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幸せの時間  作者: 流民
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1話

「あなた……あなた起きてあなた」

 冴子の声で目が覚める。

 目の前には美しい妻の顔。

 妻の体を引き寄せて話しかける。

「ああ、おはよう冴子。今日も綺麗だよ」

 俺はそう言って冴子にキスをすると、冴子は少し照れたように頬を赤らめ。もう、と言ってベッドの脇からキッチンに向かう。

 キッチンから子供と冴子の声が聞こえる。

「ほら、美代も早くご飯食べて学校に行く準備しなさい!」

 は~い、とちょっとがっかり気味に答える。

 そこでようやくベットから身体を起こし、キッチンに行く。

 テーブルにはベーコンエッグとサラダ、それにトーストとまだ湯気の立ち上るコーヒーが準備されている。

 いつもの座る自分の席に腰掛け、テーブルの傍らに置いてある新聞を見ながら美しい妻、冴子の後ろ姿を見つめる。

 キッチンに立つ冴子の姿も実に美しい、そう思いながらも新聞を片手にコーヒーを飲む。

 相変わらず好みの味のコーヒー。

 こんな日々を続けられるのはなんと幸せな事だろう、そう思いながら箸を手に取り、並べられたら食事を食べ始める。

 そろそろ時間だ、そう思い会社に行く準備を始めようと席を立ち上がると美代がバタバタと廊下を走り学校に向かう。

「行ってきまーす!」

「ああ、いてらっしゃい」

 そう言って美代を送り出す。

 その後に冴子も「車に気をつけるのよ」と言って玄関まで美代を見送りについて行く。

 大丈夫~!と、遠くで美代の声が聞こえる。

 その声を聞きながら自分の部屋に戻り、スーツに着替えネクタイを締める。

 ネクタイを締めるときわざと緩く締める事にしている。

 そして鞄を持ち、部屋を出て玄関の方に向かい冴子に声をかける。

「そろそろ行くよ」

 キッチンで洗い物をしていた冴子は振り向く。

「あら、もう行くの?」

「ああ、今日は朝一で会議が有るからちょっと早めに行くよ」

 玄関で靴を履き冴子に振り向く。

「あなた、ネクタイが曲がってるわよ」

 冴子はネクタイに手をかけ締め直し位置を整える。

 それが終わると「じゃ、行ってくる」と言って冴子にキスをして玄関を出る。

 駅までの道は歩いて数分、会社までも電車で二十分ほど。周りはマンションばかりだが持ち家は一軒家、もちろん土地も自分の物。

 いわゆる成功者のたぐいに入るだろう。

 会社は一流企業、そこで営業部の部長を勤めてもう二年ほど経つだろうか?

 だが、来年にはまた昇進するだろうと社内では噂されている。

 まあ、実際昇進するだろう。

 そうすればこんな電車通勤ともおさらばできるだろう。

 そのため、いや冴子と美代の為にも仕事を頑張らなくては。

 バシッと顔を叩いて気合いを入れ直し、駅のホームで電車を待つ。

 程なくして到着した電車に乗り込み満員電車に揺られる。

 いつもの席に座る。部下に持ってきてもらったコーヒーを飲んでいる。

「部長今日の会議の時のあの言葉、格好良かったです!」

 部下のその話し方とその視線はまるで英雄のように称えた。

「ああ、そうか?あまりおだてないでくれよ、調子に乗って木に登ってしまうから」

 そう言ってコーヒーをすする。

「部長、今晩お食事・・・・・・」

 彼女が話しかけたその時携帯が鳴る。

「すまない、ちょっと電話みたいだ」

 少し残念そうな顔をしている彼女にそう言って部屋を出てもらう。

 彼女が部屋を出るのを確認して電話に出る。

「もしもし、どうかしたか冴子?」

 電話越しの冴子に優しく話しかける。

『あなた、今日の夜の事覚えてらっしゃいます?』

 少し焦りながらも平常心を装い答える。

「ああ、もちろんさ! で、冴子はどうしたい?」

 うーん。冴子は少し考えて答える。

『じゃあ、昔よく行った店に行きましょうよ!』

 考えを巡らせその店を思い浮かべ、少し間を置いて答える。

「ああ、あの店か。分かった、予約を入れておくよ」

 冴子は電話越しに喜んで電話を切る。

 夕方六時十分前、まだ待ち合わせの時間には少しある。

 昔新婚旅行で行ったときに買った高価な腕時計に目をやり時間を再度確認する。

 さっき時間を確認してからまだ一分しか経っていない。

 冴子に会えるのが待ちどうしい。

 しかし、またこの時間も幸せな物だと実感しながらしばしの時間を楽しむ。

 すると目の前に止まったタクシーから派手では無いが綺麗に纏められたら髪、それにシックな色合いながらも華やかさに満ちたドレス姿で降り立つ一人の女性。

 目を見張り彼女を見つめる。

 それが冴子だと気がつくまでに少しの時間がかかる程だった。

 彼女は近寄り少し微笑む。

「あなた、お待たせしました」

「何、今来た所さ。それより今日の君は一段と綺麗だよ!見違えた。一瞬誰か解らなかった程さ」

 まあ、あなたったら。冴子はそう言ってまた顔を赤らめるが、またその照れた顔が可愛く思える。

「さあ行こうか冴子」

 左肘を少し開き、冴子はそこに細くしなやかな腕を滑らせるように絡める。

 二人で歩き出し、予約した店に入る。

 席に案内され、すぐにワインと料理が運ばれてくる。

 冴子に向かってグラスを捧げ「乾杯」とグラスを合わせる。

 一通料理が運ばれ、それを二人で談笑しながら食べる。

 年に数回しかないが、本当に幸せな時間だ。

 少し酔いが回ってきた頃店を出る。

 そしてもう少し酒を飲むために次の店に行くためにタクシーを止める。

 運転手に行き先を告げタクシーは走り出す。

 店に着き扉を開けるとマスターから声がかかる。

 席に案内され、冴子と二人でカクテルを一杯ずつ頼みそれが来ると今日二回目の乾杯をする。

 それを一口飲み、胸ポケットにしまってある物を取り出す。

 それを冴子の目の前に差し出すと冴子は驚いた顔と共に嬉しそうに微笑む。

「明けて良い?」

「もちろんさ」

 今日が何の日だったかを実は覚えていない。しかし、それでも冴子に何かをプレゼントしたいと思い用意したものだ。

 喜ぶ顔が見れるのは嬉しい。

 冴子は小箱を開け、中にある小さなリングを手に取り嬉しそうに微笑む。

 そして一緒に添えたメッセージカードを手に取り中を読むと冴子の顔色が変わる。

 気がつくとまた記憶が無い。

 確かさっきまではバーで酒を飲んでいたはず・・・・・・

 しかし今はどうだ? ベットで冴子と二人裸で息を荒くしながら横たわっている。

「あなた・・・・・・今日はなんだかいつもより・・・・・・」

 冴子は恥ずかしそうに肩で息をしながら話す。

「そうか?」

 どういう状況か理解ができないままそれに答える。

「あなた、さっきはごめんなさい、あんな事で怒ったりなんかして・・・・・・」

 何のことだ?さっぱり解らないがとにかくそれに答える。

「いや、悪いのはこっちだ。本当にすまない」

 そう言って冴子を抱きしめキスをする。

 二人は脱力感と共に深い眠りに落ちて行く。

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