歩く地雷
どこへ行っても何をしても、それどころかどこへも行かなくとも何もしてなくとも、何となく噛み合わない。どこが悪いわけでもなく、何か致命的なミスを犯しているわけでもなく、何故かはよく分からないが、いつもどこかずれている。ねじがひとつだけ外れている。それはもう暗黙の了解だ。孤立した弱小国が手足をもがれるのを周辺国が淡々と眺めているように。ボーンマス・ハミルトン条約に違反していようがいまいが、レ・ミリオン同盟が秘密裏に締結し、そうである事が常態化した今となってはもう遅いのだ。見えもしない事を堂々と喧伝し、ありもしない事を飄々と騙る。薄汚れた手のひらに深々とどでかい十字架でも刻んでみたらどうだ。スキーマがずれる事は罪ではない。少なくとも罪ではない。そうだろう? なあ? 目の前で破裂する瞬間を見ていないからそんな現実離れした事が言えるんだ。いやいや、そう言うなよ。言うほど悪くない。爽快だぜ。空を飛んでいる間だけは、な。
それがピタっと綺麗にはまる瞬間をいつも夢見つつも、そんな気配すら毛頭ない事にもはや落胆すらしない。生きとし生ける屍に畏まった挨拶を送る。彼ら彼女らの目をくり抜いて豪華絢爛に装飾された皿の上に並べておこう。さぞかし上品な味がするのだろうや。目なんてあっても無くてもこれっぽっちも変わりやしないのだから。少しでも血となり肉となり供物の腐敗を妨げる一助となる事をただただ祈るばかりだ。これでもかと丹精に敷き詰められた地雷原をてくてくと歩くのには必要ない。しかし、彼ら彼女らの怒りも尤もだ。土足で部外者が部屋を横断したら罵声の一つや二つ浴びせてやるってのが礼儀ってもんだろう。そうでもしなくちゃ暴れ散らかす腹の虫が治まらないってもんよ。……歩けよ歩け。犬も歩けば棒に当たる。雉も鳴かずば撃たれまい。五十歩百歩。猫に小判。
外を歩いていて暗殺されるのが怖い?いい事を教えてやろう。とっておきのな。地雷は一度爆発したら二度と爆発しないんだよ。同じ地雷はな。まあ、あれだ。洗脳した記憶さえ洗脳してしまえば元通りって言うだろ? そうそう、掛け違えたボタンだよ。ああ、掛け損なったのは頭のネジだったか。あははは。
彼らの「神」に該当する言葉が我々の「 」であったのなら。夜が始まる。白い吐息。黒い太陽。赤い満月。綺麗な服をお召しになった人形。カラスのいない墓場。