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山の女神  作者:
山神深音と都会の学校
3/10

山神深音と都会散策

このお話で出てくるお店や、商品名はすべて実際の物をもじって名付けています。

わたしが実際行かせてもらっていたお店やブランド、商品なので、興味がある方は考えてみて下さい!

    3


「はえー! すごい、高い!」


 わたしは今、タカ高のある街、林原はやしばら市のシンボルタワーの最上部にいる。すごく高い! 田舎で一番高かった役所よりももっと高い!


「あはは、深音って反応が大げさねえ。いまどきシンボルタワーぐらいどこにでもあるわよ」

「えー、うそだ。こんなのがいっぱいあるの?」

「いっぱいは無いけど……、おんなじぐらい高い建物は結構あるし」

「すごい、すごいよー!」

「あっはは、楽しそうでよかったわ!」


 織木郁ちゃん、もとい、いーちゃんは誇らしげに街を紹介してくれる。なんだか、自分の街に自信を持っているようで、カッコいい。

 わたしもここは自分の町ですって誰かに紹介してみたいな。わたしの田舎なんて、たっかい山ぐらいしか見るところがないから、町を自慢なんて到底できない。するなら、山を自慢だ。

 わたしが十分満足した後で、次はいーちゃんおすすめの雑貨屋さんに連れて行ってくれることになった。雑貨屋さんって響きがオシャレだ。今日だけじゃ、服屋さんとかモールとか、全部は回れないようだから、また今度遊びに行こうという話もしている。

 ちなみに、いーちゃんにいーちゃんというネーミングをしたのはわたしですよ。可愛いと思うんだけれど、いーちゃんにはセンスがないと言われた。残念。


「深音の家って遠いんでしょ? 早く回らないと、今日のプランを完遂できないわよ」

「う、うん! でも、独り暮らしだから大丈夫だよ」


 勇み足ないーちゃんがわたしを急かしてくる。

 そんないーちゃんの袖を引っ張る。わたしはゆっくり回りたいと思って、引き留めた。

 のんびり行きたいと伝える。


「いいわよ、深音を案内してるわけだし、深音がいいなら。って、独り暮らし? てっきり、家族で引っ越してきたんだと思っていたわ」

「違うちがう、独り暮らし」

「いいなあ。わたしも大学生になったら、独り暮らしするって決めてるの。でも大変でしょ?」

「うーん、大変だけど、わたしのマンションは結構楽かも。朝にクリーニングの箱に洗濯物入れておけば、次の日までには綺麗にしてくれるし、一階に食堂があって、ご飯も作らないでいいし、楽だよ!」

「そのマンション、すごく家賃高いんじゃない?!」

「わかんない。でも、田舎の娘が独り暮らしできるぐらいの値段だと思う」


 いーちゃんはびっくりしてるみたいだけど、わたしが住んでいるのは普通のマンションだ。マンションだと思う。もしかしたら、もっといい言い方があるのかもしれない。

 あ、立ち止まった。いろんなお店が軒を連ねている一角に建っている木の家が、どうやらいーちゃんの目的地らしい。都会にはお店がいっぱいあって感心する。わたしも可愛い服が買ってみたい。


「そ、そうなの……。あ、見て見て、ここが雑貨屋さんのマウンタニアよ」

「ま、まうんたにあ? マウンテンみたいな名前だね」

「まあね、ここは山の道具を売ってるお店じゃないけど、隣りの店は山用品店なの。だから隣りにちなんで名前を付けたのかなーって、噂になってたわ」


 マウンタニアっていい名前。わたしは山が好きだから、ついつい山に関係しているものも一緒に好きになってしまう。

 うーん、山岳部に入ったら山の道具とかいるのだろうか。そうだったら、見てみた方がいいかな。


「へえー。ね、こっちのお店のあとに、隣りの山道具屋さんに行ってもいい?」

「いいけど、深音は山に登るの?」

「山用品っていうのは買ったことないけど、山には登ってるよ! こっちに来てからは、山に行くまでに迷子になるから登れてないけどね……。わたし、タカ高で山岳部に入るつもりなんだ」

「そうなんだ。いいわよ、後でそっちも見てみましょ」


 話しながらマウンタニアに入って、雑貨を見る。いーちゃんいわく、レトロなものが置いてある店らしい。くすんだ金属の棚とか、壁に掛けるタイプの植木鉢とかが置いてあって、わたしの部屋にも置きたくなる。

 いーちゃんは小物が置いてあるコーナーで、髪飾りを見ているようだ。やっぱりオシャレ。わたしも可愛いものは好きだけど、普段の生活ではたぶんすごいずぼらだと思う。なんというか、面倒というか。何日か張り切って服を選んだりしても、すぐに選び疲れて元の楽なTシャツとズボンに戻ってしまう。うん、こうして考えるとやっぱりずぼらなんだろう。

 いーちゃんの近くに行くと、いろんな髪飾りを合わせられる。

 なかでも、いーちゃんは皮っぽい材料でできたリボンを気に入ったようだった。

 赤と青のリボンを手に持ちながら、こっちを見てくる。


「ねえ、深音、この髪飾りおそろいにしない?」

「お、おそろい」

「あ、嫌だったらいいのよ。ほら、深音も肩まで髪、伸ばしてるし。今は下ろしてるけど、髪を括っても可愛いと思ったの。それに一緒に遊んだ記念にね」

「嫌じゃない、嫌じゃないよ。 誰かとおそろいって、なんかJKみたいだと思って感動した。おそろいいいよ、とっても!」

「そう? よかった。ふふ、初めて遊んだ記念日ね。なんか女々しいけど、いいわよね、だって女の子だし。深音はじゃあ、赤のリボンでどう? 髪の毛、茶色っぽいし」


 結局色違いでリボンの髪飾りを買うことにした。いーちゃんいわく、わたしの髪の毛は色が薄いから赤が似合うそう。いーちゃん自身の髪はさらさらの黒色で、確かに青が似合っていた。

 会計が終わって、隣りの店に移る。

隣りのお店の名前はフィールド・ベルと言うらしい。

 店に入ってびっくりしたのは、壁がクライミング仕様になっていることだ。なんだか、異世界のよう。


「そういえば、山岳部に入るって言ってたわよね。あたし、まだ入る部活を決めてないの。どうして山岳部に入ろうと思ったの?」


 二人で水筒のエリアを見ていると、いーちゃんが質問してくる。


「わたし、中学で部活やってなかったから、他の部だとついていける気がしなくて。運動部に入りたいんだけど、経験って大事じゃん?」

「まあそうね。でも、山岳部だって一緒じゃない? 山に登るって、そんな頻繁にすることじゃないし」

「そうかなあ。わたし、田舎では毎日近くの山に登ってたし、他の部活よりはなじみやすいかなあって」

「普段から山に登り慣れてるなら、そうかもね。あーどうしよ、あたしも山岳部に入ろっかなー」

「えっ、それ本当に考えてる? いいよいいよ、一緒に山岳部入ろ!」

「でも、まだ迷ってるの。あたし、中学ではバレー部でさ。せっかく三年間やってきたから、もったいないなって」

「そっかー。でも、見学には一緒に行ってみない? いーちゃんがバレーしてるところも見てみたいし、一緒に山岳部に入るのも嬉しいし。えへへ、考えといて」

「そうね。あたしの友達も山岳部に入るか迷ってるみたいだったし、考えとくわ」


 話しながら水筒を見ていると、なんだかすごい形のものが目に入った。へにょへにょで、空気を入れる前の浮き輪みたいなのに、ほそーいホースがついている。


「いーちゃん、これ見てー! これ、水筒なんだって。このホースから、水を吸うのかなあ」

「へえ、このプラスチックの部分に水を入れて、ホースで吸うようになってるのね。面白い」

「こんなの使ったりするのかな?」

「さあ? 見学に行ったときに、聞いてみましょ」

「そうだね!」


 一通り見てから、何も買わずにフィールド・ベルを出た。

 靴はすごくがっしりしていてカッコよかったし、カッパもしっかりしたつくりで防水性抜群っぽかったけど、結構高かった。靴もカッパも市販の数千円のものが十個二十個買えるぐらいの値段なのだ。いや、さすがに二十個は言い過ぎかもしれない。

もしも、山岳部で必要になったら買うだろうけど、ちょっと趣味で使うには高いと思う。わたしはそこまで懐に余裕がある訳じゃない。まだまだ、家の中を整えるのにお金がかかりそうだし。


「結構、値段高かったね……」

「うん。でも、バレーでもユニフォームとか数万円はくだらなかったし、結構かかったから、まあそんなものなのかも」

「そうなんだ。まあいいや、じゃ、次のお店にいこー!」


 フィールド・ベルで何も買えなかったのは残念だけど、その後もいろんなところに連れて行ってもらって、楽しかった。いーちゃんはやっぱりオシャレさんみたいで、そのあと行った服屋さんで何着か買っていた。わたしもこれから街中を歩くんだったら、可愛い服があった方がいいなあ。今度、いーちゃんに選んでもらいたいな。

 わたしたちは日が暮れてきてから、解散することにした。慣れない町で疲れたけど、満足。


「今日は楽しかったわ。また明日!」

「うん、また明日。明日から部活動見学だから、一緒に見てまわろーね!ばいばーい」

「了解。じゃ、バイバイ」


 明日が楽しみ。

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