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「今日も大変でしたね、体は大丈夫ですか?」
「だいじょうぶ」
「そうですか、良かった」
父はーー王は、毎日飽きもせず、少女をモノとして扱う。それが単純に身の回りの世話だったりするが、大半は目を覆いたくなる王の快楽相手。
今日はちょっとした手違いで、偶然居合わせてしまった。しかし何を言う事も許されない空間で、青年は見守ることしか出来なかった。
私に、もう一歩力があればーーーー。
青年はそんなことを一日中思い続け、その償いを込めて、今日はリンゴを持参した。
少女が唯一、言葉を知っている食べ物。いつか、いつでも食べられたら……そんな気持ちを握った拳に込め、落ち着かせる。
「たべた」
満足そうな声が聞こえ、青年は背を預ける扉へ振り返った。
「今日も何か好きなお話をしましょう」
「はい」
「どんなお話がいいでしょうか」
夜鳥の鳴き声も、聞こえなくなる時まで話し続けた。
この国の子供達が、当たり前の様に母親から聞かせて貰う、少女には想像もつかないかも知れない美しい話。
リンゴを入れた穴から小さな寝息が聞こえ始め、覗き窓から寝顔を確認した青年は、服の埃を払いながらしっかりと立ち上がった。
「いつか、必ず自由にする……」
私が必ず、この子に本心の笑顔を。
これもまた日課のように独りごちた青年は、来た道へ再び足を向けた。