3話
『母よ・・・・・・傷つけても・・・・・・』
四方を分厚い布で覆われた中、ゆっくりと伸びをしながらコロリと寝返り柔らかく滑らかな敷き布に額をすりつける。温もりが逃げぬようにと外側に薄布がもう一枚追加されたのは、我がここを使うようになってからだと聞いた。
外は身を切るような寒さだとか。しかしあの金属の格子に両手を掛けたときの冷たさよりひどいものは、この世に存在しないだろう。
敷き布に額を押し付け、あの冷たさを忘れたくて両手を握りしめ懐に抱え込む。
分厚い布の間から、あの人の白く柔らかな手だけが滑り込んできた。眠っている我を起こさぬよう軽く頭を撫でてゆく。近づく気配ですでに目覚めていたが、もっと触れていてほしくて寝たふりを続ける。2度3度と、頭の上から首筋へ耳の後ろもかすめるように撫でられうっとりとする。
あまりの心地よさに、ため息が漏れてしまう。ああ、しまった。
ゆっくりと白い手が引かれる。分厚い布の向こうへ消えていきそうになるを目の端で捉えると、引き留めようと我の手が無意識のうちに追いすがる。
「ごめんね。起こしちゃったね。」
そんなことより母の手にすり傷がついていた。咄嗟に手を伸ばしたので爪が掠ってしまったようだ。申し訳なくなり俯いてしまう。
大丈夫よ。今度爪切りしましょうねと揃えてついていた両手の甲をすりすり撫でられると、そわそわと心が落ち着かなくなる。
ああ、その白い手をぎゅうっと抱き込んで眠りたいと言ったら呆れられるだろうか・・・
もう小さな子供ではない。しかし大人というにはまだ早いであろう。いつまでなら・・・
『母よ・・・・・・イヤなのです・・・・・・』
爪を切るのは、我は苦手なのです。