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山の女神  作者:
山神深音と都会の学校
5/10

山神深音と山岳部室

深音といーちゃんが思っていることは、実際に私や友人が感じたことです。

しかし、感じ方には人それぞれ違いがあるので、「こんなこと感じたことないんだけど……」という全国の山岳関連の方がいましたら、ご容赦ください<(_ _)>

また、私は高校時代山岳部でしたものの、山岳のプロではありません。あくまでも、高校生の深音の一人称小説としての体裁をとっておりますので、技術や道具は現実の山登りの参考程度にとどめていただくようにお願い致します。

    5


「いーちゃん、ここ、ホントに山岳部かな……」

「わ、わからない。ちょっと、荒れてる、わね……」


 バレー部も体操部も、楽しいと言えば楽しかったが、やっぱり本命は山岳部だ。遅くなると聞いたので、きっと山に登りに行くのだろうと思う。

 だがしかし、その前に一番確認したいことができた。


「ここ、倉庫じゃないの……?」


 いーちゃんと顔を見合わせる。案内に書いてあった体験入部の場所は、一応山岳部と書いたぼろぼろの段ボールが壁についているものの、どうにも倉庫にしか見えなかった。

 というかもはや部活の部室棟でさえなく、教室棟の四階で、学校の校舎内の余ったスペースをコンクリートむき出しのまま部屋にしたようなところだ。誰もいなかったので中に入ると、丸出しの太い配管がぞぞぞぞっと音を立てていた。


「たぶん完全に倉庫だと思うよおー!」


「う、おおおおお、お!? ……お?」


 急に声が聞こえてビックリ。驚いた拍子に振り返った。


「ははは、驚かせちゃったかな?」


 ちっちゃい生徒がいる。メガネがでっかくて、目がちんまりした生き物がいる。

 わたしは一瞬何が起こったのか分からなかったが、すぐに我に返った。


「あ、ここって、山岳部の体験入部ですか……?」

「そだよー。あ、君たち体験入部の子?」

「え、あ、はい」

「そかそか! ぎひひ、ここが部室だと思ってビックリしてたでしょ……。それはだいじょーぶ、部室は別だよーん!」

「そうなんですか? でもここが体験の場所だって……」

「うん。倉庫を選んだのには訳があるのだよ、ザックを持ってくっていうね!」

「はあ。……ザック?」


 どうやらすごくハイテンションなちびっこは、先輩のようだ。

 会話の途中、わたしには耳慣れない言葉が聞こえた。いーちゃんと二人で首をかしげる。

 先輩はわたしたちが首をかしげたのをにやにやしながら眺めている。


「ザックって、なんだと思うー?」

「……それって、山登りに使う物なんですよね?」

「もっちろーん! ほらほら、勘でいいから言ってごらん」

「いーちゃん?」

「……なによ。あたしも分からないわ」

「うーん、靴はサイズがあるし、服も汗かくし、帽子……はそんなに曇ってないからいらないだろうし……。他には……」

「ふむふむ?」

「他には……」

「うんうん?」

「……」


 分からない。わたしは山に登るときになにか特別なものを持って行ったことはないから、いったい何が必要なのかまったく分からない。

 しばらく黙っていると、いーちゃんが息をのむ声が聞こえた。


「分かった! リュックのことですか?!」

「ピンポンピンポーン! そーだよ、リュックのことだよ!」

「……かばん? 山にそんなもの持っていくんですか?」

「うん。リュック――ザックは山岳部員の相棒だよー。商売道具ともいえるね!」

「へええ、わたし、山にかばん持って行ったことなかったです」


 先輩は限界まで目を見開いている。どうしてだろう。


「う、うそだあ。だって、飲み物とかどうするの? 手持ちでいったの?」

「……川の湧水飲んでました」

「そういう選択肢があったか……。うかつだった」


 確かに、飲み水が確保できない山では水筒を持っていかなければならない。なるほど。


「ま、それはいっかあー。ちょっとこっち来てみてー」


 先輩が歩くのについていく。

 倉庫というだけあって、たくさんの見慣れないものが乱雑に置かれている。その合間を縫って奥に入った。


「ザックっていうのは、これのことだよ」


 先輩の指の先には、いかついリュックが置いてある。しかも十数個も。どのくらいいかついかと言えば、そうだな、わたしの胴体ぐらいの太さと高さがある。決してわたしは胴長短足ではないけれども。いーちゃんはその大きさに引き気味だ。


「で。でかい……。すっごく重そうね……」

「まあね。でも、ほとんど空のペットボトルだよ。君たちはねー」

「そうなんですか?」

「そ。さあ、早くしないと日が暮れちゃうから、とりあえずザックを背負ってみて」


 わたしもいーちゃんもザックを背負ってみる。意外と軽いけれど、やっぱり何か入っているみたいだ。

 先輩に言われて、腰辺りについているベルトを締め、肩のひもを調節した。どの箇所もがっしりした造りで安定しているし、腰のベルトは結構ふかふかなので身体にフィットする。肩の部分も腰と同じように厚みのある素材で包み込まれるようだ。

 なんだか、いままで使っていたリュックがバカバカしくなるぐらい背負い心地がいい。


「どう? 肩とか腰とか痛くない? はじめは大丈夫かもしれないけど、ちゃんとあってるザックじゃないと、身体を痛めるからね。なにか違和感があったらすぐに言うんだよー」

「大丈夫です!」

「ええ、あたしも大丈夫です」

「うんうん、ちなみにそのザックには六キロの水が入っていまーす! でも安心してね。私が持つザックには十三.五キロの水が入ってるから!」


 いーちゃんは絶句した。わたしはというと、斬新なトレーニングにビックリした。


「そ、そうなんですか。すごいですね」

「ん? 大丈夫だいじょーうぶ、君たちも、もし入ったら最終的にはここに行き着くから! 人間、結構何でもできるものだよ」


 先輩がリュック―ーザックを背負ったまま倉庫を出ていく。

 三人で足早に一階まで降りて、外に出る。

 日は傾いているものの、思ったよりも遅い時間じゃなかったようだ。すぐ目の前にあるテニスコートの横の時計は、四を指していた。


「今更だけど、君たち、山に登れる服装だよね? 体操服、まあいいか。そんじゃ、タカ高の山岳部が毎日登ってる山、高央山たかおやままで、いっちょ行きますか!」

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