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Ingen historia av namne<<名前のない物語>>vol.2  作者: リナ
シルフとノーム
26/27

Desolate valley<<荒れ果てた谷>>

間が空き大変申し訳ありません。

少しずつ上げていけそうな環境に落ち着きました!

これからもよろしくです

Desolate(デッソレイト) valley(ヴァーレィ)


 雲を抜けるとそこにはゲルンが箒の上に立って深呼吸している。



「本当に久しぶりだなぁ♪ココ。」

 箒の上に立つゲルンは懐かしげに周りを見渡す。


「……こんなに荒れちゃって。前はこうじゃ無かったのに。ノームか。でも、ここにどうやってノームが入り込んだのかな?ノームの地脈からはかなり外れてるはずだし……。」

 首をかしげながら彼女は思考を巡らせる。


「外部からの侵入者が地脈をつなげたとか……そういう事かなぁ。」



 少女と夢馬、二人の悪魔が遅れて到着する。

「…お待たせ…」

「お待たせ!」「お待たせ?」

「んー……違うな……ここじゃない。ここは?……ここも違うと。どこだろ?」

 ゲルンは親指と人差し指の指先をくっつけて丸を作りそれを覗き込みくるりと周囲を見渡す。

「…ルン?…」


「あ、ごめんごめん。探し物をしてて。お疲れ様♪大丈夫?」

 三人と一体は一斉に首を縦にふる。

「とりあえず、キライを探そうか。それと、ダナエとだね。」




「私を呼び捨てにする?普通。」

 頭上からゲルンに話しかける人影。


「ダナエ様!」「ダナエ様?」

「あ、ごめん。いや、無礼だったね。えーと、ダナエちゃん。」


 ポカンと口をあけている元魔王。

「……ちゃん?……ちゃんなの?そう……か。ちゃん……ま、いっか。改めて、ダナエだよ。あの夜ぶりだね。」

「そうだね。ボクはゲルンだよ♪よろしくね。」


「まぁ冗談はさておき、呼び捨てで構わない。」

「そ?ちゃんも、可愛いと思うんだけどなぁ。」

「ちゃんて年齢じゃないからね。それにしても元気そうで何よりだよ。」

「まぁ、そこの二人に助けてもらったからね。」


「ま、世間話はそこまでかな。ヴィット、キライなんだけど。」

「…?…」


「いま、前線で治療を受けてる。」

「…なにがノームに?…」


「いや……。」

「コメダの兵かな。」

 目を丸くするダナエは一瞬の停止の後頷く。

「シルフの回復術じゃダメなんだ。」

「…どういうこと?…」


「呪いの類さね。」

「…呪い…」

「いや申し訳ない。アタシが、着いておきながらあの子に傷をつけさせた。不甲斐ない。アタシでも呪いを解呪することができなかったさね。」

 口数の少ないアナがダナエ肩から声を出す。


「死んじゃいないが、いつ状態が変わるかわからない。」

「…アナ…私をキライのとこに…」


 アナがヴィットの夢馬に乗ると指示に従って夢馬が動く。

「ボクは少しダナエちゃんと話があるから、先に行ってて♪」

「タルウィ、ザリチェ、二人は付き添ってあげて。」

「わかった……!」「わかった……?」

 二人の悪魔が泣きそうな顔で夢馬の後を追う。



「さて、私と話があるって?」

「うん。……これのはなしでね。」

「そっか。うん。……わかった。」




「…ね、キライを凍らせたら…?…」

「乱暴なこと言うさねアンタ。多分、ダメだと思う。むしろ逆効果さね。かかってる呪いはあの子の血を少しずつ減らしていくってもんさね。とりあえずはまだ減っていく血は少しだから息はあるんだけど……。」

「…呪いを解く方法は?…」

「……。」

 アナが黙り込んでしまう。


「…そう…」

 沈黙が答え。そういうことだろう。

「でも、すぐに死ぬって決まったわけじゃないさね。安静にして、ちゃんとしてれば……。」

「…その状態で…安静にすると思う…?…」

「確かにあの子だったら無茶しそうな気がするさね。またまたミスったさね。急いでキライのとこ行くよ!とりあえず、ノームと法国の兵士は押し返したけど、前線さね!気を引き締めな!タルウィにザリチェも、相手は人間だけじゃなく、精霊もいるんだ。遊び気分だったら怪我くらいはするさね!」

「わかった!」「わかった?」

 ヴィットは静かに頷き、彼のくれた腕輪をちらりと見て彼が無茶をしていない事を祈る。







「さて、ゲルンだったね。これだけ離れれば聞こえることはない。」

「気遣いありがと♪助かるよ。」


「……で、どうしたいんだい?」

「もちろん。元に戻る方法を知りたいかな。……さすがにこのままみんなの所に帰れないよ。」

「そんな方法はない……と言ったら?」

「その時は姿を消すだけだよ。」

「まったく、そんな事したらあの子達はどうするんだい?そもそも、そんなことを気にする奴らじゃないだろ?」

「……そんなの、何とななるよ。で、答えは?」

「はぁ。……ない事もない。心からそうなったわけじゃなさそうだからね。」

「そう。……それならよかった♪」

「ただし、……。」

「その為になら悪魔にでも魔王にでも心を売るよ♪」


 少し考えるダナエ。何度か頷くと、

「ん。簡単じゃないよ?」



「いいから……教えて。……教えなさい……教えなさいよ!!」

 怒声。悲鳴。どちらとも聞こえる声をゲルンがあげる。

 彼女の頬を涙が流れる。



「落ち着きなさい。……わかってる。わかってるから。」

 睨みつけるゲルンの目をダナエはまっすぐに見る。


「今すぐは無理だよ。今日は月が出てないから大丈夫だけど満月の夜には気をつけなさい。自我で何とかならないかもしれない。わかったね。」



「……。わかった。具体的にはどうすればいいの?」

「口にするのは簡単だよ。……クラップスを殺しなさい。それだけ。」

「クラップスを……ね。確かに口にするのは簡単だね。」

「彼女の居場所は?」


「……探してみる。けど、今すぐ手を出さないって約束なさい。あの子の力が必要になる。それと、キライのね。一つ条件がある。」

「……わかったよ。もちろん、条件にも従うよ。」

「あの子には伝えなさい。……協力が必要なんだ。仕方ないさ。」

「……っ。」

「なんだい?悪魔にでも、魔王にでも心を売れるんだろ?」

 少し考えるが、彼女は決意する。

「……わかったよ。あの子には言う。それでいいだろ?」

「よろしい。じゃ、急いで、片付けようか。」






「アナ!」

 キライが治療を受けているシルフの集落に駆けつけた所に妖精の大群が取り囲む。

「はあ。……どうやらアタシも焼けが回ってるみたいさね。冷静じゃなかった。謝ったって謝りきれないさね。キライはどこに行った!今はなんともないとしても、あのまま動いたら血が足りなくなるさね!シルフ共!あの子はどこさね!」

 アナは更に冷静を失い、シルフ達に詰め寄る。

「…少し頭を冷やして…」

 そう言うとアナの頭上に氷が生成される。



「…そう…やっぱり一人で突っ走ったね…」

 前のままであれば一人で動くなんてしなかった。前に比べてかなり自信がついてしまっているせいか、突っ走ることを覚えてしまった。


「何、沈み込んでるの♪」

 背後からゲルンがヴィットを抱きしめる。

「…いつの間に…」

「抱きつく2秒前さ♪」

「…うん…」


「まだ、死んだわけじゃない。そうでしょ?」

「…うん…」


「じゃ、行こ♪一人で行っちゃったお馬鹿さんを助けなきゃ。」

「…でも…」


「マスターにもらった腕輪がある♪それで行けないのかな?」

「…でも…キライを…」


「大丈夫。あの人の作った物だよ。行けるさ♪」

 ヴィットは腕輪に魔力を込める。


「じゃ、先に行くね♪ダナエ、アナも守りは任せるね!」

「…行ってくる…」

「アタシも行くさ……」

 言葉を遮るダナエ。

「ダメだよアナ。少し手伝って欲しいことが出来た。あの二人に任せておきなよ。なに、キライはまだ死なない。私が言ってるんだ。わかるでしょ?」

「わかったさね。……行ってきなさい。無事に連れ帰って……お願いさね。」



 とぷん。


 ……そんな音を立ててヴィットとゲルンは陰に沈む。




 …キライの魔力…

 …キライの魔力…



 ヴィットはそれらしい魔力を見つけてその元に駆けつける。








「まったく、結構厳しいもんですね。一人出過ぎましたか。」

 少年は岩で出来たゴーレムに囲まれていた。

「相性は最悪ですし。」

 ゴーレムの攻撃をすれすれで回避するが、風圧で体勢を崩すキライ。

「倒しても倒しても、復活するなんて……。」

 "双刃刀 嵐"を二つに分裂させてゴーレムに切り掛かるが、岩に弾き返される。

「……一体どころか三体ですもんね。」

 正面のゴーレムの体当たりを回避するが、その先に別のゴーレムからの拳が繰り出される。



 これは回避できない……。

 ここまで……。

 みたいですね。あー、怒られるでしょうね。約束も守れないで。


 少年は自身よりも大きな拳を目の前にクスリと笑い目をゆっくりと瞑る。


「あれ……。痛みもなく……死にましたかね。もっと、痛いのかなと……。」

「…キライ…あとで…氷漬けにするから…」

 最後に聞きたかった相手の声が聞こえる。……怒りが言葉の節々に含まれているのは気のせいだろうか?


 キライの背後からくすくすと笑う声がする。

「死ぬより恐ろしいかもね♪や、キライ元気かな?とりあえずボク達に任せて座ってなよ。」

「え?……ゲルンさん……でしたよね。よかった。無事だったんですね!」

「なに、さっきの君よりは死にかけてないさ♪さ、さ。瞬く間に終わらせてあげる。一体はヴィット。任せるよ。」


「なに言っているんですか。僕もまだ……。」


 一瞬でキライは氷に包まれる。

「…ルンさっさと…」

「……。ヴィット。ホントに怒ってるね♪」

「…別に…」

「少し妬けちゃうな♪さて、さっそく始めよう!!」

 すうっと息を吸うとゲルンの指輪が輝き、蔦と岩が彼女を覆う。……その姿は以前と異なる。以前彼女を包み込んでいたのは身を守る為の防具に近いものだった。今彼女が纏っているのは、刺々しく禍々しい。

「…え?ルン?…」

(ヴィット!)

 よそ見をしていた彼女をゴーレムの足が襲う。ヴィットはそれを見ずにゲルンを見たままに回避する。

(ちょっと!集中して!相手はゴーレムだよ!)

 ゲルンがニコリとヴィットに微笑むと頷いてナイフを構える。

 ヴィットはゴーレムの攻撃を回避しつつナイフを突き立てる。最初は普通のナイフで攻撃をしていたかがゴーレムの岩肌には効果はなく、ラップのナイフと交換する。そして魔力をナイフに通すとそれで切りつける。


「…硬い…」

 通常のナイフのような弾かれることはないが、明らかに刃は通っていない。

(ヴィット、ゴーレムの頭に魔核がある!)

「…魔核?…」

「そこを叩きなさい♪」

 木の杭が背後から飛来してゴーレムの頭に突き刺さる。


「…わかった…」

 ゴーレムの拳を回避して腕をつたって身体を登り、杭に踵を振り下ろす。杭は奥まで喰い込み、ゴーレムは崩れ落ちる。


「…助かった…ありがと…」

 そう言って振り返ると一体のゴーレムは身体中から植物を生やして活動停止している。もう一体は頭、ちょうど杭の刺さっていた部分に紅い花が咲き、ゲルンが肩に乗っている。


「ヴィット、孤児院で習ったよ?魔核は。」

「…忘れた…」

「そこらへんも勉強し直しだね。」

 クスリとゲルンはゴーレムの肩で笑う。

「この子はもう大丈夫。ボクが乗っ取っちゃったからね♪」

 ゲルンは紅い花を突く。


 ゲルンが深呼吸するとゴーレムの肩から降りる。そして……。

「さて、ヴィットに伝えなきゃいけないことがあるんだ。」

「…何?…」



「…嘘…」

「ホントさ♪まぁ、ホントは言わないでおこうかなって思ったけどどうしてもキミの力を借りなきゃ治せないらしいからね。」

「…だから…さっきの魔力…」

 少し驚いたが、ゲルンはゲルンであって別に気にすることではないとヴィットは彼女にそう伝える。



「……でもみんなには内緒にしておいて欲しい。多分、気がついているのはマスターだけだと思うから。内緒事は嫌いだと思うけど。」

「…いいよ…ルンのことだもん…私は…」

「ありがと。」



 彼女の眼には涙が溢れそうになっていた。

「さて、キライを解放してあげたら?凍らせてはいないんでしょ?」

「…凍らせても意味ないって…アナが言ってたからね…まぁ……手足だけ凍らせておく…って手もあるけど…」

 ふぅ……と息を吐くとキライにまとわりついていた氷が溶け落ちる。

「さ、寒いです。何するんですか……。」

「…うるさい…」

(キライは、虎の尾を踏むって知ってる?)

「リームシュークさん?……虎?」

 ゲルンが耳打ちする。

「ま、簡単に言うと、ヴィットはお怒りだって事。虎のほうが怖くないかもしれないけどね。」

 少年は言われてようやく彼女を怒らせたと理解する。


「ヴィットさん、その、」

「…別に…」

 必死に謝り頭をさげたが彼の言い分は全て無視された。




「…一旦戻ろ…アナが心配してる…」

「アナさんがですか?」

「いるかはわかんないけどね♪なんかダナエに呼び止められてたし。」

「…ゴーレムはどうするの?…」

「ん?連れて行くよ?ボクのにしたんだ。」

「…わかった…」

 クスリと笑うゲンルを見て全員を連れて影に潜り、アナやダナエの魔力を探る。





 ダナエ、アナ、タルウィ、ザリチェそしてクロケル。それに加えてシルフ達が円卓を囲んで議論していた。

「とりあえず、さくっと、あの子を治す方法はある。」

「なんだい?アタシでも解呪出来なかった呪を簡単に出来るっていうのかい?ダナエ。聞き捨てならないね!それこそ呪いをかけた相手を殺すとかしなきゃ、無理な話さね!」

 堕天使は思わず声をあげて笑ってしまう。

「なんだ、アナはわかってるじゃない?そんな簡単な方法がさ?」

「それはキライが黙ってないだろ?そんなの付き合いのほとんどないあんたもわかってることさね!あの子がそんなことをしたら自分の命をたつかもしれないさね!それに、相手がどこにいるかもかわからないっていうのにどうするさね!」

「んー、困ったね。私としては?ダナエのお気に入りを救えて、しかも!なんたって、あの国を壊滅させることができるんだ。私はいいと思うけど?」


「まさか、国ごと!?」

 思わずシルフ達が口を挟む。


「んー。出来れば国のトップと、呪術士に解呪させたいところなんだけど」

「だけど?」


「あんな高度な呪術を解呪できるかが疑問だね。それを考えると殺すのが手っ取り早い。それにあの子の育った国が狙われてるってわかったらあの子は拒否しないと思う。」

「大義名分ってこと?ふーん。人間も大変だ。」


「ま、今話したことはとりあえずキライに話すよ?」


 一同口を閉ざし開口するのはクロケル。

「おや、噂をすれば影ってかい?」

「そうさね!ヴィットが帰ってくるさね!でも、これはなんだい?不思議な魔術さね!魔術っていうよりも魔族の力に近いさね!」



 ダナエの陰からヴィット、キライ、ゲルンが出てくる。

「…みつけてきた…」

「お疲れ様、ヴィット。」

「……ご迷惑をおかけしてい……」

 謝罪前にキライが吹き飛ぶ。……アナが全力で飛びついた勢いを殺せずそのまま壁に激突する。そして、なにをいう間なくアナが彼を叱咤する。甲高い声で、金切声で。


「ええと。久しぶりだね。長老さん♪」

「翠の子か?ずいぶんと、大人びて!魔力の質が変わったのかい?」

「魔力の質に関しては最近の話だよ♪まぁ、そこには触れないでくれると嬉しい。」

「わかった。来てくれたその事実だけで嬉しい。」

「ええと、ボクは初見の方もいるし……。自己紹介させてもらうよ。ボクの名前はゲルン。ヴィットの仲間だ。初めてのアナちゃんと天使ちゃんはよろしくね♪」

「……私をちゃん付けで呼ぶのか?相手のことがわからない愚か者なのか?」

「いやいやボクにはわかってるよ?でも、それを言う方が愚昧も極まれりって思ったのさ♪」


「クロケルだ、覚えなくていい。……ま、それなりな戦力みたいだし。」

「…クロケル…久しぶり…」

「ヴィットは変わらずだね。」


「お騒がせして申し訳ないです。今後は気をつけます。」

「無事で何よりだよ。弟子入りした初めての人間が早速死んでしまってはつまらない。」

 申し訳なさそうに頭をかくキライ。そして頭の上を陣取ったアナはひたすらに頭頂部を叩き続ける。

「アナさん……痛いです。」


「さて、挨拶はここまでだ。これからやることを伝える。クロケル、ゲルン、ヴィットはコメダへ行き、法国軍を全滅させてきてくれ。」

「待ってください!」

「またないし、意見を取り入れることはない。」

 バッサリと意見を切り捨てるクロケル。

「そんな!なぜなんですか!」

「簡単な話だ。それが一番早い。」


「早いって!?」

「いや、ダナエちゃんの言うことは正しい♪きみは知らないかもしれないけど、あの国は」

「知っています……。ですが!」

「いいや、知らない事もあるんだ♪いま、法国は戦争の準備をしている。」

「戦争の……?」

「手始めは、ボク等の領。」

「そん……な。」

「でも、コメダ法国は僕の……僕の故郷かもしれないんです。」


 ダナエがため息まじりに伝える。

「ああ。その話もしなきゃいけないな。キライ。あんたは、あの国の王族で間違いない。」

 そんな大切な話をあっさりと切り出す。


「……っ……だったら!余計にダメです!その国を……」

「だから、軍隊だけなんだろ?」

「…うん…最小限に…ってことだね…」

「私は法国全てを滅せっていってるんだけどね?……まあ、あんたみたいのがいるなら仕方ないか。」

「それでも、納得は……納得はできない。」

「ああ。恨んでくれてもいいよ。恨みを晴らしたいなら私を……退治しな。わかるだろ?」

「わかりませんよ。恨む相手は違う。……僕を連れて行ってくれませんか?」

「ダメだ。私とここに残ってもらう。……弟子をとったっていうのに、何一つ教えてなんかいないんだ。あんたはここに残って鍛え直す。戦場で変な呪いをもらわないくらいに育ててやるさ!全く愚かで愚かで愚かで。」

 ダナエも流石に怒りが頂点に達しているのか鋭く睨みつける。


「……わかり、ました。今は……力をつけます。」

「いい子だ。ヴィット、君にも教えたいが基礎も何もないこの子が先だ。呪われてるしね。呪いが解けたらすぐに知らせるさ。」

「…うん…」




「じゃ、行く前にゲルン。あんたの力を見せてもらいたいな。ヴィットの力はわかってるけどあんたの力を知らない。」

「ボクの?んー。いいけど全力は出さないよ?」

「はあ……。最近の人間ってみんなこうなのか?」

「あははは。あの孤児院で育ったらひねくれちゃうから♪」

「まぁいい。表に出な。」


 クロケルはそう言うと一人先に表に出る。ゲルンはやれやれとした素振りを見せるとクロケルのあとを追う。

「さて、あの二人は任せるとして……。ヴィット、先に言っておくけど最後まで魔力の解放は取っておきなさい。理由はわかる?」

「…魔力が…使えなきゃ…弱いから…」

「弱いってのは語弊がある。あんたはそれでも十分強い。でも、あそこにいる奴らはそれじゃ通用しない。……ま、それだけじゃなくキライの生まれた国が氷に閉ざされちゃうからだよ。あくまでも、奥の手。そう思ってね。」

 キライをちらっと見るとダナエを真っ直ぐ見て頷く。


「こっちはキライの呪いが解けた瞬間、援軍にむかうから。呪術師から片付けてくれ。タイムリミットは二日。それだけ経つとキライの呪いがこの子を喰いつくす。わかった?」

「…わかった…」


 さて、地図を確認しよう。


 そうダナエが地図を開くと当たりがまばゆいばかりの光が包みこみ、円卓のあった小屋が吹き飛ぶ。

「ちょっと!お互いの力がわかればいいんでしょ!」

 直前にダナエが感づいて防いだらしいが……。巻き込まれていれば、この場にいたシルフはもちろんキライは巻き込まれていたであろう。

「悪い。少し力みすぎた。……て言うかあいつは大丈夫なのか!?」

「ボクは大丈夫だけど、直撃したら危なかったよ♪」

 箒に寝そべりながらクロケルの背後に彼女はいた。土埃を被ってはいるが怪我はしていないようだ。

「ボクの実力十分でしょ?」

「……ふん。守りが磐石なのはわかったが。」

「防御力と攻撃力は等しいものだと思うよ♪」


「…クロケル…ルンは…私よりずっと強い…」

「わかった。わかったよ。認める、認めるよ。じゃ、ちゃっちゃと攻め込むとしようか。」


 ダナエが何度目かわからないため息をつき、円卓に地図を広げ、現在地とコメダ法国の位置、そしてノームの地脈を説明していく。


「と、まぁ。やたらめったら難しく説明したけど、君たちにやってもらうのはコメダ法国の軍備の壊滅。王様は手を出してくるかわからないけど要注意。わかった?」


「わかった。じゃ、ヴィット、ゲルン。行くよ!」

 ヴィットは腕輪の力を使おうとするがゲルンに止められてしまう。

「あそこはそれじゃいけないよ♪ボクの箒に乗りなよ。クロケルちゃんのその羽根は別に飾りとかじゃないんでしょ?」

 ゲルンはニヤニヤと笑いながら堕天使に話しかける。

「……わざとらしい言い方をするね。私についてこれると?」

「もちろん。逆にキミはついてこれるかな♪」


 クロケルは六枚の翼を動かし、ゲルンは箒を作り出す。新たに作り出した箒にはブランコのような椅子がついている。

「ヴィットはこれに座っててね♪」

「じゃ、行くとするか!」

「はい。何かあったら連絡ちょうだいね。いってらっしゃい!」

「みなさん……よろしくお願いします!」


 突風とともにクロケルとゲルン、ヴィットは姿を消す。

「いってらっしゃい。さて、完全に長老が空気になっちゃったけど、長老さんノームがおそらく襲いにくる。大軍でね。いったん避難させて。ここはタルウィとザリチェに任せるから。」


「仕方ない……。シルフが全滅するよりいい。全員、谷から離れる。ウンディーネの泉に逃げ込みなさい。水の巫女様には直々にお願いしに行く。」


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