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魔法少女  作者: 高音 希彦
1/1

紅い魔法少女

目に止めていただきありがとうございます!

良ければ最後まで読んでいってください!

晴れた日だった。


青年が青い空の輝く朝日に眩しく目を細めていた。


何の気なく眩しさに気持ちよさを覚えていると突然に青年の乗っていた車両、74式戦車が動き出した。


住宅街を突き進む戦車や装甲車の大群、機甲師団。戦車240両。装甲車140両。人員6500名の自衛隊員は1人の少女を殺してしまうために集められた。

キューポラ(戦車上部の出入り用の丸型ハッチ)から顔だけ出してエンジンの音に思考をかき乱されつつ呆然と周りをみている。

『たかだか女の子1人のために』とたかをくくっていた青年は眠い目を擦りあくびを1つ大きくゆっくりとする。


瞬間だった



ドゴオォォォォォンンン!!!



爆轟と共に戦車の大群が木の葉のように吹き飛んだ。


落ちていく戦車は住宅の屋根に突っ込み、鉄塔に絡まり、電柱に刺さった。


青年がアクビをし終わる頃には数両の戦車と装甲車が残るばかりであたりは爆風でひどい有様になっていた。

青年の開いた口が塞がらないのを他所に74式戦車の前に現れたのは



学生カバンを片手にトーストを加えた制服姿の『女子高生』であった。




【遅刻!遅刻!お兄ちゃんにおベトわたさなきゃっ!♡】


キラキラと光る夜明け、彼女の朝は早い。夜明け前には顔を洗い、自慢の赤髪をツインテールに分けて誰が見ても美少女だと頷くような顔を鏡で確認してから新聞を取りに行き リビングの掃除を軽く済ませて 3LDKの大きな家に二人暮らしの兄をおこしにいく。

両親は海外出張が多く最後に家へ帰ってきたのは5年ほど前になるのだろうか。


彼女の1日の始まりは『愛すべきお兄ちゃん』を起こしにいくことからようやくスタートしていく。

軽やかステップで階段を上がりエプロンを二階手すりにかけて右側奥の部屋の扉を元気よく開く。


「おッハローございまぁぁーーす!!お兄ちゃん!!朝だぞ!!」


「………。」


「…もう!お兄ちゃん?朝だぞ?チュンチュン小鳥も鳴いてる新しい朝だぞ?」


「……zzZ」


「……そうか、起きないなら……」


部屋の奥側、扉を開けて真正面の壁沿いのベットで夢うつつの兄に向かい彼女は大きくジャンプをすると……



「「二ードロップしちゃうぞぉ!!!!♡」」



膝を兄にめがけ全体重でもって落ちていく。




「あばぁぁぁぁぁぁぁぁっきぉぉぉぉおおお!!!」




二ードロップが仰向けの兄の腹部に突き刺さりムンクも裸足で逃げ出すような叫び声とともに飛び起きた。



「ハン!?…なんだ、妹 か。…たく、いつも言ってんだろ?別にお越しに来なくていいって……」


「ええ?だって私がお越しにこないと朝がこないでしょ?」


「お前は神か」


「そだよ!少なくともお兄ちゃんにとってはね!」


「神は神でも疫病神ボソ」


「あれれ?お兄ちゃんまだ起きてないみたいだね?なら仕方ないなぁ………♡」


ゴス!!!



「あばぁぁぁぁぁぁぁぁっきぉぉぉぉおおお!!!」




兄を起こすと手早く台所に入り、朝御飯の支度を手際よくこしらえていく。寝ぼけ眼の兄が顔を洗い終わる頃にはリビングの食卓には満漢全席よろしく 和食のオンパレードがちゃぶ台を所狭しと敷き詰められる。

ボーッとした兄が学ランに着替えてちゃぶ台の前に座る時にはホカホカのご飯と出来立てのダシのきいたお味噌汁がドンと陣をかまえているのだ。

海外に赴任中の両親に「朝はしっかりとたべなさい!」と教えられ、それを忠実に受け継いだ妹は毎朝成人男性3人でも食べ切れるかどうか分からない量を10分やそこらでそそくさと作り終えてしまうのだ。


しかし兄も兄でその教えに習い、妹が作り上げた大量の料理を1人で大半を平らげてしまう。

だが、太っているわけではなく身長は178cm。細身で筋肉質、髪も顔も平均的である。

…ただ1つ変わっているところは髪の色が白銀である事だけである。

大量の朝御飯を食べ終えた兄は部活カバンと学生カバンをもち「ごちそうさま!」と共に玄関から走り出ていってしまう。


「ちょっと!お兄ちゃん!!お弁当……ってもう、いつもいつも…仕方ないお兄ちゃんだな」


部活の朝練へと向かう兄はいつも妹にお弁当を届けてもらっていてそれはごく日常的な風景であった。


「さてと私も片付けて学校に行かなくちゃね」


兄が家を出た後 洗い物をして洗濯を終えて朝のニュースを見ていると……


「え!?やだ!!こんな時間!?遅刻ギリギリ!!」


学生カバンと兄のお弁当を持って玄関へと走る。


その時。



「妹!!待つニャ!!!」



子供のような、男女どちらともとれない不思議な声が玄関に響く。


「妹!待つニャ!!!外には今妹に危害を加えようとする邪悪な者が沢山迫ってきているニャ!!!」



突然空間から光と共に現れた宙を舞う白い体毛に赤色のラインが入った獣人のような猫がその声の主だ。


「今出るのは危険だニャ!!!時間を置いて状況を判断してから行動に出るニャ!!!」


しかし妹は意に介せずローファーを履き終えて玄関に手をかけようとする。


「待つニャ!!!玄関を開けたら僕の結界が………!?」


今玄関の扉にかけようとした右手が瞬時に空飛ぶ猫の顔面を鷲掴みにし、狼が唸るように低い声で妹は言い放つ。


「「……もう二度と私の前に現れるなと言ったはずよ……」」


バシリ!と猫を廊下へと叩きつけた妹に対して猫は痛みに顔をしかめながらもしっかりと…


「…ぼ…僕にだって意地はあるんだニャ!…もうあいつらには二度と従いたくは…!!!!!」




『『『 だ ま れ !!!!! 』』』



先程兄を起こした時の笑顔とは打って変わって



「あんた達が《私達》に何をやってきたのかわかっているの…?今更そんなご都合に合わせていられないの!」



妹は廊下に猫を残して玄関をガチャ!!と勢いよくあける。


路上や道路、道という道には乗用車などには無い戦闘的な外観の無骨な緑色の戦車が視界いっぱい、家の門前まで迫ってきていて扉を開けたときには妹の顔の前に 51口径105mmライフル砲 がドンと構えていた。


「見ていなさい。これが私の『魔力!』よ…」


74式戦車の砲手が発射トリガーを引き砲弾が発射される瞬間。



ズドォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!



妹の半径50m、妹の自宅を除き 全てが吹き飛んだ。



戦車は木の葉のように宙へと舞い上がり無数の点が空に浮かんでいる。


荒野と化した住宅街にちらほら残る戦車たちが慌てて砲を妹に向け物陰へと身を隠そうとする。が、吹き飛ばされた戦車達が上から風を切る音と共に降り注ぎその中の一つが物陰に隠れた戦車にへとぶつかり轟音と共に爆散する。


上部ハッチから青年が顔を出している戦車がこちらへと走り込んでくる。このまま妹をひき潰すつもりなのか近距離で砲撃するつもりなのか。


正直、妹はどっちでも良かった。どちらも同じことであった。

アリンコ1匹がその小さな顎を振りかざそうと、全力で突っ込んでこようと、どちらも同じなのだから。



『ただ踏み潰せばみんな同じなの』



74式戦車が妹を巻き込みながら家に突進して破裂音と砂煙が同時に上がり辺りを白く染める。


モヤが晴れていくと妹の影と戦車の影が浮かび上がってくると…


妹が戦車の砲身を左手で抑え長かった砲身が本来の3分の1にも満たない長さに蛇腹で折れ曲がり、74式戦車の無限機動は障害物に阻まれ進むことが出来ずにゴリゴリと音を上げ空回りを続けている。


その障害物とは他でもない。



「私よ!!!!」



74式戦車の丸みがかった砲塔をズイリと持ち上げまるでバスタオルを投げるように荒れ果てた住宅街跡に投げ捨てた。


砲塔が収まっていた丸い穴から先ほどの青年が顔を出してポカンと口を開けていると左側から爆音と共に異物が妹に ガツンッ!! と金属音を響かせ激突した。


「人に向けて徹甲弾撃ち込むなんて…大人って最低ね」


左手でそちらを見ること無く105mmライフル砲を受け止た妹はその大きな砲弾を顔に近づけると目を閉じて…


『ガギャリリリッ!!』


そっと顔から砲弾を離して左に首を向けて何かを吐き捨てると、50m先で後退中の74式戦車の右履帯がブチ切れそのまま右側面をこちらに向けて左に回り出してしまう。


妹がドサリと足元に捨てた砲弾には小さい歯型が入っていた。

リンゴについた歯型のように。


「大人たちってホントに馬鹿ばっかり。ちゃんと教えてあげても何一つとして学ぼうと、理解しようとしない。これまでに重ねてきた経験や知恵の尺度でものを見ようとする悪い癖がまったく抜けないみたいね。私にはなにしても『無駄』だって事。また教えてあげなきゃなのかしら。」


しかし僅かに残る戦車たちが榴弾(爆薬を仕込んだ砲弾)を装填し妹めがけて一斉に撃ち放つ!


妹は大きな爆炎に巻き込まれ黒煙が辺りを突風と共に吹きすさぶ。


少しづつ煙が晴れ所々に日を残し状況がわかり始める。

生きているどころか跡形もなく吹き飛ばしてしまったのだ。

階級的に自動的に指揮官になってしまった自衛隊員は安堵のあまりに腰が抜けてしまい、操縦手にキューポラから顔を出して確認しろと命令を下す。


車内でヘタリ込み震える手をもう片方で擦りながら待っていると操縦手の悲鳴にも似た報告が無線機から届く。


『奴は生きている!!!!』


悪夢であった。



妹は平然としている。勿論だ。今の彼女を傷つけりる通常兵器のはこの世にはない。


燃えるような赤いミニスカートのドレス。リボンやフリルなどはなく軍隊の戦闘服を思わせるような機能性を重視したデザイン。

戦闘用に鉄板を仕込んだ真っ赤な軍靴。たなびくツインテールは聖火の如き紅。

しかし、その出で立ちは正しく夢の国の『魔法少女』。

少年少女の夢を守る 紅い魔法少女 なのだ。


戦車搭乗員達は恐怖におののき気がつけば手当たりしだいに戦車の武装をぶちかましていた!


弾砲が無数に飛び交い跳弾し辺りを穴だらけにし、ひとしきり弾薬を撃ち尽くす。

砲声が止みまだ耳の奥で低い耳鳴りが残り、静寂がもどる。

トリガーを何度も何度も引きなおすがもう弾はでない。

砲撃の熱で焼けた地面から煙が立ち上り視界を白く覆い隠す。


唐突にその白煙は引き裂かれ紅いドレスの魔法少女が姿をわざと戦車搭乗員に見せつける。


埃一つ付いてはいない。傷どころか衣服の乱れすらない。そよ風に吹かれたふうに立つその姿は本来、戦車が見せるべき勇姿であるのだ。


戦車搭乗員等は恐怖のあまり動けずにいた。自身を守る絶対の戦車の装甲が半紙の如く心もとなく棺桶の中にいるような心境で早く抜け出したくあるのだが今体を動かせばすぐにでもこの命が刈り取られる……そんな恐怖に身をすくめていた。


そうしている中魔法少女はゆっくりと息を吸うと地響きのようにのたまう。



『我は夢と希望を纏っている!!!!コレを討ち滅ぼす物はこの世には在らず!!!!!!!!!!!!!!』



一瞬時が止まったかのように思えるほどその場を圧倒した声。

たちまちに74式戦車からは戦意や恐怖などが消え失せまるで何も感じさせない石像の様に固まってしまう。


それを見て魔法少女は全身を光リボンで体を巻き付かせ覆い尽くすとその光をパチリと散らし変身を解除する。

荒れ果て荒野となった住宅街を見渡し少し眉をしかめると荒野に向かい投げキッス1つすると瓦礫の山は見る見るうちに元の姿を取り戻して行く。

薙ぎ払われ大破し駆逐された戦車達も元の位置に戻され今起こった5分間ほどの時間を無かったかのように元通り。


いくら損害が無くなったとはいえ自衛隊員達にもう彼女を攻撃する気力は残ってはいない。


そうして妹は学生カバンを手に取りスカートの埃をポンポンと払うと戦士の顔から暖かい笑顔へ。ニコリと浮かべて妹はのたまう。



「お兄ちゃんにおベントわたさなきゃっ!♡」




機甲師団は1度実質的に壊滅した。たった1人の女子高校生のために。

いや、壊滅するのは目に見えていた結果である。

何を隠そう。彼女は。妹は。この世界を救う最強の魔法少女となるはずであった選ばれし者なのだから。





【魔法少女の宿命】

ここは周りを山に囲まれ盆地に住宅街が密集した昔からある町。段の上町は近頃不吉な噂が飛び交っている。


「また現れたんですって!灰色の怪人!」


「まぁまたなの?…最近は物騒ね…隣町でも被害が相次いでいるのでしょ?」


「未確認な情報なんで学校も警察も何も動かないんですって」


「こんど保護者会議で題材に上がるべきかもしれませんね…」



灰色の怪人とはここ数年で突然に現れた謎の人物で、目撃状況はここ関東に収まらず関西にも出現が確認されている変質者であるのだ。

最初は1人の女子小学生が「灰色の肌の人に噛まれた」という話から始まった。


一糸まとわぬ灰色の肌を持ち目や鼻はなく異様に大きな赤い口を持っているのが特徴とされている。


はじめは少女が白昼夢をみたのであろうと一笑に伏したのだがそれが全国で被害報告が相次いだ事でこの事は大きく報道される事になる。

しかし警察機関は行動を起こすことはなく、国自体もその事を事件としてはおろか、存在を否定し報道することを禁止にまでしたのだ。

だが事実上の外傷を負ったのははじめの1件だけでその他は不自然なまでに傷1つ負わされていないのだ。まるで誰かに守られていたかのように。


そう、それこそが彼女達、『魔法少女』の役目なのである。



夕焼けに燃える校舎の屋上を奇妙で不気味な走り方の黒い影が通り抜ける。

軽やかに空中を蹴り、鈴の音に似た【リン】というような音を響かせ ピンク オレンジ ブルー

の衣装に身を包んだ可憐な少女たちがその影を追いかける。


「ブルー!私がアイツの足を止めるから援護をお願い!オレンジはトドメをさして!」


「わかりましたわ!ピンク!」


「あいよ!任せなよ!」



校舎の1号館から2号館の屋上に飛び移ろうとした瞬間にピンク色の光るリボンが校舎のアチコチから伸びてきて影の足や手の自由を奪い校舎の間にギチリと縛り上げた。


「ブルー!お願い!!!」


「いきますわよ!!はぁぁ!!!」


ブルーの掛け声とともに影の下から氷の柱が瞬間に出来上がりリボンで縛り上げられた影を完全にロックしてしまう。


「さぁて!僕の出番だね!そらよっと!!」


オレンジが高く飛び上がり太陽に手をかざすと炎で象られた氷柱の直径よりも大きな大槌を作り上げてそれを影めがけて大きく振り下ろす。


氷柱はあまりの光熱に気化し、瞬時にあたりを水蒸気が満たす。


ドシュゥゥゥゥゥゥウウウ!!!


次第に蒸気は晴れていき影が1号館と2号館の間の広場で倒れているのを確認するためにピンクら3人はそれぞれ屋上からスタリと飛び降りてくる。


「やったポっ!皆つよいっポ!」


どこからともなく現れた一頭身の獣耳が生え大きなしっぽを持った謎の生物が戦い終えた3人をねぎらう。


「さぁ!アイツのコアを取り出すっポ!」


そう言うとピンクとブルー、オレンジが互いを見て頷き、ピンクが影に近づいていく。


灰色の体色に目鼻は無く、大きな赤い口だけが目立つ灰色の怪人、


「…ネイスト」


彼女達、魔法少女は夢の国からやって来た妖精たちに力を借りてこの灰色の怪人達『ネイスト』を倒しそのエネルギーで崩壊しかけている夢の国を再建するのが彼女達の目的なのだ。


ピンクが魔法ステッキをネイストに向けると胸が沸騰したお湯のようにブクブクと泡立ち、その中からビー玉ぐらいの綺麗な赤色の玉が浮いてきた。


「ありがとうっポ!これでまた夢の国の復活に1歩近づいたっ

ぽ!」


そう言うと妖精は浮かび上がってきた赤いコアにものすごい勢いで近づき、その可愛らしい容姿とは裏腹に目を見開き大きく口を開いてビッシリと並んだ鋭い牙でコアをガリガリと噛み砕き食べてしまう。

コアを食べ終わると今度はネイストの腹部に噛み付くと腹を食い破りグチャリ!バキリ!と血肉を食べ始めた。

薄青の体色を返り血の赤に染めて食らいつく。


あらかた食べ終わると無残な姿のネイストを残して妖精が3人の方へと向き直るとかわいくプルプルプルと口の周りの目を小動物のような愛らしいものに戻すと下に俯き、背中に力を入れる素振りを見せると背中がバカリっ!と割れてそこから鮮血が溢れ、その中から粘液と血で濡れた子猫の姿に変化した妖精が現れた。


「…これだけは何度見てもなれないね…アハハハ……」


ピンクが少し引きつったような顔でいう。


「…気分がいいっポ…これで僕はっ………ブッ!!」


瞬間だった。空から赤いマントとフードに身を包んだ何者かが子猫型に変身した妖精の頭を薄桃色のシルク生地手袋で鷲掴み、そのままの勢いで握り潰した。


魔法少女3人の衣装は光の粒になり消え、元の制服に戻ってしまう。



「!? メッ!!メルポ!?」



ブルーとオレンジが悲鳴にも似た声で叫ぶとマントの人物は何事も無かったかのようにのたまう


「悪い事は言わないからこいつら妖精とはぜったいに関わらない方がいい…後悔したくないなら」


マントを大きく翻し3人に背中を見せる。

その時に見えたマントの中身は彼女らと同じ魔法少女の赤いドレス出あった。


「!? …貴方も魔法少女なの?」


ピンクが質問をするがマントの魔法少女は返事をせずに飛び上がりそのまま校舎の裏側へと姿を消してしまう。


その場に残ったのは握りつぶされたメルポの残骸と飛び散った血肉だけ。


「……ひっ酷いですわ!!…一緒戦ってきた仲間ですのに……!!私たちは……ヒック」


「……ボク達は何も…できなかった……」


残骸に寄り添い嘆くオレンジもブルー。しかしピンクだけは何か不思議な表情で妖精であった死骸を見つめている。


「ねぇ、ブルー!オレンジ!私達のネイストとの戦いって本当に必要なのかな……?」


「…!?何を言ってますの!?ピンク!!当たり前じゃありませんの!」


「そうだよ!ネイストは僕達の敵なんだ!!メルポだって言ってたじゃないか!!」


「そうだメッポ!!!!!!!!!!!!!!」


3人同時にメルポの残骸に向き直ると、その残骸はムグムクと動き出し骨を砕き肉を裂き中からは先ほどの一頭身ほどの獣耳の生物が血しぶきと共に這い出てきていた。


「ヒッ!?」


つい小さな悲鳴を上げたピンクを他所にブルーオレンジの2人は歓喜の声を上げながら血塗れの毛たまの生き物を惜しげも無く抱き上げる。


「よかった!!!メルポ生きてたのね……!」


「本当にやられちゃったと思ってボクもびっくりしたよ!!!メルポ!」


「……………」


「どうしましたの?……メルポ?」


「あんの腐れ魔法少女め……!!!!ハグレの癖に生意気なんだよ!!!!!!!!!!!!!!」


メルポと呼ばれる妖精はその無邪気な外見には似つかない俗世に汚れた老人の様な表情で赤いマントの少女が飛び去った方をジッと睨みつけている。


「「………ゾクゾクッ!!!」」


ブルーオレンジ共に凍り付く。

その圧倒的な憎悪の前に純新無垢な少女の心は氷点下の如く凍り付く。

抱きしめた愛らしい毛たまに感じる怖気。

今すぐにでもこの毛たまを他の奴に押し付けたい。それがブルーオレンジの総意であった。

……しかし、その怖気はすぐに消える。


「みんな!ありがとうッポ!……なんとか消えずに済んだッポ!!」


先ほどの出来事は一時の悪夢であったと誤解しかねないほど朗らかな雰囲気を放っている妖精。ブルーオレンジはあの事を幻であるのだと決めつけた。そうに違いない。自身達は少女なら誰もが憧れる魔法少女であるのだ。そのサポート妖精があの様なおぞましい表情や悪態をつくはずも無いと思い込んでいたからだ。


「よっ……よかっ…たよ!そうだよ!メルポがやられちゃったらボク達、夢の国を救えなくなっちゃうもんね!」


「そ、そうですわ!私たちは誰にも負けない魔法少女ですものね!ですわよね?!ピンク!」


「え……あ、うん……」


「よし!みんな聞くッポ!次の敵が決まったッポ!!」


「「「……うん!」」」


目を煌めかせ、妖精は自信満々に声を張り上げる。



『あのはぐれ魔法少女を“ 殺 す ”ッポ!!』



「「「!?」」」


魔法少女達の自信は一挙にして不安感へと変わっていく。

標的は同じ魔法少女。今しがたメルポを握りつぶした赤の魔法少女。


飛びさり校舎の屋上で町内を見下ろす赤マントの少女は一気にマントをほうりなげる。


炎のような赤いドレス。運動性を考慮した造りでフリフリや可愛いリボンなどは見受けられず、見た目には軍隊の戦闘服のイメージを受けてしまう。スカートから伸びる白い脚には生傷が目立ち戦闘用の鉄板入りの真っ赤な軍靴を履き、シルクの手袋は元の色はピンクであると言うのに返り血で真っ赤に染め上げられている。

ツインテールで結くくった赤髪は燃える松明の如く風になびき青い空に映える。

そしてその正体は………。



今朝戦車の大軍を生身で退けて見せた妹である。




この物語は愛するお兄ちゃんを様々な危険から守る魔法少女、妹の奮闘記である。

しかし、この物語に希望を求めることなかれ。朗らかを求めることなかれ。救いを求めることなかれ。


汝にもたらすは修羅の伝記である。







いかがてしたか?

これからも妹の物語はつづきます。

どうぞご期待下さい。

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