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婚約破棄をされて死にたがりになった令嬢と外道メイドの話

作者: 山田 勝
掲載日:2026/01/29

「グスン、グスン、もう嫌、死にたいですわ」

「グヘグヘ、グヒヒヒヒィ、お嬢様とっても良い方法があるじゃーないですか?」


「何・・・・リディア」



 私は婚約破棄をされた。学園で噂をされ。寮に閉じこもっている。

 ダミアン様、5歳の頃に婚約を結んで以来愛を育んでいたのに。

 それが王都の学園に入学してから音信不通。


 私も今年入学して会いに行ったら隣に侯爵令嬢がいたわ。

 それからお決まりの罵倒からの婚約破棄。きっと学園雀たちに噂されているわ。

 田舎女の私ではダミアン様とは不釣り合いだそうだわ。


 つい。


『死にたい』と言ったらメイドのリディアに良い方法はあると言われたわ。



「お嬢様は死にたいじゃーないですか?」

「ええ、そうよ。死んでダミアンとあの女に伯爵令嬢としての誇りを見せつけますわ」

「なら、お金を下さい。金貨30枚でいいじゃーないですか?」

「分かったわ」


 お父様から頂いた社交費用を渡したわ。


「では、来て下さいじゃーないですか?」

「え、部屋ではダメなの?」

「準備があるじゃーないですか?」


 そういうものかしら。


 下町に連れて行かれた。


「お金落ちてないかしら。あら、お金をもってそうなお嬢様ね」

「お、綺麗な姉ちゃん」


 下町で下卑た視線を受ける。


 ボロボロの小屋に連れて行かれた。


「グヘへへへへ、リディア、お客様かい?」

「ヒーヒヒヒヒヒ、死にたがりの令嬢ね」


 意地悪そうな夫婦を紹介された。


 イワンとターニャという30代の夫婦だそうだ。

 男はやせて目の下に隈が出来ている。

 女は髪がヨレヨレで釣り目、意地悪そうだわ。


「私は仲介料で一割もらうじゃーないですか?」

「グヘへへへへ、任せなさい。楽に死ねる薬があるわ」


 どうやら魔道師のようだ。



 プランを紹介してもらった。

 森で眠るように死ぬ。

 動物たちに見送られる死に方だわ。悪くない。


 イワンとリディア、それと護衛で冒険者が来た。


「おい、セドル、護衛として来い」

「はい?リディアとイワンさん。悪い予感しかしねえ。お嬢様、騙されていませんか?」

「お兄ちゃん。お仕事じゃーないですか?リディアのお願いじゃーないですか?」

「だから、俺はお前の兄ではない!」


 セドルは10代後半かしら。端正な顔立ちはダミアンとは違った魅力があるわ。誠実が顔に出ているわ。リディアの兄ではないようだわ。

 でも、平民だわ・・・




 森に行き動物を集める魔法をかけてもらった。



「ギャ」「ギャ」

「ギャア」


 森に動物たちが集まるが様子がおかしい。


「リディア、この動物は何?」

「アナグマじゃーないですか?雑食性で畑を荒らす動物じゃーないですか?」


 可愛くない。前から見たら人を馬鹿にしたような横から見たら人を騙すような顔をしている。


「リディア、兎とかが良いわ」

「え~、この魔法は動物選べないじゃーないですか?」


「せめて、クマさんとか・・・」


「おい、熊が現れた。逃げろ!」


「ガオー!」


「逃げるじゃーない?」

「キャア!」


「お嬢様、お逃げ下さい!」


 セドルが1人残って戦ったわ。

 大丈夫かしら。



 翌日、血だらけで包帯を巻いたセドルと合流した。


「はあ、はあ、はあ、お嬢様、無事で良かった」


「・・・そう、有難う」



 変な話だわ。死にたいのに。

 また。プランの練り直しだわ。

 今度は薬を飲んで水死だわ。



「遺書を書いて靴を岸に揃えるじゃーない?」

「キ~ヒヒ、薬はこれじゃ」


 セドルも見張りで来ている。彼を見る。背中が見えるわ。最期に顔をみたいわ。



 薬を飲もうとしたら。


【ギャアアアー、助けてくれ!】


 川の中から悲鳴か聞こえるわ。



「サムだ。あの野郎、簀巻きにされてながされてやがる!」


「キャア!」


 セドルが服を脱ぎ川へ飛び込んだわ。

 たくましい体・・・


 これで分かったわ。彼は私だから助けたわけじゃない。ただ優しいだけだわ。



「はあ、はあ、はあ、セドル。すまねえ」

「サム、だから賭博をやめろって言っただろうがよ!」


 賭場の借金が払えずに川へ流されたそうだわ。

 状況は分かるが意味が分からないわ。



 それから、部屋で死ぬことにしたわ。

 学園の寮だと警備がある。ホテルだと迷惑がかかる。


 ということで小さな家で死ぬことになった。家主とは話がついているらしい。


「まあ、リディア、綺麗ね」

「グヘへへ、お花です。この季節苦労したじゃーない?」


 ベッドは花で埋もれていた。これで尊厳のある死を迎えられるわ。

 私は一番お気に入りのドレスと宝石を身につけた。

 枕元にはダミアンを糾弾する遺書を添えているわ。


「ターニャさん。薬を」

「キーヒヒ、薬はダメねえ」

「エッ、楽に死ねるお薬・・」


「馬鹿だね。ここで死んだら検死されて私まで来るから刺殺だよ」


 話を聞くと森で死ぬと動物たちに食べられて骨だけになる。

 水死だと体が膨張して死因が溺死になる。

 話が違う。


「そ、そんな。眠り姫みたいに死ねるのではないですか?」

「いんや、すこ~し、痛いだけだわ」

「分かるのですか?」

「分からないね。死んでないから、さあ、さっさと死のうか?サム!」


 ドアからサムが入って来た。短刀を持っている。あの簀巻きにされて川に流された男だ。


「姉ちゃん。借金があるからセドルに譲ってもらったぜ。自分で刺したように出来るぜ。お嬢様は貴族令嬢らしく死を持って抗議したってね」



 せめて、セドルじゃないの?


「リディア、セドルは?ヒィ」


 リディアは私の宝石を凝視していた。


「あ、宝石もらえるとか思っていないじゃーないですか?」


 嘘・・・・


「毎度、買取り屋です」

「まだ、入ってきちゃダメじゃないですか?」

「あら、本当だ。まだ、死んでない」


 また、人が入って来た。

 おそらく、宝石を買取るのだろう。これは・・・お母様から贈られた物・・・


「ぃゃ・・・」


「ではお嬢様、寝て下さい。首に短刀を刺しますから。リディア、押さえつけろ」

「分かったじゃーない?」

「ヒィ」


 リディアが馬乗りになって押さえつけられた。


 サムの顔が近づく。


 せめて、セドルに優しく・・


 思わず口に出た。


【セドル!助けて~。私、こんな殺され方、いやーーーーー!】


 するとドアが開きセドルが飛び込んで来た。


「お前らやめろ!」


 リディアを突き飛ばし。サムを引き剥がした。


「お嬢様が嫌がっているじゃないか?」


 私を背にして庇ってくれたわ。


 すると、リディアが私に尋ねるわ。


「お嬢様、嫌なのですか?」

「ええ、嫌ですわ」

「何が?こちらは誠心誠意死を提供したじゃーないですか?」


怒っているのかしら。

「私は・・・・」


 どうせこいつらにはろくな死に方を提供できないのだろう。


【私は死ぬのが嫌ですわ!皆、馬鹿にしてぇ!見返してやりますわ。リディア、貴方はクビよ!】


 すると、リディアは。


「あ、そう、キャンセルですね。じゃあ、私への仲介料とキャンセル料を一割抜いて金貨24枚返すじゃーないですか?」


「えっ?」


「さあ、皆、退散じゃーないですか?」

「しゃあねえ。キャンセルじゃ仕方ない」

「ほれ、キャンセル料に含まれている。お薬だ」


 ターニャさんから薬を渡された。小さな瓶にドクロのマークがあるわ。


「お嬢様」

「グスン、グスン」

 セドルの胸の中でしばらく泣いた。


 馬車を呼び寮まで行くようにしてくれたわ。


「お嬢様、お疲れ様でした」

 セドルは見送ってくれたわ。


 寮に戻るとお父様とお母様、お兄様と妹がいたわ。


「心配したぞ。これからダミアンを糾弾する!」

「そうよ。馬鹿にして」

「兄に任せよ」

「お姉様、私がついていてあげるわ」


「生きていてくれて嬉しい。それだけで父は満足だ」

「グスン、グスン、死にたがっているとの噂を聞いたから心配して家族で来たのよ」


「皆・・・有難う。でも・・・厚かましいけどお願い。いえ、お父様、お母様、皆にお話がありますの」



 その後、父にせがんで調査をしてもらった。下町のあのボロ小屋に行っても人が住んでいないようだ。

 冒険者ギルドに行ってもセドルという名の冒険者がいたが、お爺ちゃんだ。


「はて、セドルはワシじゃが?サムに至っては大勢いるの」

「そうですか」



 学園に行く。

 私と領地が近い幼なじみが声をかけてくれた。


「授業が遅れていますわね。ノート貸してあげてよ」

「メルダ様、有難う。普通に接してくれて」

「まあ、どうされたのかしら・・・顔が輝いているわ。新しい恋でも見つけたのかしら」

「実は・・・」


 親友に話そうとしたら、ダミアンの声がした。


「やあ・・・父上に怒られた。婚約を結び直せって言われた。一時の気の迷いだった。男子たる者、一度はある。カフェに行こう」


 メルダ様が耳元で教えてくれたわ。


「ダミアン様のお相手・・・侯爵令嬢じゃなくて、庶子だったのよ」

「まあ、そうなの・・・」


「ああ、復縁をしてくれたら、死んでも良い。それが君への償いだ」


 ダミアンが死ぬと言ったわ。

 だから、ターニャさんから渡された楽に死ねる薬を渡したわ。


「これ、飲んで下さる」

「え、ドクロのマーク・・・毒薬か?いや、父上に相談しなければ・・・」


「さあ、グィと飲んで下さいませ」


 あら、遠目に生徒会長の殿下が見えるわ。

 それに従うのは騎士。


「なあ、死ぬのは方便だ。いい加減に機嫌を治してくれ。プレゼントも用意する」


「メルダ様、あの包帯を巻いた騎士は?」

「確か、平民騎士で剣術大会優勝、殿下の護衛騎士に抜擢された方だわ。最近、どこかで戦ったようで包帯を巻いているわね。名前は・・確か」


「セドル様よね!」


「おい、婚約を結び直そう!」

「メルダ様、失礼、急用が出来ましたわ」


 私はダミアンの呼ぶ声を背にセドルに駆け寄った。


「セドル様!ひどいですわ。お礼を言わせて頂けないなんて!」


「ヒィ、お嬢様!」



「セドルよ。任を解く。しばらくそのご令嬢と話をしなさい。セドルは婚約者いないようだからな」

「殿下」


「ウム、あの令嬢の恋い焦がれた顔を見るが良い。誠実に答えを出してあげなさい」


「フフフフフ、殿下、ご挨拶を申し上げます」

「挨拶はよい。セドルを貸し出すぞ」




 ・・・後にあの薬を鑑定したらただの水だったわ。芝居だったのかしら。これからセドル様に聞こうと思う。


 今では死ぬまで死なないと決めたわ。

 だって、世の中はこんなに楽しいのですもの。



最後までお読み頂き有難うございました。

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