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悪役令嬢の微笑 ~悪役令嬢はもう良いのに、悪役令嬢が追い掛けてきます~  作者: 冬星明


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第六話 悪役令嬢、領都へ行く(1)

挿絵(By みてみん)

AIイラスト

 アルバーウルフ〔白狼〕のボスに止めを刺し、振り返った私は目を見開き、半ば口を開け、顔が蒼白になった生理的に受け付けないという冒険者の目に晒された。私が一歩前に歩くと、冒険者らは一歩下がって身構えた。挨拶を交わして三人も顔をこわばらせていた。


『馬鹿者、いつか超一流のⅢ級冒険者になるとか豪語しておきながら、本物に会った途端に顔をこわばらせて怯えるのか。そんなことでは一生掛けても近づけんぞ』


 雷のような大きな声を上げたのは先頭で戦っていた冒険者のリーダーであった。そのリーダーが肩に大剣を背にしまって、四十代後半、五十代のおじさんがこちらに歩いてきた。


「すまん。俺はⅤ級冒険者『白竜の牙』のリーダーをしているオデヒ・ミトヨトだ。助太刀を感謝する。そして、許してやってくれ、此奴らはⅦ級冒険者以下の駆け出しばかりだ。本物の冒険者を見たことがない」

「いいえ、気にしていません。私はマリアです。でも、冒険者に本物と偽物があるのですか」

「冒険ができるようになって、はじめて冒険者と俺は思っている。古い連中はみんなそう思っている。だから、Ⅲ級に届いて冒険者だ。俺は入り口まで進んで、その先に進めなかったロートルだ」

「仲間を守りながら戦っていました。私には十分に強そうに見えました」

「そりゃ、白狼に手を焼くようじゃ、冒険者をやっているなんて名乗れん。相手が牙狼だったら俺は後方に回って援護くらいしかできん」

「あいつは速いので倒すまで手間がかかります」

「その言い方だと、あいつに単機で挑んでいるのか」

「わかりますか」

「あいつは速過ぎるから罠を仕掛け、身動きを封じて取り囲んで倒すのが定石だ。同じⅢ級冒険者でも単機で挑める奴は数少ない」

 

 そういうとオデヒは後ろを振り向いて大声で叫んだ。


『このお嬢ちゃんは牙狼を単機で倒せる超一流の冒険者だそうだ。おまえらは運がいい。俺は三十でⅤ級に上がってやっと見ることができた。おまえらはその年で本物の冒険者の戦いを見られた。目に焼き付けたか、この戦い方がおまえらの目指す姿だ』


 冒険者らから一瞬で恐怖が消え、目を輝かせた憧れに変わった。ずわぁっと近づいてきて、好き勝手にしゃべり出した。今度は私が戸惑う番となった。


「ちっこい、これで超一流かよ」

「可愛いじゃない」

「馬鹿、体の大きさは関係ないだろう」

「長寿種かもしれん」

「髪はさらさら、肌はすべすべとかあり得ない。私もなりたい」

「名前」

「出身は」

「付き合っている人はいますか」

「お嬢ちゃんが困るだろう。おまえら、下がっていろ」


 一斉にしゃべりかけられ、私も返事に困る。そもそも質問なのだろうか、見合いで聞くような質問も飛んでいる。見かねたオデヒが若い冒険者を下がらせてくれた。それと入れ替わるように、馬車の中から降りてきた商人風の男が挨拶した。


「この度はお助け頂いてありがとうございます。私はルベーア商会のエスタテ領都支店を預かる主のオテ・ダンマアと申します。お名前は何とおっしゃるのでしょうか」

「マリアです。ただのマリア様です」

「タダノ・マリア様でよろしいでしょうか」

「いいえ、苗字のない、平民のマリアです」

「平民でございますか……承知致しました。平民のマリア様とご認識致します」


 オテは平民と聞いて戸惑い、すぐに何かを理解したように態度を改めた。商人は油断ならないと聞いていたが本当だと思う。オテを見たことはないが、ルベーア商会はキャラバン隊に参加している商家の一つだ。


「マリア様はどのような御用でどこに向かわれておられますか。お急ぎでなければ、領都までお出で頂けますと、それ相応のお礼をさせて頂きます」

「急いでいるので領都には行けません」

「急ぎの御用事ですか」

「はい、十三歳になったので冒険者登録をしようかと思って、テデゴセに向かっています」


 周りの冒険者がざわついた。

 そりゃ、この実力で十三歳、しかも冒険者登録もまだと聞けば驚くだろう。しかし、オデヒが「黙っていろ」と一言いうと皆が静かになった。


「そういうことでしたら、お役に立てるかもしれません」

 

 商人のオテがニッコリと微笑んだ。

 オテの目の奥に獲物を捕らえた狩人のような輝きが見えた。

 私、おいしく頂かれるの。

 ・

 ・

 ・

 三日後、私は領都にやってきた。

 御用商人オテの思惑通りだが、フリーの駆け出し冒険者だと非常に重い税金がかかると教えて貰った。税率が七十パーセントは取り過ぎだよね。

 ポン太は異論があるようだ。


“別に異常ってことはないだろう。駆け出しの冒険者が無理に上位の魔物の討伐を避ける為の規約と説明してくれただろう”

<確かにそうだけど>

“テデゴセ冒険者ギルドの試験を通過しても駆け出しのⅧ級冒険者にしかなれない。そして、ご主人様は主に危険ランクⅣの魔物を売る。一つ上の魔物を卸すごとに十パーセントの税が上乗せされ、四つランクが上になるので四十パーセントだ。元々の税率三十パーセントを加えると七十パーセントになってしまう”

<酷いと思わない>

“全然、酷くない。駆け出しの冒険者が森に入って、危険な魔物を討伐しようとするのを避ける為だ。駆け出しの冒険者がレプス砦の奥の魔物を討伐するのが異常なんだよ”

<オテさんの思惑通りか>

“嫌ならテデゴセで冒険者になればいい。高い税率を払った上、有望な新人は漏れなく領主様から招待状が届くらしい”

<青田買いだね>

“有能な新人を安く家臣に取り入れる。あるいは、お抱えの冒険者に登録して領地に貢献させる”

<名誉騎士の称号なんていらない>

“ご主人様がいらないと言っても押し付けてくる。そして、依頼討伐で税金逃れだ。それが嫌なら御用商人のお抱えになるのが一番と言われて承知したんだろう”

<オテさんの思惑通り>

“御用商人のお抱え条件は緩い。一定数の討伐した魔物素材をルベーア商会に売る。それだけだ。しかも他より高く買い取ってくれるんだ”

<そうなのよね>

“ウィンウィンだろう。さっさと推薦状を貰って領都の冒険者ギルドに行こうぜ”


 私は領都近くの林に転移すると、街道を歩いて領都の門の前で見上げた。

 レプス砦より大きな建物は初めてだった。もちろん、前世の記憶にこれより凄い摩天楼の町並みがあり、悪役令嬢の伯爵領都の方が大きい。でも、イルターの中では一番なのだ。

 オテさんから預かったワッペンを見せると、通行料も請求されずに中へ入れてくれた。通りには猫耳、犬顔、小人、巨人といろいろな種族が暮らしているのがわかった。


“ご主人様、あまりキョロキョロするな。恥ずかしいぜ”

<だって、気にならない>

“ならねえよ”

<あの猫耳は可愛くない>

“普通だろうというか、虎族だ”

<えっ、虎耳なの?>

“あっちは魔族だ”

<普通の小柄なおじさんに見える>

“ご主人様と同じ幻影だな”

<この世界にも幻影魔法があるのか。心眼とか、真実の宝玉とかあると嫌だな>

“そんなレアスキルに、レアアイテムがゴロゴロしているものか”

<だよね>


 大通りを歩いてゆくと、すぐに水場広場が見えてきて、ルベーア商会の看板が目に入った。私が店に入ると、オテさんは推薦状を用意して待ってくれていた。推薦状には辺境伯のサインと押印があった。


「そんなに簡単に許可がおりるのね」

「ルベーア商会の信用力と言いたいところですが、辺境伯様からすれば、他の冒険者ギルドや領都以外に拠点を持つ商人に売り買いされるのを嫌がっているのです」

「領都以外で売り買いするとどうなの?」

「税収の十パーセントが領主様に収められます。領都で売り買いすれば、辺境伯税と合わせて二十パーセントの税収となります」

「残りの十パーセントは?」

「王国に収められる分となります」


 なるほど、税は領主、辺境伯、王家で三十パーセントだった。

 しかも税金は魔物関係と荷馬車一台以上の大型取引のみであり、それなりの商家にしか掛からない。小さな店や行商には対象外だった。

 小さい店はお得じゃないかと思った瞬間、まるで察したようにオテさんが言葉を付け加えた。


「マリア様、小さな商家は小さな問題を抱えるのです。揉め事が起きると、訴訟に金が掛かります。仮に勝っても相手が納得せず、決闘裁判を持ち込む場合も多いのです」

「決闘裁判ですか」

「勝った方が勝訴という単純な裁判です。貴族が相手だとまず避けられません。しかし、税金を払っている商家、賄賂を送るお気に入りの商家は領主様から代理人が派遣されます。領主の代理人に立ち向かうのは領主に逆らうのと同義となり、かなりの貴族とのトラブルを避けることができるのです」

「タチの悪い貴族対策ですか」

「その通りです。小さな商家が小銭を稼ぐと悪党が寄ってきます。同じく駆け出しの冒険者が大金を得ると因縁をふっかけられます。マリア様が決闘裁判で負けることはございませんが、御用商人のお抱えになると、そういったわずらわしいことからも逃れることができるのでございます」

「わかりました。冒険者ギルドで登録してきます」

「お早いお帰りをお待ちします」


 それなりの魔物素材は冒険証がないと取引できない。

 推薦状は冒険証の代わりにならないので、冒険証を手に入れる為に水場広場を斜めに通って冒険者ギルドの門を開いた。中に入ると、受付嬢が声をかけてきた。


「ようこそ、エスタテ冒険者ギルドへ。どのような御用でございましょう」

「冒険者の登録にきました。素材の買い取りもお願いします」

「でしたら、まず右手前の受付に声を掛けて下さい。その奥は依頼達成の確認所となります。また、素材回収は玄関を出て右手を回った素材回収所の窓口で受け付けております。冒険証を受け取った後にそちらにお回り下さい」

「ありがとう」


 魔物素材を誰に売るのかは私が決めていいそうだ。

 ルベーア商会に売らなくともペナルティーはない。しかし、そんな不義理をすれば、問題が起こったときに救いの手を差し出すだろうか、答えは否だ。逆にテオさんが高値で買い取ってくれるなら、すべてルベーア商会に売って問題ない。しかし、それでは冒険者ギルドでの評判を悪くする。冒険者ポイントという貢献度も加算されず、上位のランクに上がれない。

 Ⅲ級冒険者の称号を目指す人にとって重要なファクターだが、私は駆け出しの冒険者を保護する加算税が解除されるⅤ級の資格を得るだけで問題ない。

でも、厄介事は避けたいので少しくらいは冒険者ギルドにも魔物素材を納めておくつもりだった。

 右の受付のカウンターへ進むと、左手の受付が騒がしかった。

 私は受付に推薦状を提出すると聞いてみた。


「何か、問題でも」

「はい。猫耳のお母さんが石化病に罹ったそうですが、治療薬のシーナ草が手に入らないそうです」

「シーナ草って、何?」

「少しお待ち下さい」


 受付のお姉さんが推薦状を奥に送ると、本箱から図鑑を取ってきてくれた。推薦状を受け取った役員が裏面に判子を押すと、次の部署へ送った。戻ってきたお姉さんが図鑑を開き、開いたページを指差した。


「これがシーナ草です。葉が七色に揺らぐのが特徴です。魔力の塊を溶かす効果があり、獣人が魔力過多になると起こる石化病の特効薬だそうです。残念ながらかなり深い森の奥にしか存在せず、採取の依頼は高額になってしまうのです」

「これが?」

「獣人族は森の奥に住みます。その村の戦士がおり、その戦士が採りに行くのでしょうが、彼らはその森から逃げてきた難民らしく、シーナ草を採りに行ける者がいないそうです。三日前から来ているのですが、我々ではどうしようもありません」


 可愛い黒猫族の子供がカウンターの受付嬢に頼んでいるが受付嬢は困り果てている。それは仕方ないが、その周りに黒猫族の子供をからかう冒険者が鬱陶しい。


「いいか、小僧。シーナ草は森の奥地でしか取れない魔法草だ。危険な森の中を何日も潜り続ける。金貨一枚でも足りないくらいだ」

「お願いします。お金はいつか払います。お母さんを助けて下さい」

「ごめんなさい」

「お姉さん。貧しい者には特別依頼を受け付けてくれるって」

「それはドブ攫いのような危険のない仕事のみなのよ」

「お母さんが死んじゃう」

「獣人なら自分で取りに行けばいいだろう」

「そうだ、そうだ」

「金貨百枚を用意してくれるか。それなら引き受けてやってもいいぞ」

「獣人は高く買ってくれる。十人ほど、奴隷落ちすれば手に入るぜ。何なら俺が口利きをしてやろうか」

「僕だけなら、僕だけでいいならなりますから」

「子供は安い。金貨一枚になるかどうか」

「お願いします」

「そうか、仕方ないな。お前を売った金で依頼を出すだけならば、やってもいいぜ」


 小悪党がニヤリと笑っていた。

 その目は金だけ奪って逃げるつもりだ。猫耳の子供がその手を取ろうとしていた。

 見ていられない。

 私はすっと近づいて、男に差し出す子供の腕を掴んだ。


「はぁ、なんだ。てめい」

「ちょっといいかしら」

「俺を無視するな」

「その薬草なら、私が採ってきてあげる」

「本当ですか」

「おいこら、聞いているのか」

「小悪党、五月蠅いから黙っていなさい」

「なんだと!」


 怒鳴る小悪党な冒険者を無視するように私を担当していた受付のお姉さんが冒険者登録書を持ってきた。


「マリサさん、まだ登録が終わっていません。名前、年齢、その他の事項をお書き下さい」


 私はペンを受け取って名前を書き出す。その書類を覗き込むと小悪党な冒険者が勝ち誇ったように言い出した。私は無視したけど、受付のお姉さんは何か思うところがあったのか、小悪党な冒険者を煽っていた。


「お前は知らないかも知れないが、駆け出しの新人は森へ採取なんて依頼は受けられねえんだよ」

「そちらは問題ございません。こちらのマリアさんは推薦状をお持ちですので、Ⅴ級冒険証が発行されます。そちらのⅥ級と違い、すべての依頼を自由に受けることができます」

「なんだと。この小娘がⅤ級だと。いつから冒険者ギルドは子供の子守りを引き受けるようになった」

「ギルドは子守りを引き受けませんが、子供を騙して金儲けをしようとか考える方を好印象があるとか思わないで下さい」

「てめい、やるっていうのか」

「職員に手を出せば、どうなるかご存じないならばお相手します。私らの護衛はそれなりに強いとお心得下さい。当然、冒険証も没収され、犯罪奴隷に落ちる覚悟があれば挑んで下さい」

 

 そう言えば、冒険者ギルドのギルド長は貴族がなるとテオさんから教えて貰った。

 そうなると職員は従僕であり、従僕への攻撃は貴族への攻撃と見なされるので、平民である冒険者に分が悪い。最悪、決闘裁判を仕掛けられ、ギルドに反抗する馬鹿への見せしめもありうる。

 それがわかっているのか、小悪党な冒険者が私に狙いを変えた。

 冒険者登録するくらいだから私、マリアは平民だ。

 しかも冒険者の行動は自己責任とされており、喧嘩で負傷させても責任は問われない。


「てめい、表に出ろ。ボコボコにしてやる」


 受付のお姉さんは涼しい顔でまったく気にしない。

 Ⅴ級の推薦状を持ってくる意味をよく理解しているのだろう。そして、私が表に出ると、玄関の外で待っていた小悪党な冒険者が剣を抜いて襲い掛かってきた。

 もちろん、私はデコピンの一発で撃退した。

 黒猫族の子供の話を聞こうか。


◇魔物と冒険者の対比◇

UⅠ:神、魔人 〔神罰級ウルティオ・ディウィナ〕 ⇔ なし

UⅡ:天使、悪魔、古代龍 〔天罰級ウルティオ・ナートゥラーリス〕 ⇔ 超人

UⅢ:災害獣[危険度(超)]、竜(大)、魔王 〔災害級ウルティオ・クラディス〕⇔ 英雄

危険ランクⅠ:災害獣[危険度(大)]、竜(中)、魔族(上位種) ⇔ Ⅰ級冒険者(神級)

危険ランクⅡ:災害獣[危険度(中)]、竜(小)        ⇔ Ⅱ級冒険者(王級)

危険ランクⅢ:災害獣[危険度(小)]、竜種ワイバーンなど ⇔ Ⅲ級冒険者(超一流)

危険ランクⅣ:魔物[危険度Ⅰ級(超危険)] ⇔ Ⅳ級冒険者(一流)、聖騎士級 

危険ランクⅤ:魔物[危険度Ⅱ級(危険大)] ⇔ Ⅴ級冒険者(中堅)、騎士級(上級)

危険ランクⅥ:魔物[危険度Ⅲ級(危険中)] ⇔ Ⅵ級冒険者(一般)、騎士級(小・中級)

危険ランクⅦ:魔物[危険度Ⅳ級(危険小)] ⇔ Ⅶ級冒険者(新人)、兵士(上級)、軍兵

危険ランクⅧ:魔物[危険度Ⅳ級(獣並)] ⇔ Ⅷ級冒険者(駆け出し)、兵士、地方兵(一般)

―――――<最低ライン>―――――

危険ランクⅨ:獣[危険(小)] ⇔ Ⅸ級冒険者(見習い)、兵士、地方兵(少年見習い)

危険ランクⅩ:獣[危険(微小)] ⇔ Ⅹ級冒険者(子供救済)



挿絵(By みてみん)

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