Djävulens ritual<<悪魔儀式>>
―Djävulens ritual―
穴に飛び込んだヴィット達はエフトレットのはるか上空に現れる。
「…また…落下…」
(この仕掛け、気に入ってるのかもね。)
「落下!」「落下?」
すこしうんざりといった表情を浮かべると魔力を込めて氷の板を作り出す。
「あら、ヴィット!こんなとこにいたの?」
空高くから落下している最中、真上から話しかけられる。
「…ダナエ…」
「ダナエさま!」「ダナエさま?」
「二人ともお疲れ様。」
二人の悪魔の背には翼が生えそれで飛ぶ。そしてヴィットは氷の板を滑り降りている横に夢馬が横を走る。
「…ありがと…」
そう言い頭を撫でると夢馬に飛び乗る。
「あれ?アナとキライは?別行動してるの?」
ダナエは首をかしげる。
「…うん…」
ヴィットは頷くとダナエにシルフとノームの件を伝える。
それを聞くダナエの表情が一転する。
「あの子……まったく、死ぬ気かね?アナもついてるけど流石にまずいか……。よし、わかった。私はこれからシルフの谷に向かう。ヴィットはさっさとやるとこを済ませて合流して!流石にまずい。」
ダナエは魔力を込めるとそれを夢馬に渡す。
「これで多少は無理できるはずだよ。」
「…わかった…急いで合流する…」
ダナエとあったのもつかの間。何が危ういと感じたダナエは一人、キライのところへ向かう。
「…私達も…いこう…よろしくね…」
夢馬の鬣を撫でると。夜空を駆け抜ける。
一晩中夢馬は夜空を駆け抜けた。夢馬に乗っている間、ヴィットは深い深い眠りについた。
魔力が復活しているのにも関わらず、ユキトに会うこともなく。
そして日の出とともに夢馬は消える。
「…ありがと…」
さて、これからは徒歩だ。急げば夕方にはブレリュに到達できるだろう。
だが、直後少女は武装した集団に囲まれる。
「なんだお前。今空から馬に乗って降りてきたのか?」
武装した彼らはザワザワと騒ぎながらも警戒しつつ彼女を囲む。
「…相手してる暇…ないの…」
「状況、理解できてるのか?そっちは一人。こっちは八人。圧倒的に不利だと思うんだが?」
「…一人…?…違うし…一人だとしても関係ない…」
「隊長。どうやら頭のいかれてるようですよ?まるで状況を理解できてない。」
隊長と呼ばれた男はその発言をした男を睨む。
「…馬鹿…だね…。…ね…あなたが…隊長なんだよね…今なら見逃すけど…どうする…?…」
ヴィットはイラつきながらも出来るだけ戦闘を回避しようと話を進めようと隊長の方を向いて話しかける。
「残念ながら拘束させてもらおう。そいつが馬鹿なことを口走ったからな。」
「…そう。もう一度…いうよ…?…構ってる暇はない…!…」
その一言と同時に空中に魔法陣が展開され、ヴィットと男達の間に氷のナイフが降り注ぐ。
「…理解した…?…」
(ヴィット、なんかこいつら怪しいよ?)
「…ん?…」
騒ぎを聞きつけた敵がさらに集結しはじめヴィットはため息をつきながら周囲の気配を探る。
「さすがにこの物量差だ。観念して拘束されろ。」
「…夜営でもしてた…?…まだ森に隠れてる…どこの兵士…?…」
「はっ、言うわけもないだろう!」
その一言と同時に矢が放たれる。その矢をヴィットは見極めてナイフで払う。
「…今すぐ…引けば…」
その言葉と同時に隊長と呼ばれた兵士が合図を出す。それを見た兵士達はヴィットとの距離を詰め始める。
「…わかった…死んでも…知らない…から…」
ヴィットは1度目を瞑ると彼女を中心に魔法陣が形成される。そしてその魔法陣は彼女を囲む敵の足元まで広がる。
「…動けるなら動いていいけど…ね…」
ヴィットはナイフ左手に持ち囲まれた中悠々と歩き始める。そのまま彼女は隊長の方へまっすぐ進む。敵兵からは……戸惑いの声と悲鳴が上がる。
「な、何をした!?」
「…?…その身に起こっていること…そのままだよ…」
魔法陣の中の足元を凍結させた。そしてその冷気は兵士達の足を凍らせたのだ。
「…ここには…何を…?…」
「こ、答えるわけ……。」
「…そ…」
彼女は頷くと彼の足元にもう一つ魔法陣が浮かび上がる。
「し、白の……魔女……。」
そう言うと隊長は氷結する。
「…魔女…ね…」
頷き、近くにいた一番装備の整った男に近寄る。
「ひっ、や、やめろっ!魔女めっ!」
(さすがに傷つくよね。大丈夫?)
「…ん?…なにが…?…で何があってここにいたの…?…」
男の目の前に魔法陣が浮かび上がる。
「……ったく、おいおい、そこまでだシロ!」
見知った声が彼女を囲む中から聞こえる。
「…?…イロ…?…」
「何やってんだ?お前は。やり方があるだろうに。俺が何のために潜入していたんだか意味がなくなっちまったじゃねーか。」
ヴィットを囲んでいた内の一人が普通に動き始める。
「…どうしたの…?…」
何かしらの魔法を使っていたのか彼の姿は別の男のようだったが、普段通りの彼が姿を見せる。大柄で赤髪の青年。ヴィットと共に孤児院を抜けた一人だ。
「デプロのジジイに頼まれてな。ま、少し小遣い稼ぎだ。どちらにしろ全員拘束するつもりだったんだがな。まぁ、手間は省けたか。」
「…ルンは…?…」
ヴィットはイロードをまっすぐに見つめ、イロードは少し目をそらす。
「ああ。マスターが見てる。」
「…じゃ…こいつらは…?…」
「コメダ法国の兵士さ。」
ピクリと眉が動くヴィット。
「……その様子だと、何が起こってるかは何となく知っているな。」
静かに頷くとイロードは足元の不気味な気配を感じて飛び退く。
「誰だ!?」
地面を見て槍を構えるとその先には不自然な影が二つ。
「……!」「……?」
「…タルウィ…ザリチェ…大丈夫だよ…」
「大丈夫なの!」「大丈夫なの?」
二人の悪魔は影から姿を表す。
「…イロも…槍をしまって…」
二人の悪魔が影から出てくるとその瞬間兵士達が倒れていく。
「邪魔なのは寝て!」「邪魔なのは寝て?」
ヴィットに睨まれてイロードは槍を仕舞う。
「…この二人が…ルンを…助けれる…」
「なに?この二人がか?」
少し複雑な表情を浮かべるが。
「槍を向けて悪かった。俺はイロード。シロの仲間だ。」
「シロ!」「シロ?」
そういった瞬間ヴィットかや氷のナイフが飛んでくる。イロードは回避もせずギリギリのところでナイフを人差し指と中指の間で捕まえる。
「ったく、あぶねーだろ!とりあえず二人ともよろしくな。」
「こわくないの!」「こわくないの?」
「んあ?ああ。敵じゃなきゃ誰も怖かないし、逆に敵ならなんでも怖いぜ?」
「ヴィット!この人変!」「ヴィット?この人変?」
ヴィットはクスリと笑うと頷く。なんだよと言いたげなイロードがヴィットに影の腕輪を渡す。
「マスターが改良したってよ。急いでゲルンのとこ行って……治してやってくれ。俺はこいつらをまとめて憲兵に引き渡してから戻るからよ。」
ヴィットは腕輪を受け取るとそのまま影に潜る。
ゲルンの魔力を探し出してそこへ一直線に出て行く。
「…おまた…」
ヴィットが帰りの挨拶をする前に悪魔達が。
「……!!」「……??」
「やぁ、ヴィットにそれと……あれ?君たちは……。」
いきなり臨戦体制に入るタルウィとザリチェ。少し驚いたあとに含み笑いをするマスター。
「魔女!」「魔女?」
「…まって…!…」
ヴィットの制止を聞かずに二人の悪魔が襲いかかる。
「早い到着だねヴィット。流石に疲れちゃったよー。」
マスターは二人の悪魔の攻撃を回避して何事もなかったようにヴィットの頭を撫でる。
「……!!」「……??」
「それに、タルウィにザリチェじゃないか。なにも聞いてないのかい?君たちの主とは和解してるよ。じゃなきゃ君達が、ここに入れるわけないじゃないか。」
「……!!」「……??」
ヴィットには何が何やらわけがわからなくなっていたが……。
「ヴィットは気にしなくていいよ。私とダナエの古い因縁だから。」
ふーん。とヴィットは受け取るが、タルウィとザリチェが明らかにいつもとは違う。
「…タルウィ…ザリチェ…なんか…ごめん…」
「ヴィットは悪くないよ!」「ヴィットは悪くないよ?」
「そうそう。悪いのは誰でもなく、私だからね。」
話に割り込んできたマスターに対してタルウィから火の玉が投げつけられる。マスターはそれを指先で受け止めてタルウィに投げ返す。タルウィはそれを受け止めるが……投げ返せずにそのまま仰け反る。
「…マスター…もうやめて…ルンが…先…」
「おや、そうだね。こっちだよ。」
そう言って三人をゲルンの部屋に案内する。向かう方向から蔦が生えていた。……近寄るに連れてどんどんと。蔦は増えて到着した部屋は他の部屋とは異質なものとなっていた。
「…これは…」
明らかに出るときよりも部屋の状況はひどい有様だ。
「魔力が枯渇する前に私の魔力を注いでるんだけど……片っ端にそれを餌に樹々を召喚してる。」
「食べきれるかな!」「食べきれるかな?」
「ヴィット宿から出てて!」「ヴィット宿から出てて?」
「…え?…」
「魔女も!」「魔女も?」
「ヴィットに嫌われたくないからね!」
「ヴィットに嫌われたくないからね?」
ヴィットは首をかしげると二人に嫌ったりしないよ。と頭を撫でる。
「…でも…ふたりのおねがいなら…ね…」
「ふむ、私にできることは?私の弟子を助けるんだ。私にも何かやらせなよ。」
「……魂を半分よこせ!」「……魂を半分よこせ?」
「はは!悪魔らしい。いいさ。私の弟子のためだよ。私の魂、半分言わずに好きなだけ使うがいい!!ヴィット、身体は頼んだよ。」
マスターはそう言うとその場に崩れ落ちる。
「…えっ…」
有無を言う前にマスターからマスターと同じ形をした何かが出てくる。
「…わかった…」
マスターの体を背負うと宿から出て行く。