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推しとの出会いは突然に

 夜空に散らばる星のように(きら)めくシャンデリア。

 鏡のように磨かれた大理石の床。

 各家の威信(いしん)をかけた華やかなドレスをまとう令嬢たち。


 アメリアの目に映るすべてが、今彼女がいるのが、“いつもの日常”ではないことを告げていた。


(……あれ、この光景、どこかで……)


 胸の奥がざわめく。

 忘れていた何かが、頭の中でカチリと噛み合ったような気がした。


 (そうだ。ロイヤルアカデミア……私、この場面を知ってる)


 途端、遠い記憶が洪水のように押し寄せてくる。


 仕事の昼休みに新刊を買いに走ったこと。

 地域限定のグッズを集めるため、遠出した休日。

 大好きな人の過去を読んで泣いた夜——。


(これは、前世の記憶……? 私、ロイアカの中でアメリアとして暮らしていたってこと?)


 理解した瞬間、目の前の光景が一層鮮やかに見えた。


 アメリアの前には、深紅のドレスの裾を握りしめ、憎悪に燃えるエメラルドの瞳でこちらを睨む金髪の少女が立っていた。


 くるりと巻いた金髪。派手な装飾のドレス。

 どこからどう見ても“悪役令嬢”。


「エ、エ、エイベル様——っ!?」


 思わず素っ頓狂(すっとんきょう)な声が出たアメリアに、すぐ横の青年が眉を寄せた。


「アメリア、大丈夫か? 急にふらついたようだが……体調が悪いのか?」


(……マクスウェル殿下!? エイベル様が衝撃すぎて完全に見落としてた!)


 透き通るような黒髪と、深海のような藍色の瞳。

 近くで見るには破壊力がありすぎる精悍な顔立ち——間違いなく彼だ。


 コホン、と咳払いをしたエイベルがマクスウェルのほうに身体を向ける。


「殿下、私はあなたの婚約者ですわ。なのに、どうしてその小娘を庇うのです?」


「……君との婚約は家同士が勝手に決めたものだ。

 君は罪のないアメリアを何度もいじめた。その証拠も揃っている。

 君は未来の王太子妃に相応しくない。——よって、ここにエイベル・ロゼティーナとの婚約破棄を宣言する!」


 会場がざわめきに包まれる。


「噂は本当だったのね!」

「あの子が、最近殿下と仲の良い転校生かしら?」

「エイベル様、嫉妬でいじめだなんて……なんて恐ろしいのかしら」


(本当に小説通りだ。このままだとエイベル様は断罪されて国外追放されてしまう……そんなの絶対に嫌!!)


 唇をわなわなと震えさせるエイベル。


 その姿を見たアメリアは、自分の心を落ち着かせるように息を吸い、マクスウェルを見上げた。


「マクスウェル殿下。

 どうか……エイベル様と二人だけでお話しする時間をいただけませんか。少し、誤解があったのかもしれませんの」


 前世を思い出す前の“アメリアの口調”を真似て微笑む。


「もう少しで、君をエイベルから遠ざけられるんだよ。そうすれば君の学園生活だって、今よりずっと楽になるだろう」


(いやいや! 私はエイベル様とハッピー学園ライフを送りたいの!!)


「無理を言っているのは分かっています。

 それでも……エイベル様に、どうしてもお伝えしたいことがあるのです」


 探るようなマクスウェルの瞳を見つめる。


「君がここまで意地を張るなんて珍しいな……分かった。

 ただし、俺も同行する」


 マクスウェルは会場に向けて声を張った。


「皆のもの、せっかくの舞踏会の場を乱してしまってすまない。

 後日、改めて報告の場を設ける。それまで今の件は内密に頼む」


 そしてアメリアの手をそっと取り、出口へと歩き出した。


「エイベル、こちらへ。アメリアが君と話したいと言っている。

もし彼女に手を出したら……その瞬間、俺が叩き切る」


 *


 舞踏会の喧騒(けんそう)から離れた三人は、豪奢な装飾の施された広い控室にいた。


 不機嫌そうに腕を組むエイベルの左右には護衛が立ち、アメリアに危害を加えることができないよう厳しく見張っている。


「で、アメリア。あなたがこの私に伝えたいこととは何ですの?どうせ謝罪でも求めるのでしょうけれど」


 アメリアは勢いよく立ち上がった。


「エイベル様、私……あなたとお友達になりたいのです!!」


「「……はぁ?」」


 マクスウェルとエイベルの声がぴったり重なる。


(あ、いきなりすぎたよね……思いが先走っちゃったけど、順番に説明しなくちゃ)


「エイベル様は、今まで私をずっと救ってくださっていたのです。そのことを……これから説明させてください」


 アメリアの真剣な言葉に、エイベルの瞳がわずかに揺れた。


(私は確かにアメリアとして生きてきた。でも今、思い出した……前世であなたを誰より愛していた“私”を。絶対に断罪なんてさせない)


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