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三題噺もどき4

独白‐5

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃく。

 




 リズムよくまな板を叩く音が、キッチンに響く。

 その音を出しているのは自分だが、心地のいいものだ。

 毎日聞いていても飽きの来ないくらいには。

「……、」

 まな板の上にできた切りそろえられた食材を、火にかけられた鍋の中にいれていく。

 中には水が入っており、すでに少々温まりつつある。その中に、ぼとぼとと人参と大根を入れていく。あとは揚げと、豆腐かワカメがあれば入れたいが……豆腐……。

「……」

 包丁とまな板をいったん置きつつ、冷蔵庫の確認をする。

 把握しているつもりではあるが、抜けだってないわけではないのだ。

 結局目で確認した方が早い。

「……」

 揚げは冷凍保存していたものを冷蔵庫に入れなおしてある。

 今日全部使うつもりではあったので問題はないが、思っていたより入っていた。

 まぁ、いいか……うちのご主人は、揚げは好きだからな。

「……」

 残念ながら豆腐は見当たらなかった。まぁ、ないとは思っていたが……明日にでも買いに行こう。ワカメは水で戻すタイプのモノを置いていたのがあったが、揚げを入れたら量が具沢山になりすぎたのでやめておこう。

 多く食べられるのはいいが、あまり多すぎでも食べづらくて仕方ない。

「……」

 中身を軽くかき混ぜて、火が通るのを待つ。

 後は、一度落ち着かせてから味噌を溶かしいれて、沸騰させないように気を付けながら再度火にかければ、味噌汁が出来上がる。

 これと、あとは、野菜と今日は鮭があったからそれを焼くとしよう。それに炊きたてのご飯がつけば完璧な朝食の出来上がりだ。

「……」

 今朝の朝食は、典型的な和食である。

 ご主人がこの国に来て、見事にはまって、住み着く理由の一つにもなった和食。まぁ、いつまでも納豆は食べられないようだけど。

 ……たまにはと思って。

「……」

 その、ご主人は、今日も飽きずにベランダに出て煙草を吸っている。

 いつもと同じ時間に起きているはずなのに、日に日に陽の落ちる時間は長くなり、今は眩暈を覚えるほどに外は明るい。日中程には陽の光が強くないにしても、こちらからすると少し気を抜けば焼かれてしまいかねない。

 正直、ご主人は耐えられるかもしれないが、多少なりとも心配はするし、先にも言ったように自分の身に降りかかるかもしれないと言う不安がないわけではないので、控えて欲しいのだが……まぁあれはもうどうにもできないくらいに日課になっているから何も言わない。

「……」

 面倒事が片付いて、ひと段落して。

 あれから数日が経っている。

 あの後、それなりに釘を刺して、今までも何度も言っていたことを口すっぱく言い直して。最初の二日間くらいは、大人しくしていたが、その後はもういつも通り、今まで通り。多少反省はしたのか厄介ごとを持ってくることはなくなったが……ご主人の場合は厄介ごとが勝手についてくるから、そこは仕方ないと言えば仕方ない。

「……」

 まぁ、幼かったあの頃に比べて、多少なりとも我をもって、好きなように動いている結果なのだとしたらあまり言いたくはないのだけど。

 明日をあんなに嫌っていたあの子が、明日を守るために動いた結果なのだとしたら、言いたくもないが……。

 それで、自分自身が危うくなっていては意味がないだろう。

「……」

 まぁ、そうならないために。

 自分が居るのだから。

 守られるように、守ればいいだけか。


 ―ガチャン


 あぁ、鍵を閉めていたのを忘れていた。






「おぉ、今日は和食か」

「えぇ、たまには」

「お前の作る味噌汁は美味いからな」

「それはよかったです」










 お題:明日・眩暈・不安

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