En liten farväl<<少しの別れ>>
―En liten farväl―
少女の表情が曇ったまま森を歩く。
「…川…か…」
(川と言うよりも……滝壺って……。)
「…別ルート…ない…の…?…」
「あれ?どうかしましたか?ヴィットさん。」
……まさか、と察しの悪いキライでもわかったようだ。
「ですが、別ルートは危険だと言っていました。エフトレットからも遠く……。」
「…わかってる…」
「大丈夫ですよ。みんなが付いていますから。」
二人の悪魔がからかう様に嫌いの周りを走り回る。
「キライがかっこいいこと言った!」
「キライがかっこいいこと言った?」
昔、海に飛び込んだことがある。……その時はビローアが居たから心配する必要はなかった。彼は水を操る魔法を使えた為、溺れる心配も無用だった。
でも、今回の旅に彼は同行していない。
とは言え、ゲルンを助ける為にはキライの言う事を信じて行くしかない。ヴィットは少し考えたが頷いて覚悟を決める。
彼女たちは街を出て、言われた通りに北へ向かう。すると特に魔物と遭遇したりする事もなく川に到着する。
「あとは上流を目指すだけですね。」
「…そう…だね…」
「大丈夫ですか?」
「…大丈夫…多分…」
「わかりました。じゃあ上流に向かいましょう。」
滝の直前でヴィットが足を止め、全員の進行を一度止める。
「…何か…いる…」
(人じゃないよ。……精霊だ。)
キライは小声で少女と猫に尋ねる。
「どこですか?」
「…正面…滝の付近…」
「?」
キライには見えておらず、アナとタルウィ、ザリチェを見る。
「いるね!」「いるね?」
「僕には見えていないですが……。」
「あれはシルフさね。ヴィットに見えてるのが特別なのさ。アンタに見えてない事を気にしちゃいけない。それにしてもココにシルフがいるのはおかしいさね。何かに巻き込まれる可能性は高いけど、どうするさね?」
「…シルフって…ラタトスクが言ってた…?…」
「そう、そうだよ、アンタはちゃんと話を聞いてたからなんとたく聞いてるかもだけどアイツ等は人間の魔力を吸うから気をつけな!なんたって人間の常識なんか通じないんだからね!」
「見えない僕はどうしましょうか?」
「こうすればいいよ!」「こうすればいいよ?」
キライはこめかみを二人の悪魔に叩かれる。左右から同時に。
「!?……何をするんですか。……ひどいですよ。さすが……に?」
キライの視界はさっきまでと異なるものになっていた。どう変わっているかというと、滝の周りに10センチくらいかの妖精が飛んでいる。
「これでどう!」「これどう?」
「……見えました。」
でも、やる前に行ってください、とタルウィとザリチェに涙目でお願いする。
「気が向いたらね!」「気が向いたらね?」
「さて、これで見えるようになったけどどうするさね?まさかとは思うけど、アイツ等に関わるんじゃないでしょうね?寄り道するのかい?アタシはどうでもいいけどさ!」
「……話を聞いてからにしましょう。何か訳ありかもしれないですし。」
「…わかった…」
「すいません。何かありましたか?僕達滝壺に用があるんですが……。」
「私たちが見える人間だ!」
一斉に妖精達がキライ達を囲む。
「すいません。僕は少しズルをしてあなた達を見ています。」
「ズル?まあなんでもいいよ。見えてるだけでいい。話は聞こえてるみたいだしね!それに、それをしても見えない奴は見えないしね!」
「よくわかりませんが、……一体何が?」
「シルフの谷に来て助けて欲しいんだ!もちろんお礼はさせてもらうよ!」
「僕としては助けるのは問題ないですが、何が起こっているのかは教えていただけますか?」
「ノームの調子がおかしいの!」
「ノームがかい?地精霊の調子がおかしいってどういうことさね?しかもそれを仲の悪いアンタ達が助けを求めるって普通じゃないさね!」
「おわ!人形が喋った!!すっげー!!何コレ!」
「…いいから…何が起こったかを教えて…」
「ノームが僕らの谷を攻めてきてるの!ゆっくり話をしてる場合じゃないの!」
「戦争さね?精霊間でそれが起こるのも珍しいさね?ノームがいきなり攻めてきたのかい?それともシルフから仕掛けたのかい?それによっては手助けするのも間違ってくるよ。何があったんだか。」
「だからノームがおかしいって言ってるの!僕達はいきなり攻められたの!ここにいる僕達はうまく逃げれたのだけなの!それでシルフが仲よかった人間のとこに行こうとここにいたの!でも、彼女がどこにいるか知らないし……。」
「…ルンのこと…?…」
「ルン?……んー……名前はしらないんだ!前にシルフの谷を通して人間をココに連れて来たらしんだ!」
「…ラタトスクから…聞いた話とつながる…」
「どこにいるの!?」
「今、魔力の暴走で倒れてるさね。アタシは直接見てないけどね。この子が太古の森まで来たのはそのためだよ。その子を助けるためさね。だからその子がアンタ等を助けるのは無理さね。なんたってそんなわけださね。」
シルフ達は全員集合し話し合いを始める。ヴィット達をそっちのけで……。
「さて、どうしますかね……。助けてはあげたいですが。」
「キライとアナでいけば!」「キライとアナでいけば?」
「先にさ!」「先にさ?」
「そのあとヴィット合流!」「そのあとヴィットが合流?」
「荒業だね!」「荒業だね?」
「なるほど……。」
「…うん…いいよ…ルンの意識が…戻ったら行く…」
「わかりました。シルフ達に話してみますね。」
キライはシルフ達の集まっているところに行くと……あっという間にシルフ達に囲まれてしまった。
「まっ、おちついてくださ……」
「あなた達だけでも来てくれない?お礼はするから!」
「アンタ等少し黙りなさいさね!今からキライからも説明せるさね!その提案で飲めなければアタシ達は手伝わないさね!そもそも、アタシは協力するのに反対さね!今すぐアンタ等を無視していってもいいんだよ!!」
アナの気の狂いそうなキリキリ声にシルフ達はびくつきようやく口を閉じる。そして、キライが説明を始める。
シルフ達にはそれでは納得してもらえなかった。最終的には一人のシルフがキライのフェンリルの紋章に気がつき、それで彼の持つ力を認めそれで納得した。
「…じゃ…ルンが…目を覚ましたら…」
「ええ。お願いします。多分僕だけでは戦力不足になりそうですからね。」
少女達は少年と簡単な別れを済ませると滝壺に向かう。
「…どうしよ…」
(どうしようね……。)
「どうする!」「どうする?」
キライがみんながいるから大丈夫と言っていたが、まさかこのタイミングで別れると思っていなかった。少し考え答えを出す。
「…凍らせよう…」
(なるほど!それならいけるかもね!)
「なるほど!」「なるほど?」
一度頷くとヴィットが魔力を掌に込める。
「待ってください!大丈夫とか言っておいて、すいません。シルフが手伝ってくれるみたいです。」
後ろからキライが駆け足で近寄る。そしてシルフ達は一列に並ぶと滝の流れを止める程の風が吹く。滝壺に大きな穴が見える。
「…ありがと…必ずおいついてくって伝えておいて…」
「わかりました。」
「…じゃ…行ってきます…」
「ええ。お待ちしています。」
そう言うと少女と二人の悪魔はその穴に飛び込む。
「……すこし寂しいですね。」
「そうさね。次あの子に会えるのはいつになるんだろうね?早くこの森から抜けないと一人で年をとる羽目になるさね!」
「では、シルフさん!急ぎましょう。」
「大丈夫!すぐだよ!」
少年と人形は妖精の後をついて走り出す。