第三章 怪物の子供
王妃が怪物を産んだ。だが誰も詳しく説明してくれない。
ならば自分で確かめるしかない。
アントニウスはその夜、乳母の目を盗み、見張りの巡回を避け、赤子が隔離されている石牢へ、こっそり侵入した。
「殿下、何をなさるおつもりです」
振り返ると、腰に手を当て厳しい顔をするテオドロスが立っていた。
「ついてくるな」
「そうは参りません」
「命令だ」
「承服できません」
テオドロスは微塵も怯まない。
「お邪魔は致しません。危険があればお守りしたいだけです」
「……勝手にしろ」
アントニウスは苛立ちながら、予め盗み出しておいた鍵を使って鉄格子の扉を開いた。
石牢の中は冷たかった。
鉄格子の中に揺り籠が一つ。
アントニウスは息を呑んだ。
尖った耳。顔や首、身体全体を覆う煤竹色の鱗。
毛布の隙間から覗く尾。
人ではない。
確かに異形だった。
まごうことなき怪物。
赤子が目を開いた。
アントニウスの背筋を冷たいものが走る。
怖い。
そして恐怖と共に。別の感情が湧き上がる。
こいつが生まれたせいで、母上は――。
胸の奥で何かが焼ける。
赤子は何も知らずにこちらを見ていた。
それが余計に腹立たしかった。
「……っ!」
アントニウスは踵を返した。
逃げるように部屋を飛び出す。
テオドロスも反射的に後を追おうとして、なぜか、揺り籠の中を振り返ったのだった。
誰からも祝福されなかった異形の赤子。
テオドロスはしばらくその姿を見つめる。赤子は再び眠っていた。
テオドロスは静かに扉を閉める。そして走り去った幼い主を追った。
きっと泣いているだろう。テオドロスにとっては怪物の赤子よりもそちらの方が重要なのだった。




