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第121話 異世界人の書いた本

 オブレド伯爵からそう提案を受けて、共有すべき事があるか少しだけ考える。以前ジステイン宛てに出していた手紙の内容を思い出しながら、直近の出来事と合わせて補足した方が良いかもしれない点を思い出した。


「オブレド伯爵様も聞いていると思うが、俺はセイジと言う少年に襲われた。彼は元々持っていた調合の異能に加えて、教会から魔力と引き換えに毒無効の異能を貰ったと言っていた。ヴァシアの森で襲って来た聖騎士達も……魔力と引き換えに異能を得たような事を言っていた」


 オブレド伯爵の表情が一気に険しくなる。


「それは……聖騎士団の異能部隊については存在自体は把握していたが、教会が人為的に異能を得る方法を持っているなんて聞いたことがない」

「すまない、そもそもガナディアに居た頃は異能の存在すら知らなかった。ヴィーダ王国では普通のことかもしれないと思い、報告が遅れてしまった。メリシアで過ごすうちに、異様さに気付いたが……」


 腕を組みながら伝えた情報について考え込んでしまったオブレド伯爵を見て、もう少し早く共有するべきだったと後悔する。


「……もう一つ気になる点があるんだが、セイジは元々持っていた調合の異能と相性の良い毒無効の異能を得ていた。あいつは異能の相性を利用して、周囲の人間が死ぬような猛毒を用意していた……自分は毒無効の異能で死なないからな」

「異能を人為的に得られるだけでなく、自分に相性の良い異能を得ていたと言う事は……どの異能を得られるのか操作している可能性があるのか」


 短い説明でそこに気付くのは、元冒険者として戦闘慣れしているからだろうか。オブレド伯爵が立ち上がり、執務室の扉に向かう。


「共有してくれてありがとう! すぐに報告したほうが良さそうだから私はここで失礼する。ロベルト、彼等を案内してくれ!」


 慌てて応接室を去って行ったオブレド伯爵を見送った後、執事長のロベルトに領主邸の門まで案内された。馬車の手配の申し出を丁重に断り、ヴァネッサと共に領主邸の敷地を出る。


「オブレド伯爵の話を聞けて、少し気は楽になったか?」

「うん……ありがとう」


 ヴァネッサの手を取り、商業区に向かって歩き出す。彼女のヴィーダ王国に対する疑念を完全に払拭できたわけではないが、オブレド伯爵の誠意を見て少しだけ気持ちが晴れた様子に安心する。


「……昨日カフェに行ったばかりだし、朝食は他の店で取るか?」

「メニューで見たベーコンサンドも食べてみたいから、もう一回あのカフェに行きたいな」

「そうか、じゃあそうしよう」


 ――あのカフェは行きたかった本屋に近いし、丁度いいな。





――――――――





 カフェで朝食を終え、商業区の端にある本屋に到着した。商会の並ぶ商業区の中心にはもっと大きな本屋があるらしいが、かなり値が張るらしい。


 今回訪れた小さな本屋は、マルクのおすすめで中古の本も扱っていている個人商店だ。店内に踏み入れると、ギルドの資料室と似た古本の匂いが店内に充満している。


「私、初めて本屋に来ました!」

「俺も初めてだ。おもしろい本が見つかると良いな」


 お互いに店内を見て回るため、一時的に別れることにした。本屋は現在泊まっている二人部屋程度の広さで、万が一何かがあってもすぐに駆け付けられる。視界の端にヴァネッサを捉えながら、ゆっくりと店内を回る。


 古びているが、立派な木から取れたであろう厚い板材で作られた本棚にびっしりと多種多様な本が並んでいる。


 大きさも厚さも作りもばらばらで、辞書の様な厚さの本と雑誌のような薄さの本の間に絵本が混ざっているような混沌とした状態だ。


 ――取り敢えず、一通り見て行くか……


 エスペランザでミケルに共有してもらった童話や詩集も何冊か見かけたが、それらは飛ばしながら並べられた本を確認していく。ヴァネッサには暇つぶし用の本を選んでもらう予定だが、俺の目的は違う。


 ――『蜘蛛男の冒険』が出版されてるんだ。自己顕示欲のある転生者や転移者が、本を書いて世に出してる可能性が高い……


 マルクの紹介してくれた本屋は、色々な意味で都合が良かった。中古本であれば値段が抑えられているだけでなく、ある程度流通した本が売りに出されている可能性が高い。


 ――『蜘蛛男の冒険』は物語だったが、物語だけでなく異世界人が異世界の知識を本として出した場合……


 そんな本が出回っていたら一世を風靡して流通した量も多いだろうと踏んでいたが、想像以上の数の異世界人に書かれたかもしれない本が見つかった。


 『今日から始める合気道』という武術の入門書。『簡単節約五分レシピ』という料理本に『美を追求するあなたに」という題名のヨガの指南書。確実に黒だと思われる本以外にも何冊か怪しい本があったが、内容と著者名だけでは異世界人が書いたかどうか判別できなかった。


 『八つの習慣』という、題名が元になったであろう自己啓発本とほぼ同じ本を見つけた時は呆れてしまった。著者が独創性を出そうとして追加した八つ目の習慣が記載された章に、古本らしく『この習慣だけ意味ない?』と過去の持ち主が書き込んでいたのには少し笑ってしまったが。


 ――異世界人が書いていそうな本は結構あるが、いつ出版された物なのかまでは分からないな……


 今後異世界人との接触を避けるために最近書かれた本について情報収集したかったのだが、半分成功で半分失敗と言った所だ。取り敢えずいつか確認できる機会があるかもしれないので、ギルドの売店で買ったノートに怪しいと思った本の題名と著者を書き記していく。


「デミトリ、これ見て?」

「……『あなたの名は』?」

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