gamla historien<<昔話>>
―gamla historien―
ヴィットや二人の悪魔もそれを追うように出発するが、ゲルンの箒に追いつく事ができない。
「……!」「……?」
「…はやい…っ…」
少し経つとゲルンが止まって待っていた。
「ごめんごめん。久々だったから楽しくてさ♪」
夢馬と二人の悪魔は息を切らしてゲルンを見ている。
「少し休憩しようか♪大丈夫。休む準備ならすでに整えてあるからね。」
そう言うと下を指差すゲルン。その先の河原にはゲルンの作った木の椅子とテーブルが用意されている。
「…やっぱ…ルンはめちゃくちゃだね…」
「本当に人間なの!」「本当に人間なの?」
「失礼な!ボクは人間だよ♪」
二人と話しなきゃだしね。と一言残すと全員を引き連れ用意した椅子に腰掛ける。
「さてと、念のため確認したいんだけどさ?タルちゃんとザリちゃんは魔王ダナエ様の従者であっているかな?」
「…ルン?…」
二人の悪魔達は首を縦にふる。
「そっかぁ……。あ、大丈夫大丈夫!ボクは何もそれで何かをしようと思わないけど、マスターと会った時は大丈夫だったのかなってさ。」
「……!」「……?」
「ん、話したくない……かな?」
「ヴィット、お願いがあるんだけど……。ご飯を調達してきてくれないかな?大丈夫だって、いじめたりなんかしないよ。」
(ヴィット、ボクもお腹減ったからいこ?)
リームシュークはゲルンを見ると頷く。溜息を吐きつつヴィットは立ち上がり森に入る。
「さて、話を聞かれたくない相手もいなくなったでしょ。とりあえず話を聞きたいのさ♪」
ゲルンは指輪を外し敵意がない事を示す。
「二人ともさ。そのままでもいいけど……素の自分は大切にしてね♪」
ヴィットがいなくなったことを感じ取ると、
「あの玄白の魔女の事をダナエ様はゆるしたんだ!」
「あの青朱の魔女の事をダナエ様はゆるしたんだ?」
二人の悪魔はワナワナと震えながら怒声を上げる。
「玄白はボク達だけじゃなく、ダナエ様に手をかけた!」
「青朱はボク達だけじゃなく、ダナエ様に手をかけた?」
その一言を聞いてゲルンは首を傾げると理解する。
「うん。そこの誤解を解いておこうか♪」
「誤解なんて!」「誤解なんて?」
「マスターがダナエと戦ったのは、二人の悪魔と戦った直後って聞いてるよ。そこに間違いはないかな?」
「ザリチェと門番してたからね!」
「タルウィと門番してたからね?」
「一つ、タルちゃんとザリちゃん二人をあの人は余裕で倒したのかな?」
「ザリチェが右腕を!」
「タルウィが左腕を?」
「二つ、それでマスターは両腕を魔法で治しました。そんな魔法使って魔力が余ると思う?」
「……!」
「……?」
次第に二人の悪魔の表情が……。
「三つ、ダナエをデュラハンにしたのは?」
「今の魔王……!」
「今の魔王……?」
「四つ、ダナエの次点にいた吸血姫と今の魔王の王妃は?」
「クラップス……」
「クラップス……」
殺気を放ち二人の悪魔が立ち上がる。
「まった、何をするつもりかな♪」
「あの吸血姫を……!」
「あの吸血姫を……?」
「君たちだけで出来るの?」
二人の悪魔が同時に首を横に振る。
「でも、なんでそんなこと知ってる!」
「でも、なんでそんなこと知ってる?」
「最後、ボクの復活に使った魂は?」
「……!」「……?」
「そう。マスターの記憶がボクの中にもある。あとはこれのせいかな?」
ゲルンは口角を大きく上げて笑う。
それを見て二人の悪魔は黙り込む。
「そして、君たちにかけられた呪いを解く方法もわかるよ♪」
「……!」「……?」
「まだ解くことができないけど、ヴィットの一族に会うんでしょ?その時にとくよ。必要なものがあるからね♪」
二人の悪魔はゲルンに抱きつく。
「これで……ダナエ様の役に立てる!」
「これで……ダナエ様の役に立てる?」
「でも、約束してね……。従者であれ、命は無駄にしない。ダナエだってそんなことは願わない。」
「……!」「……?」
タルウィとザリチェは少し複雑な表情を浮かべ……頷かなかった。
「ま、いいよ。君達はボクのことを助けてくれた。なんだかんだ言ってマスターの事を殺さないでくれたしね♪」
二人の頭を撫でつつゲルンはニコリと笑う。
「さて、あの子はどこまで行ったのかな?」
ヴィットが森の奥から手ぶらで帰ってくる。
「…ルン…」
「あら?収穫はなしか……。ま、いいよ♪」
「…違う…一人じゃ…」
「えっ?」「……!」「……?」
少女はゲルンとタルウィ、ザリチェを森の中へ連れて行く。
「おや、まぁ……。よく音もなくこんなのを……。」
(流石でしょ?二人でやったんだよ)
目の前には冷凍された巨大な熊。
「…一人じゃ…持てなくて…」
自身の数倍ある熊を仕留めていた。
「殺してないんだ……。よく殺さずに凍らせたもんだ。」
「…二人に…教えてもらったから…」
二人の悪魔は首をかしげる。
そこでヴィットは手のひらに魔力の球を作り出す。
「ふーん♪少し前とは別人みたいだね。」
「…ルンに…言われたくない…」
「ま、いいか。とりあえず……ご飯にしよう。そのあと作戦会議♪シルフとノーム喧嘩はよくないよね♪あ、この子はちゃんと解凍してね。聞かなきゃいけない事があるから。」
うんうんと一人頷き、指をパチリと鳴らすとその場にゲルンの用意していた椅子とテーブルが現れる。ただし、テーブルには鍋と各自の食器が置いてあり、湯気も上がっている。
「さて、ご飯を食べたら出発しよう。その子に色々話を聞いてからね♪」
ヴィットは本当に別人みたいだと思いながらも熊の解凍を行う。