第七章:闇の魔導具の危機
黒崎悠翔は、江戸城の一角で与えられた部屋に座り、スマホを手に震えていた。画面には、赤く点滅するバッテリー残量表示。2%。彼の最大の武器であり、「未来の叡智」を証明する魔導具(自称)が、今、死にかけている。
「くそっ……! この魔導具が沈黙したら、俺の闇の力も半減だ! 充電器さえあれば……いや、待て、この時代に電気なんてねえ!」
悠翔は頭を抱えた。彼の厨二病は、どんなピンチも「試練」と変換する力を持っているが、今回はさすがに焦りが勝る。幕府の老中・阿部正弘、長州藩の桂小五郎という大物を味方に引き込んだ今、スマホが使えなくなれば、彼の「未来の使者」としての説得力が揺らぐ。歴史の授業で習ったことなんて、黒船来航と開国くらいの大雑把な知識しかない。細かい策なんて、全部その場のノリと口達者さで乗り切ってきたのだ。
「ふん……! 闇の使者に試練はつきもの! この危機こそ、俺の真の力を引き出す契機だ!」
彼は自分を鼓舞し、マントをバサリと翻した。だが、内心では冷や汗が止まらない。部屋の障子越しに、遠くで武士たちの足音が聞こえる。江戸城は、開国派と鎖国派の対立で日に日に緊張感が高まっている。悠翔の存在は、両派にとって「未知の変数」だ。開国派の役人たちは、彼を「怪しい異国の間者」と疑い、排除の機会を伺っているという噂も耳にしていた。
その時、部屋の戸がガラリと開いた。佐藤清十郎が、いつもの軽い笑みを浮かべて立っていた。
「よお、小僧。暗い顔してるな。闇の使者様が、こんなとこで落ち込んでちゃ駄目だろ?」
悠翔はムッとして立ち上がった。
「ふん! 俺が落ち込むだと? 貴様、俺の闇の魂を侮辱する気か! ただ、魔導具の力が一時的に……その、弱まってるだけだ!」
清十郎はクスクスと笑い、畳にドカッと座った。
「まあ、いいさ。実はな、厄介な話だ。開国派の連中が、貴様を老中の前で糾弾するって騒いでる。阿部様も、貴様の知識を試したいってよ。明日、評定所で貴様の弁明を聞くってさ」
悠翔の心臓がドクンと鳴った。評定所? 幕府の重鎮たちが集まる公式の場だ。そこで失敗すれば、歴史を変えるチャンスを失ってしまう。だが、彼の厨二病はここでも火をつけた。
「ふはは! 評定所だと? 絶好の舞台じゃないか! 俺の闇の言葉が、開国派の愚かさを打ち砕く! 清十郎、貴様も見ていろ! 俺が歴史を塗り替える瞬間を!」
清十郎はニヤリと笑い、立ち上がった。
「その意気だ、小僧。だが、開国派の筆頭、井伊直弼の側近が動いてる。甘く見ると痛い目を見るぞ。せいぜい、闇の力とやらで乗り切ってみせな」