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山の女神  作者:
山神深音と都会の学校
7/10

山神深音と愉快な友人

    9


「あ、深音、山岳部に決めたの?」

「うん。実は前から入ろうと思ってたんだけどねー」


 体験入部の次の日、教室は誰が何部に入るかでみんな盛り上がっている。

 クラスで仲良くなった女の子たちは、たいてい中学校の時と同じ部活に入るようだった。それ以外にも、中学に無かった部活に入る子や、この辺りの中学校には無い、所謂“マネージャー”という選択肢もあるようだ。


「そうなんだ。あたしは軟テニかなー」

「テニスってなんか、かっこいいなあ」

「そう? ……ところで、この深音の後ろの唸ってるのは何?」

「いーちゃんだよ」

「この郁をいーちゃんって、えらく可愛いあだ名を付けたね。それで、なんでこんなに悩んでんの? こやつは」

「うーん、いーちゃんはバレー部か山岳部で迷ってるみたい。わたしは山岳部に入ってほしいけど、バレーするいーちゃんもカッコよかったからなあ」


 紗良ちゃんは、もとからいーちゃんの友達だったみたいだ。

 紗良ちゃんとはわたしが遅刻した日に友達になった。くせっ毛の髪を下ろしてふわふわさせていて、そばかすがある顔とたれ目によってちょっと外国人にも見える女の子だ。スレンダーで綺麗だけど、いーちゃんと似たような喋り方をしている。ようは、きりっとした性格だ。

そんな紗良ちゃんにいーちゃんと遊びに行ったことを話すと、驚いていた。いわく、そんなキャラじゃないのにわらわら、らしい。


「はぁ。山岳部、そんなに良かったの? 郁」


 振り返ると、ぐっでーっと机に突っ伏した頭が見えた。括っている髪の根元に、おそろいのリボンが見えて、むふふっとわたしは嬉しくなった。わたしもあの日から毎日おんなじリボンで髪を括っている。

 いーちゃんの頭がプルプルふるえる。そのたびに、ポニーテールも揺れる。


「……なんか、たのしかったのよねー……。ああああ、バレー部に入っても楽しそうだけど、なんかその楽しさとは違うかったのよー。どうしようどうしよう」

「あんた、そんなキャラだった? なんか、あたしはもっとガツガツ運動やりこむ系の女だと思ってたんだけど。何、どんな心境の変化なわけ?」

「はぁ、それがさあ……。あたしも、自分はそういう性格だと思っていたのよ? でも、深音の楽しそうなとことか、先輩たちの仲良さそうな様子とか見てたら、山岳部もアリかなーって……。でもでも、やっぱり部活は全力で出来るところがいいじゃない。ああーっ、どうしよっ」

「ふうん。そう。ま、バレーは中学でやってたわけだし、新しいことにチャレンジしてみるのもいいと思うけど」

「うんうん、そうだよ! いーちゃんが山岳部入ってくれたら、わたし、ちょー嬉しいし!」


「うー、ううう。……出来るなら、もう一回体験入部したいわ……」


 買い物に行ったいーちゃんも、一緒に体験入部したいーちゃんも、どっちも頼もしいお姉さんに見えたけれど、今のいーちゃんはわたしと同じ高校生に見えた。実際高校生以外の何物でもないけれども。

 紗良ちゃんには、やっぱりわたしにするのとは違う喋り方で、長い時間の信頼のようなものを感じる。

 いーちゃんは突然顔をあげた。


「み、深音ぉー、あなたが山岳部に連れて行ったから、だからあたしは迷ってるのにぃ。もうちょっと真剣に付き合いなさいよ!」

「え!? わ、わたしのせい? わわわたし、真剣だよ! いーちゃんに山岳部入ってほしいし!」


 隣りで、紗良ちゃんがため息をついた。


「深音も深音で天然だわ……」

「ええっ、紗良ちゃん? 天然って、確かに山育ちだけど、そんな野生児みたいな言い方、ひどいよお」

「はあ、どっちもたいがいね……」

「ちょ、深音と一緒にしないでよ! あたし、全然タイプ違うし!」

「い、いーちゃん、そんな風にわたしを……。しょっく」

「もう、なに。この二人。郁はさっさと入部届を書きなよ」

「え、うんっ。っていうか、深音、あたし何も深音が変とか思って言ったわけじゃないの! ただ、性格が全然違うと思っただけよ」

「そう? うう、いーちゃん、じゃあわたしと山岳部入ってーっ」

「……」

「……あーっもう、いいわよ、山岳部入るわよ!」

「ホントに! やったあーっ」

「なかなかやるわね、深音……」


 紗良ちゃんはなんでか、呆れ顔だ。真剣なわたしの説得劇だったのになんでだろうか。

 いーちゃんはいーちゃんで、悩ましい顔をしている。


「ほんとは、まだ迷っているのに……」

「郁、あんたこんなに一緒にやろうって言ってくれてるんだし、いいじゃない。それに満更でもないんでしょ。ほら、合わなかったら、転部すればいいし」

「転部は気に食わないから嫌だけど。……あたし、確かに新しいことやってみたいし、そうよね」


 いーちゃんは悩ましい顔のままだけれど、苦笑いしている。


「最初は体験には行くだけで、バレー部に入ろうと思ってたけど。あたし、山岳部に入るわ。深音に流された感あるけど、体験してから、本当にすっごく迷ってたから。バレーは確かに楽しいし、経験もあるし。でも、昨日山岳部の先輩たちがわいわい喋ってのびのびしてるのを見て、ちょっと憧れたの」


 言葉を切って、いきなりわたしの手を掴んだ。


「どれもこれも、深音が山岳部に連れて行ったせいよ。一緒に楽しまなきゃ、許さないんだから!」


「ええええっ。――っふふ、いーちゃんってつんでれ・・・・?」

「深音、そう。郁は昔からこうだったから。ツンデレな時は満更でもない時なのよ」

「ふふふ、へへ」


「もーっ、深音、覚悟しておきなさいよ!」

「うん、へへ、覚悟しとくから、一緒に楽しまなきゃね」


 いーちゃんは最近ねっとで知ったつんでれ属性らしい。

 きっと、いーちゃんとの山生活は楽しくなるだろう。

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