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七つ目の国を手中に入れた王は、自分に歯向かう国民が出ない様、自分の力、そして財力を知らしめる為に、どの国からも見えるほどに大きな城を築くと共に、最後に治めた七つ目の国から、一人の少女を連れ去った。
その日から、少女の首には美しく飾られた長い長いネックレスが掛けられ、常人には見える事の無いその先が、いつでも王の手の内にあった。
「また明日、迎えに来てやるからな」
厚く硬い唇が小さな唇と重なり、気持ちの悪い息が少女の顔を撫で回す。
くつくつと喉を鳴らした王は、可笑しそうに笑いながら厚い扉を、耳に残る程の音を立てて締め切り、しっかりと外から鍵をかけた。
ここは唯一少女が自由でいられる場所。
硬いベッドに薄い毛布だけが敷かれたそこへ腰を下ろした少女は、遥か上にある窓から見える美しい夜空を見上げた。これもまた、少女にとって自由に見る事の出来る景色だった。
それでも文句一つ言わない少女は、暫くそうした後、何故か固く閉められた扉の前で座り直し、ただじっと扉を見つめていた。
どれ程かそうしていると、小さな、本当に小さな音がして、決して王の前では見せる事が無い微笑みを浮かべた。
「起きていますか」
「はい」
王には子供がいた。背丈こそ似ているものの、他は何一つとして共通点の無い青年。世界で三本の指にも入るほどの剣の使い手で、常に王と行動を共にする自慢の息子。
そんな青年は、少女が連れて来られた日から、王の目を盗み、様子を伺い来ていた。そしてそれは扉越しであったとしても、少女にとっては最高の楽しみであった。
「今日は果物を持って来ましたよ、リンゴです」
「りんご‼︎」
小さな穴から出て来た紅い玉、少女はそれを手に取ると、嬉しそうに匂いを嗅いだ。
「そのまま齧って下さい、美味しいですよ」
サクリと齧る音がして、少しの間の後、また齧る音。扉に背を預けた青年は、嬉しそうに笑うと、扉に沿って腰を下ろした。