26.例外はない。
「ご機嫌よう、エディット殿」
初夏の風よりも爽やかに挨拶をしてきた人間を見て、エディットは笑みを浮かべた。尚今は暦の上では秋である。若干寒くなって来ていた。今日は、教会の外にいる。冒険者ギルドへと行くのだ。同行者は前と同じく神殿騎士のレモンドだった。六本足の馬が引く馬車と共に現れたのだ。
エディットが冒険者ギルドへと行くのは、実はこれが二度目である。
毎週決まった日に赴くのかと思いきや、全くそのような事はなかったのである。不定期だった。寧ろ、月一くらいのものである。教会側がそう申し出ているのか、ギルド側の事情かは分からないが、兎に角エディットは求められていなかった。ただ、一度で終わらなかったところを見るに、何かしら理由はあるのかもしれない。
「先日は靴をありがとうございました」
頭を下げれば、目に白い靴が映る。前回、冒険者ギルドへと行った帰り、レモンドがくれたものだ。
「いいえ、よくお似合いですよ」
褒め方が堂に入っている。エディットは思った。そこらじゅうで女の子にプレゼントしてそう。風評被害である。第一、レモンドは女性なのだ。通常であれば、貰う方である。ただ惚れた腫れたで、この男装の麗人を打ち負かす男がいるだろうか。うんうん、と、何処か尊大に頷きながらエディットは心配した。大きな世話である。エディット自身、色恋沙汰には縁がない。だが、此方は十歳である。年齢的にもまだ早い。
常であれば、手を差し伸べてくれるところ、レモンドは立っているだけだ。もしや、姫扱いは卒業だろうか。レモンド学園に入学した覚えもないが。じ、と、視線を送ると、レモンドは口角を上げた。それが、冗談を言う時の顔だったので、エディットは身構えたのだ。
「残念ですがエディット殿、今日からは一人で行かなくてはいけません」
「まだ二回目なんですけど!?」
そろそろレモンドと言う神殿騎士に慣れつつあるエディットは、咄嗟に言い返したのだった。これがルシアン相手なら、確実に黙っていた。
「教会の鉄則は、」
「まずやらせろ、ですか」
「その通り」
本当だろうか。この騎士が適当に言っているだけではないだろうか。何よりエディットは、十歳の見習いである。一人で放り出すには早すぎやしないだろうか。スパルタにも程がないだろうか。それとも田舎者の農民の子だからだろうか。貴族の子女だったら絶対に放り出さないだろう。気付いたら胸が痛くなった。嫌な事実である。どうせ私は逞しいですよ。内心で強がった。恐らく、神だけが聞いているに違いない。
「安心して下さい。昼には迎えに行きますから」
「馬車が?」
「馬車が」
迎えに人は不在の模様である。六本足の馬が指示を聞いて勝手に来ると言うわけだ。
「しかしレモンド殿、私、時間が分からないんですけど」
「言うと思いましたので、こちらをどうぞ」
十歳児の言いそうなことなどお見通しと言うわけである。レモンドは騎士服のポケットから何やら丸い手のひらサイズの物を取り出すと、エディットに渡したのだ。それを両手で受け取り、目を見開いた。
「時計! え、よろしいのですか?」
「教会の物ですよ。借りておけばよろしいでしょう」
いやそんな勝手にいいのだろうか。だが、借りると聞いて、心が軽くなったのだった。貰うのは心臓に悪いのだ。何時でも返すことが出来ると聞けば、幾分気が楽になった。後は、壊さないよう気を付けるだけだ。貰ったばかりの懐中時計を神官服のポケットに仕舞った。開けて、確認すらしなかったのだ。
レモンドが、車体についている扉を開けた。そうして、いつも通り手を差し出したのだ。
「気を付けていってらっしゃい、エディット殿」
「はい、いってきます」
女性騎士の手に、自分の手を重ねながら言った。乗り込むと、扉が外から閉められた。本当に、一人なのだと実感する。何度か乗った馬車が、知らない物に感じた。六本足の馬が歩き出す。咄嗟に、窓から外を見た。視線の先では、レモンドが小さく手を振っていた。エディットが見るかどうかも分からないのにそうしていると気付いて、何だか泣きそうになってしまった。気丈に振舞っているが、エディットだって心細いのだ。手を振り返した。
話し相手がいないので、結局外を眺めるしかない。いつか、この道程を覚えてしまう日が来るかもしれない。そのような事を思いながら、ゆっくりと流れる景色を見るのだ。まだ数えるほどしか外へ出ていないが、都は何時も賑わっていた。エディットの感覚で言えば、毎日がお祭りみたいなものである。故郷の寂れ具合を思い出してしまう。雲泥の差だ。まず、店が無いのだから。日々の全ては、村長から与えられていた。或いは、時折来る行商。それすら、村長の口利きである。まるで、監獄にいるような、そんな生活だった。村から、出れない。出たら、襲われるかもしれないから。身を守る術がない農民は、籠るしかなかったのだ。両親は、元気にやっているだろうか。例え貧しくとも、幸せに、健康でさえいてくれれば。賑わいの中、一人でいると、良くない事を考えしまう。早く、冒険者ギルドに到着しないだろうか。ふと、そのような事を願った。
前回同様、ギルドの前でちゃんと馬は止まった。本当に賢いのだ。停止した事を確認すると、エディットは馬車から降りた。
「……ありがとう、ございます」
初めて、話しかけた。馬にである。いや、これは魔物なのだ。普通の動物とは違うのである。ただ、見た目は確かに馬なのだ。下半身を見なければ。声をかけられ、ちらりとエディットを見ると、理解したのか、それとも偶然か、無人の馬車は去って行ったのだった。
残されたのはエディットと、そして、佇む冒険者ギルドである。
入らなければいけないと、分かっている。
しかし、入り辛い。冒険者ギルドの入り口は、どう見てもエディットに友好的ではないのだ。気のせいである。ただの大きな扉だ。エディットが入りたくないから、そう思うのである。だが、留まっていても意味はない。仕方なく、意を決して扉を開けた。
「おはようございます……」
自分の声などどうせ掻き消されてしまうだろう。そんな思いから、小さく呟くように言ったのだ。
「なんだ? 今日は元気ねえな」
なのに、返事があったものだから、飛び上がらんばかりに驚いたのである。
「ベ、イトソンさん」
言ってから思った。敬称は、殿の方が良かっただろうか。今更である。偶然であろうが、出迎えたのは、以前、オスニエル・ランドン・ベイトソン、と、名乗った男だった。本来なら、オスニエル、と、呼ぶべきなのかもしれないが、レモンドがベイトソンと呼んだので倣ったのだ。
「冒険者ギルドには慣れたか?」
「二回目なんですけど」
一先ず入り口で立ち話をするわけにもいかない。エディットは歩き出した。前回同様、恐らく席があるであろう、受付カウンターの一番端へと向かったのだ。するとどうだろうか。ベイトソンも付いてきたのである。不審に思いながらも、尋ねる事無くエディットは歩いた。
「此処、いい奴なんて、一人もいねえだろ」
「関係者が言っていい台詞じゃないのでは……。そうでもないですし」
「誰か、金払ってったって?」
「受付にですけどね」
木製の小さな丸椅子に座る。ベイトソンは、カウンターを挟んで、エディットを見下ろしている。両肘をついてもエディットよりずっと大きいのだ。威圧感が凄い。
「治せるのか?」
「治せても治せなくても、千トリオレなので」
治す事が出来る、と、明言は避けた。エディット自身、力の程はよく分かっていないのだ。単純に経験不足である。同じ見習いでも、恐らくクレマンスの方がずっと、人を癒しているだろう。何せ彼方は、教会にいるのだ。癒しの力を求めて、人が来るのである。冒険者ギルドとは大違いだった。何をするでもなく座るエディットを前に、ベイトソンは思案する素振りを見せ、手を出した。
「これ、治してくれ」
見れば、指に小さな切り傷がある。
「はあ」
断る理由もないので、エディットは手を出した。傷の上に翳す。治れ、と、念じれば、光が生じた。今日も癒しの力が発動した事に胸を撫で下ろす。治るかどうかは別として、光さえもしなかったら、神官として終わりだと思っているのだ。光が消えると、指の状態が良く見える。奇麗さっぱり、消えていた。ベイトソンは眉根を寄せた。確かに傷は消えている。だが、注目したのはそこではない。新しい切り傷以外の、傷跡も消えていたのだ。この男の手には、それなりに傷跡があった。それが、全部とはいかずとも一部が綺麗になっているのだ。
「千トリオレです」
黙り込んだベイトソンに向かい、平然とエディットは告げた。
「金取んのかよ!」
思わずと言った体で、男が声を荒げる。だが、エディットは怯まなかった。
「治っても治らなくても千トリオレと言いました。御存じでしょう」
そもそも、見習いの治療費は治っても治らなくても五百トリオレである。それをこの男が、千だと言ったのである。僅か十歳の少女を、忌々し気に見遣りながら、ベイトソンは財布を出した。此処で踏み倒そうものなら、笑いものになることは必至だ。
「アッ、お支払いは、受付にお願いします」
「はあ? 嬢ちゃんが受けとりゃいいだろ」
「責任持てませんので」
きっぱりと毅然とした態度で言い切ると、男は大きく息を吐いた。負けたのだ。渋々と言った体で、離れて行ったのだった。向かった先は奇遇にも、前回女性の冒険者が支払いを済ませたのと同じ受付だった。
「よお」
「おはようございます、ギルド長」
男性の受付員が、はきはきと答える。そうこの男、冒険者ギルドの長である。薄々エディットも気付いてはいる。ただ、名乗らないので聞かないだけだ。
「治療費をな、払いに来たんだよ」
「えっ」
予想だにしないことを言われ、まじまじとベイトソンを見た後、男性は受付カウンターの一番端を見た。其処には、十歳の少女がいるのだ。治療と聞いて、思い浮かぶのは彼女だけである。
「治して貰ったんですか?」
「ああ」
「治ったんですか?」
「想像以上だ」
この男は、他者に厳しい。人の上に立つのだから当然と言われればそれまでだが、そう言う人間が認めるような発言をしたものだから、目を瞠った。受付員の驚く様に気付いているのか、それとも気にしていないだけか、平然と財布を開け、千トリオレ硬貨をカウンターに置いた。
「あなたが、払うんですか?」
暗に、ギルド長なのに? と、尋ねている。組織のトップが、態々払うのかと問うているのだ。だが、ベイトソンは鼻で笑ったのだ。
「治っても治らなくても千トリオレだってよ。知ってるだろうと言われたよ」
「豪胆なお嬢さんですね……」
何処か呆れ半分で、呟くように言った。そうしてもう一度カウンターの端を見たのだ。其処にいるのは、小さな少女である。所在なさげに座っている。冒険者ギルドの長に、啖呵を切るようには見えない。人間、見た目に寄らないものである。そしてその事を、受付員は知っていた。冒険者等、見た目でどういう人間か分からないのが当然のようなものだからである。基本、癖のある人間しかいないのだ。以前レモンドもエディットに言ったが、物好きが集まる場なのである。
ベイトソンが去った後、今日はもうこれで終わりかも知れない、と、そのようなことをエディットは思っていた。相変わらず、誰も寄ってこないのだ。まだ二回目と言う事もあり、明らかに初めて見る顔の方が多かった。つまり、先方もそうなのだ。エディットを初めて見て、訝しむ人間の方が多いのである。明らかに場違いだった。こういう時に限って、時間の流れが遅く感じる。やる事が無さすぎるので、祈りでも捧げるか、などと神官らしいような、そうでもないような事を思っていた。普通の神官は、もっと敬虔な態度で捧げるのである。だがエディットときたら、内心で神に語りかけることを祈りだと信じている節があった。尤も、正解などないのだろうが。神が罰を下さないと言うならば、それで良いのだ。別にエディットとて、神を軽んじる気は皆無である。ふう、と、軽く息を吐く。例え教会の外であろうとも、祈りを捧げるからには、気持ちを落ち着けなければいけない。そうして、意図して周囲を意識から遮断しようとした時だった。
「こんにちは」
パッと、弾かれたようにエディットは顔を上げた。驚いたのだ。突然声をかけられたのである。
「こ、こんにちは!」
つられて何を考えるでもなく発した。視界に入ったのは、見覚えのある顔だった。親しげな表情を浮かべている。何故そのような目で見られるのか分からず、エディットは訝しんだ。一度、会っただけの相手だ。ただ、何もしなかったわけではない。エディットは、この人物相手に癒しの力を使ったのである。そう、前回初めてギルドに来た際、唯一エディットに怪我を治してくれと頼んできた人物だったのだ。前回同様、顔には布が巻かれている。これだけで分かる。癒しの力は作用しなかったのだ。確かに、光ってはいたのだが。つまり、文句を言いに来たのかもしれない。エディットは身構えた。ただ、エディットはあくまで見習いである。癒しの力を使うが、治っても治らなくても受け入れる。そういうルールである。だから、何を言われても、引かない。エディットは、迎え撃つよう、見返したのである。
「今日も頼めるかな」
「えっ」
だが降ってきたのは、想定とは違ったセリフだったのである。エディットは呆気に取られている。文句を言われることはあれども、また頼まれるとは思っていなかったのだ。まじまじと、目の前の女を見た。不躾な視線を受け、困ったように笑みを浮かべている。
「それとも今日はやってない?」
「いえ、そんなことはありません」
「じゃあ、頼めるかな」
「は、い」
訝しみながら、返事をした。
「あっ、でも、治っても治らなくても千トリオレですよ」
そうして、急いで付け足したのだ。前回も治らなかったのだ。きっと今回だって、同じである。だが、求められるならば、やらねばならない。
「勿論、支払うとも」
そして女もまた、前回同様快諾したのだ。少し顔を強張らせるエディットに向かい、身を乗り出す。どうやら今回も、顔らしいと分かった。癒しの力を振るう部位である。治らないのに何故? 疑問を抱きながら、エディットは口に出すことなく手を伸ばしたのだ。触れるか触れないか、と、いった距離で翳した。顔に巻かれた布は、怪我を隠しているに違いない。だが、エディットはその度合いを知らない。きっと、この先も知らないままだ。この冒険者の行動は、単なる同情からくるものだろうか。何も分からないまま、それでも治れと念じたのである。手から、光が漏れる。突如として生まれた輝きは、女の顔へと降り注ぐ。しかし、効果の程は分からない。暫し後、光は消えた。
「終わりかな?」
女が問う。
「はい」
短くエディットは肯定した。これで、終わりである。始まる前と、何ら変わらない光景が広がっていた。
「代金は、お嬢ちゃんに支払わなくてもいいのかい?」
「ええ、前と同じでお願いします」
「分かったよ。ありがとう」
一体何に対する礼なのか。去っていく冒険者の女を見ながら、エディットは首を傾げたのだった。女が向かった先は前回と同じ受付員の元である。目の前に立った人間を見て、彼も又驚いていたのだ。
「まさか、お支払いですか」
女が財布を出したからか、疑い半分で尋ねる。
「ああ、治療費をね」
だが返ってきたのは肯定であった。基本冒険者ギルドは、冒険者に対しては払う側である。特に此処、受付においては、仕事の報酬を払うのが常であった。だから冒険者から貰う側に回ると言う事は、業務ではない事を指すことが多い。実際、そうだった。この女は治療費、と、言ったのだ。怪我の治療をするのは、冒険者ギルドの仕事ではない。それは教会の受け持ちだ。怪我を癒す術を持つのは、神官である。だが今日においては、その神官が、このギルド内にいるのだ。
「今日はあなたで二人目ですよ」
「おや、やっと知れ渡って来たってところかな?」
「残念ながら、試したのはギルド長です」
「ふうん」
特に気のない返事をして、だが、ふと女はある事に気付いたのか動きを止めたのだ。
「ってことは何だい? ギルド長も払ったのかい?」
「ええ、治っても治らなくても千トリオレ、知ってるでしょう、そう言われたそうですよ」
受付の男は肩を竦め、一拍の後女はふ、と、笑いを漏らした。そうして、カウンターの端を見たのだ。其処には所在なさげに座る子供がいた。何を考えているのか、それとも何も考えていないのか、ただお行儀よく座っている。でもこの非日常とも言えるであろう場所で、委縮しているようには見えなかった。
「豪胆なお嬢ちゃんだね」
奇しくもそれは、受付の男がベイトソンに告げた事と同じであった。
「そしてあなたは物好きってわけですよ」
「冒険者なんてそんなモンだろうよ」
「それは確かに。変人しか見た事ありません」
「職場選びは慎重にしないとね」
「十年前に欲しかった助言です」
冗談めかして首を振った。詰まるところ、どっちもどっちと言う訳である。結局、利用する方も待ち受ける方も普通ではないのだ。もしエディットが傍で聞いていたなら、自分は普通だけど、と、そう思っただろう。変人の自覚がある人間、そうはいないので。こうして、女は素直にまた千トリオレを払っていったのだった。
本日のエディットの仕事の報酬、二千トリオレ。
ポジティブに考えれば前回の倍である。レモンドから借りた時計を確認すれば、頃合いだった。少し早いけどまあいいか、そう勝手に判断して席を立った。隣、と、言っても少し離れているが、一度も真面に会話をした事がない女性に、お先に失礼します、と、声をかける。はい、お疲れさまでした、と、返事があってホッとした。流石に無視をされたら落ち込むだろう。受付にいるだけあって、人当たりが良い人間が多いようだった。尤も本人も忘れがちだが、エディットは十歳である。子供相手に大人げない真似をする人間の方が少数だろう。
重厚な扉を開け、外へと出る。来た時とは打って変わり、解放感に溢れていた。晴れていてよかったな、と、思う。何せ傘を持っていないのだ。今持っていない、と、言うわけではなく、そもそも所持していないのである。だから雨が降ったら困るのだ。傘がないので外へは出れません。果たして、許されるだろうか。そもそも許す許さない以前に、教会にも余っている傘くらいあるだろう。思い至らなかった。程なくして、馬車がきた。教会の物と一目で分かる、立派な六本足の馬が引いている。一人で乗るのは初めてだな。そう思った。今までは、レモンドが手を貸してくれたのだ。だが何時までも頼っているわけにはいかないと言う訳である。自立を促されている。勝手にそう思い込み、えいや、と、足を上げた。ステップが高い。それでも何とか扉を開け乗り込んだのだ。思わずドスン、と、腰を下ろしてしまった。だがエディットの重さなど然程の事はないと言わんばかり、馬車に変化はなかったのだ。揺れもしなかった。尤もエディットは深く息を吐いていて、何も気にしていなかったのだが。漸く一息ついたような心地だったのだ。馬車の中は静かで、外界から遮断されたような感覚を覚えた。車輪の音が聞こえる。馬車が動き出したのだ。窓の向こう、賑わいのある街の景色がゆるりと流れる。ぼんやりと眺めながら、眠ってしまってもいいだろうかと思った。自覚するより気を張っていたのかもしれない。ガタガタと揺れる馬車が眠気を誘う。街の中故か、速度は遅めだ。
おやすみなさい、神様。
ふと頭に浮かんだ挨拶。それが覚えている最後だった。




