2
「……どうしても会わなくちゃダメ?」
夕食後、お母さんはあたしに「会って欲しい人がいるの」と切り出した。その顔はどう見ても、恋する女のものだった。それが何だかとても嫌で、あたしはそんな返事をしたのだった。
「駄目ってことはないけど、瑛には知ってて欲しいから……お母さんだって、瑛の彼とは仲良くしたいし」
「そんなもん、いたことないもん……」
言ってちょっと惨めになった。
訊いてもいないのに、お母さんは“彼氏”のことを話し始めた。お母さんから“彼氏”の話を聞くのは初めてだったし、ずっとそんな人はいなかったとあたしは信じている。
きっかけは同窓会──迷っていたお母さんに、「行ってきなよ。きっと楽しいよ」とあたしが勧めた、二ヶ月前のあの同窓会。25年振りに再会した二人は、当時の思い出話に大いに花を咲かせ、お母さんは思わず口走ってしまったのだと言う。
実は三年間、ずっと中津川くんのことが好きだったのよ──と。
すると、中津川くんはたいそう驚いて、実は僕もそうだったんだ、なんて馬鹿だったんだ──と激しく後悔し始めたらしい。
中津川くんは23歳で結婚し、一男一女をもうけたが、4年前に奥さんを事故で亡くしたそうだ。
「中津川くんの息子さん、瑛と同じ高校なのよ。すごい偶然だと思わない?」
瞳をキラキラさせて、お母さんが言った。
……中津川……それって、まさか……。
「三年生でね、バスケ部の部長さんだったらしいけど、瑛、知ってる?」
「知らない人なんていないんじゃないかな……」
あたしは呟きながら、中津川慶太の姿を思い浮かべた。
あたしは特に興味ないけど、間違いなく、うちの学校で一番のイケメンだ。学園祭のミスターコンテストで、三年連続優勝したらしい。今年はあたしのささやかな一票もカウントされてるはずだけど。だって、他の候補者よりは断然良かったから。
ヒロやシホなら、ううん、あたし以外の女子なら、ここは狂喜乱舞するところなんだろうか。母親の彼氏の息子が、学校一のモテ男だってことに。
「そうなの? それってもちろん、良い意味で有名ってことよね?」
「超イケメン。背高いし、脚長いし、顔キレイだし、バスケ上手いし……性格もイイらしいよ、知らないけど」
「うんうん、中津川くんもそうだったぁ」
女子高生の顔に戻って、お母さんが言った。
「あ、バスケじゃなくて、野球だったんだけどね。お母さん、いっつも放課後金網のところで、練習する中津川くんのこと見てたんだ。試合の応援も行ったなぁ。あの頃、中津川くんの気持ち知ってたら、勇気出してもっと話しかけたのに」
「……今いっぱい喋ってるんでしょ? だったらいいじゃん」
自分でも大人気ないと思ったけど、何だかイライラして、あたしはぶっきらぼうにそう言った。
お母さんのこんな顔、今まで見たことない。お母さんにこんな少女みたいな顔をさせるそのおじさん──今お母さんがうっとりと思い出しているのは高校生の少年だろうけど──を、あたしは少し見てやりたくなった。
「……別に、会ってもいいけど」
あたしが言うと、「本当!?」とお母さんは喜んだ。そうして約2週間後、あたしはお母さんの彼氏と会うことになった。




