつ大きくなり、終いには、歓声までもが沸き上がった。
「所詮人間など、自分が平和ならば、満たされるのならば、こんな小さな犠牲と思うのか」
青年の呟きは歓声に打ち消され、代わりに王はこれ以上ない程に満足そうな笑みを浮かべ、笑い、そして民衆の前で、少女の唇へ自分のそれを重ねた。
「お前もやっと役に立ったな」
好奇の目に変わりつつある人々と、王の行動に、少女は小さな唇を噛んだ。けれどそれもまた、王の気持ちを高ぶらせるだけで、鈍い音と嫌な輝きを浮かべる鎖は、少女の首をまだしっかりと捕まえていた。