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Grave Defamation -潔白の空-  作者: えすえすけい
3/5

高木楓

 路地裏を抜けるとすぐに廃ビルが見えた。


 俺の記憶ではこの辺で廃ビルと言ったらここしか思い当たらない。

 スマホには廃ビルの位置まで記されていなかったが、ここで間違いないだろう。


 一応周りを警戒しながら廃ビルへ向かう。 

 遠くからパトカーのサイレンがせわしなく聞こえ、マスコミのものであろうヘリが上空を飛んでいるのが見えた。

 そして廃ビルを目の前にし、思わず驚嘆の声が漏れた。

 

 おぉ……


 目的地に着いた俺は、高さ四十メートルはあるだろう廃ビルを下から見上げる。 

 近くで見るとすごい迫力だった。


 廃ビルの周りは雑草やらが伸び放題で、ところどころ崩れている壁面にまで草が生い茂っていた。

 近づいて割れた窓の中を見てみると、土埃をかぶった事務机や椅子が倒れていた。


 すげぇ……映画のセットみたいだ。


 俺は警察に追われている事を一時忘れ、廃ビルに見入っていた。

 すると、例のごとく左ポケットから振動を感じた。


 よしきたな、どれどれ……


 次は何を指示されるかなとドキドキしながらスマホを見る。


 ――迎えを待て――


 ついに姿を現すのか。


 迎えというのはもちろん、このスマホに指示を送ってくる本人かその関係者だろう。

 自分を警察から庇ってくれる何者かにもちろん感謝はしていたが、いざ会うとなると少し不安になる。

 しかし、親や友達を頼れない今の状況ではこの何者かをあてにする他ないようだった。


 まあ、大人しく待つか。


 俺はその廃ビルの入り口に回り、中で待つことにした。

 入り口に入ると、右手に受付の机と奥に資材の入ったダンボールが見えた。

 くもの巣がちらほら張っていて、歩くたびに砂埃が小さく舞った。


 受付の机の近くで椅子が倒れていたが、それをわざわざ起こして座る気にはなれなかった。

 俺は床に座り、迎えを待つことにした。

 入り口の外をぼんやり見る。


 いやぁ……疲れた。


 まだ昼前だが今日はいろんな事がありすぎた。

 一夜漬けをした後のように頭がぼーっとする。

 将来のことを心配できるほどの活力が頭に残されていなかった。


 廃ビルのぼろい壁が外の喧騒をいい感じに遮断してくれている。

 心地いい静けさに思わずうとうとしていると。


 ザザッ


 後ろのほうで突然物音がした。


 ん……?


 俺はとっさに音のした方へ振り向いた。

 だが、一見したところでは何の変化も見られなかった。


 迎えの者か?

 

 いや、それはないだろう。

 足音というより物がこすれるような音だった。


 物音の原因が気になった俺は奥へと進んだ。

 事務用具の入ったダンボールがいくつか詰まれていた。

 

 と、俺は一番手前のダンボールに違和感を感じた。

 それは人が一人すっぽり入りそうな大きさのダンボールだった。


 ん……このダンボールだけ砂埃をかぶってないな。


 少し怪訝に思ったが。


 あーなるほど、野良猫でも住んでるのか


 ここは廃墟だ。野良猫やらいたちにとっては格好の住みかだろう。

 なんだか微笑ましい気分になった俺は、何の躊躇も無くそのダンボールを開けた。

 だが、俺はもう少し気をつけて開けるべきだったのだろう。

 それはとんだびっくり箱だった。


 

 かわいい野良猫が丸まっているのをイメージしながら箱を開けると――



 そこには白い髪をした人間の女の子が丸まっていた。



 それはまるで、スロー再生される映像を見ているような感覚だった。

 

 「うわあああああああああッッッ!!!!?」

 

 



――




 

 俺はかつて自分でも聞いたことのないような悲鳴をあげ、腰を抜かしていた。


 何者だよ、こいつ!?


 まさか迎えの者だろうか。

 いや、それは絶対にないだろう。

 というか俺を助けようとしてくれた何者かにそんな奇抜な登場はして欲しくない。


 俺があたふたしている間にそいつは箱から姿を現した。


 「ちょっといきなり大声出さないでよ!」


 ダンボールの中から立ち上がったそいつは俺を見下ろす形で言ってきた。

 その気の強そうな声を出した彼女は意外にも小柄だった。

 そのため、俺はまだ尻を床につけていたがあまり目線に高低差を感じなかった。


 「いや、お前がそんなとこにいるからだろ! ここ最近で一番びっくりしたじゃねえか!」


 正直指名手配された時より驚いた。

 人間、いきなり人が現れるといったようなシンプルな恐怖に一番素直に驚くのかもしれない。


 「そ、それはここで人を待ってたらいきなりあんたが入ってきたから……って……」


 そう言いかけたところで彼女は俺を凝視しながら驚いたようだった。

 

 そのぱっちりした大きな紅い目で俺の顔を覗き込んでくる。

 綺麗というよりは可愛いといった感じの、人形のような小さな顔を近づけられた俺は少しどぎまぎした。

 肩をつたう新雪のような白髪は、近くでふわっと花のようないい匂いがした。

 そして、ピアニストのような繊細な人差し指で俺を指しながら言った。


 「やっぱり……あんたがあの男ね!」


 彼女は俺の正体にピンときたようだった。

 だが、俺もまたその時には彼女の正体に気づいていた。


 「あぁ、そうだよ。お前の予想通りだ。そしてお前もだな?」


 彼女は小さく口を開けて何か言おうとした後、こくりとうなずいた。

 そして俺は彼女の、ニュースで見たのと同じ顔を見つめながら尋ねた。


 「お前の名前は?」


 「私は高木楓たかぎかえでよ。」


 こうして、俺は図らずも指名手配されている四人のうちの一人、高木楓と出会った。

 

 


 

 

 


 


 


 

 


 


 

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