第十九章 副官
その後九年の間にアントニウスは頭角を現し、実績を積み、二十三歳の若さでイミリーシャ王立近衛兵団長に就任した。どこからも異論は出なかった。
ニケフォロイ騎士団で、虐待にも近いような常軌を逸した過酷な騎士見習い訓練を生き延び、十四の年に叙勲されたアンドリもまた、目覚ましい武功を上げるようになった。
そして十五になったところで、王都からの知らせが届く。近衛兵団重装歩兵隊への転属命令だった。命令書には近衛兵団長アントニウス・イミリシウスの名があった。
数度の実戦を経験し、生まれ持った怪力と驚異的な身体能力を存分に発揮した結果、近衛兵団内での昇進は異例の速さで進んだ。
そして十七になってしばらくした頃に、重装歩兵第一小隊を任されることになったのだった。
本来なら隊長職は三十代、四十代の歴戦の兵士が就くものだ。十七歳の少年が任命されたことは当然ながら反発もあった。
「私は貴方の副官なんですよ」
近衛兵団長執務室で、その反対勢力の最たる一人を前に、アントニウスは珍しく劣勢に立たされていた。
「これからもそうあり続けると信じておりましたが」
近衛兵団長付副官テオドロスが納得できない様子で続ける。
ぐうの音も出ない。
どう屁理屈をこねても道理が通らない。
近衛兵団長付副官テオドロスを、アンドリが率いることになる重装歩兵第一小隊へ異動させるなど。
まごうことなき降格だった。
しかも理由に一切の合理性がない。
アントニウス自身も分かっている。これは私情まみれの職権乱用だ。
アントニウスは机に肘をついた。
頭が痛い。
国王や官僚ども相手なら、考えるよりも先に百通りでも口上が浮かぶ。
だが相手がテオドロスでは通用しない。自分の悪知恵も詭弁も全部知り尽くされている。
しかし、テオドロスもまた、アントニウスが本気でアンドリを案じていることを理解していた。
そして、実のところ、自分自身も同じだった。
アンドリは優秀で忠実で、そして善良だ。
だが非常に危ういのも確かだ。特にこの十二年の間にアンドリが数度の暴走を起こしたことを、当然近衛兵団にも報告が届いていた。
近くで見張っていた方が、アントニウスのためになる。そう考えることもできた。
しばらく沈黙した後、テオドロスはふっと笑った。
「体裁が必要ですね」
アントニウスが顔を上げる。
その目に嫌な予感が浮かんだ。
「何を企んでいる」
「皆が納得する降格理由です」
「ろくでもない顔をしているぞ」
「お褒めに預かり光栄です」
十分後。近衛兵団官舎に怒声が響き渡った。




