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幸せの時間  作者: 流民
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ケース冴子

 クロスギアを外して一息つく。

「どうだった今回の査定は?」

 冴子に声を掛ける男の声。

「ダメね。全くダメ」

 声を掛けた男は眼を細める。

「いったい何が駄目だったんだ? できればぜひご教授願いたいね」

 冴子はやれやれと言った感じで男の質問に答える。

「あなたあれを見て採用しようと思ったの?逆に何か良い所があったのか教えてほしい物だわ」

 その言葉にむっとした表情で話そうとするがそれを冴子に遮られる。

「どうせあなたの事だから情に厚そうだとか、目的の為に手段を択ばない行動力があるとかそんな事を言うんでしょうね?」

 そこでいったん言葉を切り、男の表情を伺う。

 男は全く持ってその通り、と言わんばかりの表情を浮かべる。

「はぁ~、あなたよくそんな事で査定官やっていられるわね? 本当に呆れるわ」

 いい加減頭にきたのか男は言い返す。

「じゃあ何か? 俺は全くの役立たずで、能無しだとでも言いたいのか?」

「ええ、今まで自分で気が付かなかった?」

 やれやれ、そう言った感じで男は冴子に答える。

「ああ、わかった、わかった。で、冴子さんは今回のNO,0727には何の問題があると言いたいんだ?」

 仕方ないといった感じに話し出す冴子。

「先ずケース一の場合」

 そう言って、クロスギアを男にも付けさせ、冴子自身もクロスギアをつける。

「最後の方よ、そうここ。ここでこの男は車のスピードを上げたわよね?」

「ああ、そうだな。それが何か問題でも?俺でも同じことをやったと思うぜ」

「だからあなたは……まあいいわ。ここでこの被験体は判断を誤った。スピードを上げてまで早く着く事は無かった。そう、慎重にならなければいけない所だったのよここは。いくらスピードを上げても着く時間にはさほど変わりはなかったはずよ?だったら目的を達成するには確実に、慎重に行うべきだった。これが作戦中だったらこの被験体のおかげで部隊が全滅する事だって起こり得たかもしれない」

 まさか、といった表情で冴子を見る男。

「あなたはまだ解っていないのね?それほどこれから送り込む所には慎重に行かなければ何があるか解らない所なのよ」

「それからケース二ね。まず最初の方。そうここ。ネクタイを締めなかった所からねこの被験体がおかしくなってきたのは」

 そこでいったん話を区切り、男に眼をやる冴子。

「ああ、確かにここでこの男は少し疑心暗鬼に掛かりだしたのかもしれないな。しかし、いつもの事が急にやらなくなったら少しくらい疑問に思っても仕方ないと思うぜ?」

 男の反応は冴子の予想道理の物だった。

「あなたらしい答えで感謝するわ」

 冴子は男を皮肉って答える。

「この被験体はそこに拘りすぎた。それだけで終わっていればまだ救いはあったかもしれない。でも、それが最後に自分の妻を殺すまでの経緯に至ってしまった。そして注意力も不足しているわね」

 冴子はまだ意味が解らないといった感じの眼をした男の方に眼をやるが、すぐに視線を戻し映像に眼をやる。

「ここの場面よ、そう妻を殺しに行こうとした時この被験体はキッチンにある物に気付いていながら無視して自分の目的を達成しようとした。もしあそこであれに気が付いていたらあそこで妻を殺すようなことは無かったでしょうね。そして最終的には妻を殺して自らの快楽の為の行為に走った」

 ここで男にもようやくわかったらしくその次の言葉を冴子から引き継いだ。

「つまり、こいつは戦場に行った時には自分の為に見方を殺してでも自我を押し通す奴だってことか?」

 少し微笑んで冴子は男を見る。

「そうよ、よく解ったわね」

 子供を褒めるような態度に男はまた気を悪くするが話の続きを促す。

「これから行く所ではそんな事をやる人間がいれば部隊が生存する可能性が限りなく低くなるわね。それから……」

 そして最後の映像を映し出す。

「ケース三、もうあなたにもさすがに解ってきたんじゃないかしら?」

 そう言われた男は自ら話し出す。

「ああ、さすがに俺でもなんとなく解ってきたよ。ケース三の場合もケース二と一緒だろう?完全に見方を裏切っている。そんなやつが仲間にいると思うととてもじゃないが背中を預ける事なんて出来やしないよな」

 男の説明に冴子は残念な表情を作る。

「それだけ?」

「ああ、他に何かあるのか?」

 はぁ~、冴子はまたため息をついて男の説明を補足する。

「確かにこの被験体は仲間を裏切った。でもこの場合特筆すべきところはそこよりも逃げ出したという事ね。もし戦闘中に逃げ出すものがいればどうなると思う?」

 男は肩を竦め冴子の方を見る。

「一人が逃げ出せば連鎖的に他の者が逃げていく状態になりかねない。そうなれば戦線を維持できなくなってしまうわ。そしたら完全にこの戦いは負けるわね」

 一通り冴子の説明を受けて男もようやく納得した。

「なるほどね、確かにそう言う見方をすればこの男は全く適正は無いね」

 ようやくわかったか、というような表情で冴子は男を見る。

「そんな兵士はGMは望んでいない。それを見分けるのが私達査定官の仕事でしょ?それにこの被験体、どのケースでも最後はいつも自我を取り戻しているわ」

 男は冴子の言葉に驚いた。

「そうだったか?よくそんな所まで見ていたな。全く君には驚かされるよ」

 勝ち誇るでもなく冴子は男にまた言葉を投げかける。

「あなたこそよくそんな事で査定官が出来ていたものね? それの方がよっぽど驚かせられるわね」

 しかし、と男が話し出す。

「自我を取り戻すのは駄目なのか? 人間性をなくしてでもこの戦いに挑まないといけない物なんだろうか?」

 冴子は今の言葉を聞いて驚く。

「あなた……今の発言は聞かなかったことにしてあげるわ。もしそんな事他の人に言ったらあなた調整局に送られることになるわよ。発言には気を付ける事ね」

 さて、そう言って冴子はクロスギアを置いて席を立つ。

「じゃあ、私はこれで帰るわね」

 そう男に告げ部屋を出ようとした時男から声が掛かる。

「なあ冴子」

 そう言われた冴子は振り返る。

「何でこんな仕事楽しそうにやっているんだ?被験体は選ばれなければ調整局に送られるか廃棄処分だ。いくらクローンとはいえ、あんまり気持ちのいい仕事じゃない。それなのに何で冴子はそんなに楽しそうなんだ?」

 その男の質問に冴子は笑って答える。

「それが私の『幸せの時間』だからよ」

 そう言って冴子は部屋を後にする。



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