閑話 神呪:命神に見捨てられしもの
「相変わらず無駄にピカピカしてるなぁ」
至る所に宝石が散りばめられ、初雪のように白い絹がもはや見えない程過剰なまで施された金糸の刺繍。身に着けている者の虚栄心をそのまま表しているかのような、豪華絢爛なローブをはためかせながらピィソシットが転生の間に戻ってきた。
「本当にこんなことして大丈夫なのぉ、ピィソ?」
「クーラップ、準神見習い如きのお前では理解できないことに疑問を抱くな! ちゃんと手はず通り事を進めたんだろうな?」
――自分だって少し前まで準神見習いだった癖に。
「返事は!?」
「はいはい、ご指示通り事は進めましたぁ」
苛立たし気に腕を組みながら、忙しなく指で腕を叩くピィソの顔が歪む。
「言葉遣いには気をつけるんだな、クーラップ。次に神々の一柱に迎え入れられるのは私なのだから」
「準神ピィソ様程の方であれば、可能性はなくもなくもないですねぇ」
ピィソが鼻の穴を膨らませながら語り始める。
「可能性ではない、確実にだ! あの三人は特別だ。必ずディアガーナ様にも他の神々にも私を認めてもらえる!」
――馬鹿にしたのは伝わらなかったのかなぁ?
すでにピィソの中では神になるのは確定事項みたいだ。
「ディア様が指定してた加護よりも全然強いの授けてたもんねぇ」
「私が導く者に相応しい加護を与えたまでだ」
「でもさぁ、本当にあの三人に神呪を授けなくてよかったの?バランスを取らないといけないルールでしょ?」
「バランスなら取っただろう」
――うわぁ……
神に仕える者の顔とはとても思えない。邪悪な笑みを浮かべるピィソに内心引きながら、一応忠告だけはしておく。
「ばれたら怒られると思うけどなー」
「ばれはしないさ、貴様さえ黙っていればな! それだけ言いに来た、余計な真似はするんじゃないぞ」
そう言うとピィソは踵を返し、来た道を足早に去っていく。一人取り残された転生の間で思案する。
「三人分の神呪を一人に押し付けて、バランスが取れたって本気で思ってるのかなぁ?」
異界人に加護を授ける際、均衡を保つため必ずその加護に見合った枷が必要になる。敬愛するディアガーナ様に、口酸っぱくそう説かれたのは自分だけでなくピィソも同じはず。
『加護に見合う神呪を招かれた異界人に分け与えたのには変わりない。少々、分け方に偏りがあっても釣り合いは取れている』
ピィソが自信満々にそう告げた時、まさか本気だとは思わなかった。
「冗談だと思ったけど、マジだったんだぁ。どう考えても屁理屈だよねぇ」
問題が起きても指示を出したのはピィソ。自分のせいじゃないので気が楽だ。
「それにしてもあの神呪のチョイス……ディア様の代行の分際で『命神に見捨てられしもの』なんて勝手に授けちゃってよかったのかなぁ?」
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神呪:命神に見捨てられしもの
命神に見捨てられた者の烙印。命神の加護を持つ存在から忌避され、命に嫌われた哀れ者には常に死の影が付き纏う。