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第13話 一難去ってまた一難

 洞窟の壁面に手足をくっつけ、蝉のような姿勢で一息つきながら上を見る。


 ――! やっと、光が見えた!


 ようやくこの暗闇から解放されると歓喜に満ちながら、下を見やる。


 ――地面の方は……もう苔が見えないな。


 蜘蛛の巣があるはずの方向は、完全な暗闇に包まれていた。地面との距離をあまり意識しないよう、すぐに上を向く。


 ――さっさと登りきるぞ!


 両手両足に蜘蛛の糸を巻いた不格好な姿で気合を入れた後、再び壁面を登り始めた。





――――――――





 カテリナの日記を読んで、ソンブラ地下迷宮の出口……正確には入口を目指すことは早々に諦めた。


 カテリナ達が進んで来た道の先にはクリプト・ウィーバー級の魔物が大量に生息しているらしい。それに加えてあのアビス・シードも徘徊している。


 とてもではないが洞窟探索未経験者の自分が、日記に記された断片的な情報を頼りに切り抜けられるような場所じゃない。


 残された道は自分が落ちて来た天井の穴だけなのだが、蜘蛛の巣に引き戻し、調査を初めてすぐ大きな問題に直面した。


 ――壁に一切とっかかりがないな。


 壁面はまるで何かに研磨されたかのようにつるつるとしている。何か道具があれば話は変わるが、素手では登れそうにもなかった。


 ――……あの糸が使えるかもしれない。


 魔力の抜けきった蜘蛛の糸は、それでも非常に強力な粘着力を有していた。


 ――魔力が抜けきった糸は、力づくで引き剥がせた。魔力が漏れ出ないように気を付けていれば触れても大丈夫なはず。


 そう考えながら自分の近くにあった糸に指先を恐る恐る触れる。かなりの粘着性で、指先に少し触れただけなのに糸を引き剥がすのにそれなりの力が必要だった。


 利き手にナイフを持ちながら、もう一度左手の人差し指に糸をくっつける。左手を引いて糸を伸ばしてから、慎重にナイフの刃先を糸に滑らす。ナイフがそのまま糸にくっついてしまうことを危惧していたが、ピンという音を立てながら糸を断ち切る事に成功した。


 ――行ける。


 いつアビス・シードが戻ってくるか分からないので手早く糸を採取して収納鞄にしまい込み、自分が落ちた位置に近い洞窟の壁際へと移動した。


 まずは左手に採取した糸を巻きつけてから壁に触れる。糸を巻いた左手が壁に付いたのを確認した後、右手を壁に付け支えにしながら左手を壁から剥がすことに成功した。


 ――壁から手を剥がすのは問題ないな。


 左手に糸が巻かれていたので少々手間取ったが、今度は右手にも糸を巻く。そして両手を頭より高い位置で壁にくっつけてから、懸垂の要領で身体を持ち上げられるかを試した。


 ――両手だけじゃ体重を支えきれないな。


 身体を持ち上げることには成功したものの、終始びりびりと糸が壁から剥がれていく音が鳴り、頭の高さが両手の位置に近づいた所でべりっと両手が壁から剥がれてしまった。


 ――足にも巻きつければ行けそうだ。


 両手に糸が巻かれた状態で先程以上に悪戦苦闘しながら履いていたブーツに糸を巻きつけることに成功した。糸を地面に付けるわけにはいかないので、最終的には地面に背中をつけながら両手両足を持ち上げた情けない体勢になってしまった。


 そのまま珍妙な体勢で身をよじりながら壁際まで近づき、まずは両足を曲げたままの状態で壁の手前の地面に足を置く。その後、腹筋の要領で上半身を起こしながら両手を壁に付ける。両手両足が固定された状態で、交互に両手を壁から剥がしながら徐々に上体を持ち上げていった。


 完全に立ち上がった体勢に移ってから、右足を左足の膝ほどの高さで壁に固定し直した。両足と右手を支えにしながら今度は左手を壁から剥がし、右腕よりも高い位置で壁に手を付ける。


 続いて左足を地面から引き剥がし、右足を伸ばしながら右足よりも高い位置に固定し直す。更に右手を壁から引き剥がし、左手と両足を支えに更に高い位置で壁に固定する。


 ――行ける!


 支えが増えたおかげで意図せずに糸が壁から剥がれなくなった。このまま登れる事を確信して、我武者羅に壁を登り始めた。





――――――――





「クソ!!!!」


 全速力で森を駆けながら叫ぶ。体が悲鳴を上げているが今はそれどころではない。


 穴から這い出て一息つけたのもつかの間。なんとか両手の糸を剥がし終わり、履いたままの状態でブーツから糸を剝がすのを諦めブーツごと脱いだ直後だった。


 イゴールの魔法で灰の舞う焼野原と化した荒地と森の境目から、こちらを覗くそれに気づいた瞬間本能的に走り出した。


 走り出すや否や体高二メートルほどの黒豹のような魔獣が六本の脚を巧みに使い、両肩から伸びた鞭のような触手をはためかせながら一直線にこちらへと迫ってくる。


 ――なんでこんな所にクァールが!?


 クァールは目撃例が極端に少ないが、グラードフ領付近で発見された個体は例外なく領軍に討伐されるまでに大きな被害を引き起こした。本来森林の中心部を縄張りにしているのだ、並みの魔物や魔獣と比べてその脅威度は比べ物にならない。


「ぐっ!」


 痛みで体が傾く。いくら身体強化をしていても、裸足で森を全力疾走し続けるのは無謀だったのかもしれない。体勢を崩し、走った勢いのまま地面を転がり停止する。


 足を見ると鋭い岩でも踏んでしまったのか、右足の土踏まずにぽっかり空いた穴からだらだらと血が流れている。


 足元から視線を上げると、わずか十メートル程の距離でクァールが舌なめずりをしながら獰猛な目でこちらを見ていた。そのままゆっくりと姿勢を低くして、手負いの獲物に飛び掛かる準備を始める。


「こんな所で死んでたまるか!!」


 叫びながら収納鞄をつかみ、こちらに飛び掛かってきたクァール目掛けて振りかぶる。クァールの牙が体に届く寸前、収納鞄から飛び出した()()()が、クァールの顔面にへばりついた。

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