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 あれから1週間以上、お母さんとは必要なこと以外口をきいていない。お母さんはどこか遠慮しているし、あたしは素直になれず、常に不機嫌な態度をとってしまう。

 だって、結局は再婚話に戻るわけでしょ? 前みたいに、仲良しに戻ったら。それで、あたしは認めざるをえないんだ。反対し続けながら仲良くするなんて、できっこないんだから。

 ……中津川慶太は、知っているのだろうか。知ってるんだろうな。お父さんと仲良さそうだったし。それで、賛成したのかな……反対する理由はないもんね。お母さん美人だし。優しいし。あれで不満があるなんて言ったら、それこそ怒っちゃうよ。

 ……って、別にあたし、中津川慶太のお父さんに不満があるわけじゃないんだっけ……誰が相手でも嫌なんだっけ……中津川慶太も、そうなのかな……。

「あれれ~? 誰を見つめているのかな?」

 体育座りをしているあたしの視界を遮るように、ヒロの顔がにゅうっと現れた。

「なーんだ。いっつも話に乗ってこないから、興味ないのかと思ってたけど……」

 シホがニヤニヤしながら言う。

「べ、別に、あたしは……」

「いいのいいの。そりゃあ見ちゃうでしょ。サッカーだもん。バスケの王子様が、今日だけはサッカーの王子様なんだもん」

 ヒロがうっとりしながら見つめる先には、サッカーボールと戯れている中津川慶太の姿がある。

 今日は年に一度の球技大会で、運動部に入っている人は、自分の部活と同じ種目には出ちゃいけないことになっている。引退した三年生もだ。

 ちなみに帰宅部のあたしは、唯一得意な卓球を選んだものの、地味に初戦で敗退し、暇を持て余しているところ。

 同じく帰宅部のヒロとシホは、帰宅部にも関わらず運動神経抜群で、この後バレーの試合に出ることになっている。もちろん、あたしは応援を頑張るつもりだ。

「あぁん、もっと見てたいけど、そろそろ行かなきゃ……」

 心底残念そうに、ヒロが言った。

「アキラはいいのよ、ここで王子様を見つめてても」

「だ、だから!! そんなんじゃないって……あたし、ヒロとシホの応援するんだから!! 置いてかないでよ~」

 ヒロもシホも、明らかに疑っている。ほんとに、ほんとーに、そういう目で中津川慶太を見つめたことなんて一度もないんだから!!

「ま、いいけどね。どうせあたしらには高嶺の花だし」

「そうそう、本気で好きになったら、辛いだけだしね」

 しみじみと言って、二人は同時に溜め息を吐いた。

「せめて、一度でいいから喋ってみたーい」

「ほんと、同じクラスの人たちが羨ましー」

「そうだよ、隣の席だったらどうする? ドキドキしちゃって授業どころじゃねー」

「後ろの席良くない? 背中見つめ放題!!」

「後頭部もね!!」

「キャーッ。でもでも、突然振り向いたらどうする? めっちゃきょどるよね!!」

「きょどるきょどる!! ね、プリントとかまわってきたらどうする!?」 

 妄想話で盛り上がる二人を見ながら、あたしはこの前の日曜日のことは口が裂けても言うまいと固く心に誓った。もし知られたら、どんなに恨まれるかわからない。

 

 その日の夜、お風呂から上がったあたしは、お母さんが誰かと電話で話していることに気づいた。相手はどうやら高校の同級生らしい。

 狭いアパートだから、聞くつもりはなくても聞こえてしまうのだ。それでもやっぱり、盗み聞きのような気がして、あたしはそそくさと自分の部屋に行こうとした。

 だけどその瞬間、お母さんの口から出た言葉に、あたしの足は金縛りにあったみたいに動かなくなってしまった。

「そうよね……もしあの時中津川くんに告白してたら、私の人生、全然違うものになってたのよねぇ……」

 お母さんの楽しげな笑い声が、遠くに聞こえた。部屋に戻ると、あたしは泣いた。

 悲しいのか、悔しいのか、涙が止まらない。だって、お母さんは後悔してるんだ。お母さんの人生は、あの“ろくでなし”との結婚は、幸せなものじゃなかった。お母さんは、別の人生を選べば良かったと思ってる。それって……それって、あたしがいないってことだよね?

 あたしのいない人生でも、お母さんはいいってことだよね? その方が良かったってことなの?

 中津川くんと結婚して、あたしじゃない子供を産んで……そっちの人生の方が良かった、って、お母さん、そう思ってるの?

 いつの間にか眠ってしまうまで、あたしは何時間も泣き続けていた。


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