山神深音と再会
改稿が遅くなってすみませんでした<(_ _)>
これからは週に2~3回投稿していきたいと思います。
この次の話で入学編が終わる予定になっていますので、山岳競技編にそろそろ転換していこうかと思います!
よろしくお願いします。
12
わたしたちタカ高生が来た掬水公園は、わたしの想像をはるかに超えるぐらい大きかった。男の子と落ち着いて話せる場所を探して歩いていると、いつの間にか公園の端まで来ていて、驚く。
木々で鬱蒼としていて、近くにある東屋もボロボロ。明らかに不穏な雰囲気が漂っているけど、まあ、わたしは何故か山の中で道を覚えることが得意なので、問題ないと思う。
「お、おい。山神? お前、集合場所に帰れるのか? すげえ遠いとこに来たんじゃないか?」
「んー、たぶん大丈夫! わたし、どんなに道を外れても、山の中だったら迷ったことないんだよ」
「なんだその、良く分かんねえ自信……。ってか、お前、俺に何の用があるんだ?」
実は先輩に頼まれていたことがあったのだ。先輩は無理にしなくていいとも言っていたけど。
というのも、男子の新入部員を一人入部させたいとのこと。
わたしもほとんどのクラスメイトに頼んでみたけれど、それでももうみんな入部し終わっているみたいで、打つ手がなかった。それが、今日ふとこの男の子のことを思い出して、勧誘してみようと思ったのだ。遠足中に会えない可能性もあったけど、こうして話をすることができてよかった。
この件に関して部活のみんな、いろんな教室を走り回って手を尽くしているようだから、わたしも少しくらい助けになりたい。
まだ不安そうな顔をしている男の子に向き直る。
「えっとね、あなたって部活入ってる?」
「は? ……入ってねえけど」
「それじゃ、突然だけど男子山岳部に入ってくれないかなっ! この際名前だけでもいいから!」
男の子はいぶかし気にわたしを見た。こんな時に言うのもなんだけど、この一週間そこら、同学年の男子の顔を見て来て思うのは、この男の子はすごくかっこよかったということだ。だから、そんな顔で見つめられると、わたしもしげしげと眺め返してしまいそうになる。
「はあぁぁ? 時期も時期だしお前んとこの部活、廃部になんの?」
「そんなわけじゃないんだけど……、その、山岳部にも大会があって、四人で一チームなの。男子は一年生が一人入部したんだけど、全体で三人しかいなくて……」
「それで、もう一人入部する奴を探してるってか。あーそういうの、俺全部断ってんだよ。お前、そもそも学校に来ないやつが部活の、しかも大会に出られると思うのか?」
「う、でも、大会にエントリーするには四人の名前がいるらしくって……。だから、名前だけでもいいの! ……む、無理かなあ……?」
やっぱりダメだろうか。望み薄なことは最初から分かっていたけど。
この男の子が無理なら、わたしはもう諦めるしかない。
じっと、“お願い引き受けてくださいの念”を込めて見つめる。男の子も困った、希望的観測で言えば、迷っているような表情をしている。
一拍置いてため息が聞こえた。
「――名前貸すぐらいなら、構わねえけど」
「……ほんとに!? あ、ありがとう、先輩も喜ぶと思う!」
男の子はまた、いぶかし気にわたしを見てくる。
「なんで、そんなに必死なんだ? 入部者が少ないなんて、男子の部員がどうにかすればいい話じゃね。お前が頑張る必要なくない?」
「うーん、そ、そう? でも、入部した一年生も先輩たちも、一生懸命だから。わたしにできることが偶然あったから、手伝おうとも思うし。結果、あなたが仮入部してくれることになって、みんな幸せだよ!」
「良く分かんねえや」
「そうかなあ」
男の子はしかめっ面で、長めの髪の毛をかき上げた。そういえば、前も髪をかき上げる仕草をしていたなあ。それがこの男の子の癖なのかもしれない。
「――仮入部っつっても、俺も山岳部に顔出してもいいんだよな」
「え? そりゃ、もちろんだと思うよ。あっ、活動もする気になった!? いいことだよ、部活一緒にやろっ」
「別に。気が向いたら行く」
「あのね、それじゃあ、さっそくミーティングが金曜日にあって……」
男の子はさっきから手でいじくっていた時計をちらりと確認した。
それから、バッとわたしの方を向く。
「お、おまっ、やべえぞ。もう集合時間だ!」
「えええ、は、早くいかなきゃ。あなた、道分かる?」
「お前さっき分かるとか言ってたのは嘘か?! 俺はさっぱり分かんねえよ!」
「嘘じゃない! わ、わたしは分かるよっ、こっちだよっ」
二人して走り出す。
わたしはなんとなく山が導いてくれる方へ足を向ける。そんなアバウトでいいのかという問いは、問答無用。わたしはこれで今までやって来たんだ。大丈夫。たまに、山がこっちだよって言っているように感じることもあるぐらいだ。その“感じ”が外れたことはない。
「あーもう、お前に懸かってっからな」
後ろから声が聞こえた。
公園、というか、ほぼ森のなかを数分走って、開けた景色が見えて来た。見えるのはいーちゃんと沙良ちゃんと、それから隣りのクラスの男の先生だ。いーちゃんたちは急かすように手を振っている。
「ね、ごめん、最後に一個だけ教えてっ。な、名前なんだったっけ……」
「伊堺浩太郎! ――最後まで調子狂うやつだったな……」
浩太郎!
そういえばそうだった!
非常にすっきりした。いーちゃんたちがいるところに着いてから、先生にお小言をもらったけれど、全部機嫌よく受け流せるぐらいすっきりした。
遠足はこの掬水公園からふもとの駅まで降りて終了。浩太郎はすぐにクラスメイトのところへ行ったけど、わたし達三人と何故か隣りのクラスの先生は一緒に楽しく騒ぎながら山を下りた。