第十七章 漏洩
復旧作業が終わり次第、騎士見習い訓練に参加する事になったとアントニウスから聞かされた時、アンドリは意味が初め理解できなかった。
「……おれ、が?」
「聞こえなかったか?」
「い、いえ!」
思わず声が裏返る。
騎士とは、アンドリにとって遠い遠い存在だった。自分のような名も持たなかった下働きには縁のない世界だと思っていた。
殿下が道を開いてくださったのだと、説明されなくても分かった。
だが感動したのもつかの間、アントニウスが明日王都に戻ると聞き、その喜びを一瞬で吹き消してしまった。
言葉がなかなか出てこなかったが、ようやく絞り出す。
「……でんかに、かけていただきました、ごこうじょうは……わすれません」
アントニウスは小さく笑った。まるで今生の別れだ。
「以前言った通り、いずれ側仕えに召し上げてやる」
アンドリが顔を上げる。
「だからお前も励め。わかったな。アンドリ」
体温のないはずの身体だが、胸が熱くなった気がした。
「おやくそくします!」
深々と頭を下げる。
その後アントニウスは出立前の挨拶のため、テオドロスを伴ってヨアニスの天幕へ向かっていた。
アンドリもついてきている。別に呼ばれたわけではない。ただもう少しだけアントニウスと話していたかった。アントニウスも、拒まなかった。
天幕の前へ着く。だが普段なら立っている取次の姿が見えない。所用で外しているらしかった。
珍しいこともあると思いながらアントニウスは自ら天幕内に声をかけようとした時だった。
中からヨアニスの声が聞こえた。
「兄が王都へ帰ったら、弟の方はさっさと処分しようと思ったのに」
アンドリが固まる。
「最後まで大したわがまま王子ですな」
別の男の声。騎士団の幹部の一人だ。
「まったく。王妃もとんだ兄弟を産んだものだ」
「兄がわがまま王子なら弟は化け物。兄弟揃って鼻つまみ者とはな」
アンドリは瞬きをした。
殿下のことか? それなら大変な侮辱だが、つじつまが合わない。アントニウス王太子に、兄弟はいないはずだ。
しかも、化け物とはどういうことだ。その言葉が、誰よりも向けられてきたのは自分だったはずだ。
「国王陛下もとんだ女を娶ったものだ」
「早々に処分されてよかったわ」
「これ以上厄介な化け物をぽんぽん産まれても周囲が苦労するだけだ」
アントニウスが無言でアンドリの手首を掴んだ。
「来い」
そのまま来た道を引き返す。テオドロスも慌てて後を追った。




