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軽快なメロディが短く鳴って消えた。
「ん、メールだ」
上着のポケットから携帯を出し、画面を見つめるあたしの顔を、ヒロとシホがニヤニヤしながら観察している。
「……お母さんだよ。何か甘いもの食べたいから買って帰ろうと思うんだけど、豆大福とケーキ、どっちがいい? だって」
『豆大福でよろしく♪』と親指で素早く打ちながら、あたしは言った。ヒロは「なーんだ」とガッカリし、シホは「だと思った」とやっぱりガッカリしている。
「しっかし、お母さんがメル友ってスゴイよね」
馬鹿にした風でも、呆れた風でもなく、本当にそのまんまの意味という感じでヒロが言った。
「ほんと、アキラはお母さんとめっちゃ仲イイよね。羨ましー」
シホの言葉に、ヒロが「うんうん」と頷いている。
「うちなんか、ほとんど話しないもんなー」
ヒロが言うと、
「うちは普通にするけど、メールはしないなぁ、よっぽどの用がない限り」
シホも言う。
「うちはずっとお母さんと二人だけだから、自然と仲良くもなるって。ヒロんちはお姉ちゃんも妹もいるじゃん? 仲良いし。シホんちは、お父さんとお母さんラブラブじゃん?」
「ちょ、その言い方キモいからやめてー」
まんざら嫌でもなさそうに、シホが言う。
両親が仲良しというのは、何より幸せなことだとあたしは思う。想像に過ぎないけど。
あたしの父親は、あたしが小三の時に家を出て行った。会社の若い女の子と不倫した挙句、子供ができたらしい。あたしは、大してショックでもなかったし、悲しくもなかった気がする。だって、それまでも父親にかまってもらったことなんてなかったし、優しい言葉をかけてもらったことすらなかったから。
戸籍では家族だったけど、心の繋がりなんてこれっぽっちもなかった。その後どこでどうしているのかなんて知らないし、特に知りたいとも思わない。あたしにとっての父親は、二度と会うこともないただの“ろくでなし”だ。
あたしは今、幸せだ。心からそう言える。大好きなお母さんと、毎日仲良く暮らしてる。第一希望の高校にも無事受かってこうして通っているし、あとは希望の大学に入って、管理栄養士の資格をとって、病院に勤めて、お母さんに安心してもらいたい。それがあたしの夢、ううん、目標だ。
できれば、もう少し広いアパート、いや、マンションに引っ越したい。それで、年に一度はお母さんと二人で旅行するの。いつかは海外にも行ってみたいな。
そんなあたしの人生設計の中に、想定外の人物たちが割り込んできたのは、それから間もなくのことだった。




