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02.村から出れない。


「父さん、神官様ってどこにいるの?」

「領主様のお屋敷がある街だよ」

 ある日エディットは父親に尋ねた。神官様に見て貰わないとスキルは分からない。しかし気付いたのである。村に神官様なる人物がいない事に。その答えがこれである。

 つまり、村の外に出なければいけないのだ。

 エディットは考えた。もしかして自分は、行けないのではないか、と。何せこの年まで、村から一歩も外に出たことが無いのだ。何でも危険らしいのである。何が危険か。これはエディットの前世にはいなかったものである。魔物がいるらしいのだ。聞いた時、余りにも異世界らしい響きにエディットの頭は白くなった。魔物。出来ればそう言う危険な生物のことは聞きたくなかった。未だ熊だとかそう言う方が納得出来た。それも嫌ではあるが。勿論危険生物がいる、と、言う事は、それを退治する人間もいるわけで、そう言う職業に就く人間もいるのだ。但しこの村は辺境過ぎて、滅多と人が訪れないのである。誰も退治しないのだから、当然減らない。だが、村の中には入ってこない。

 不思議である。

 入っては来ないが、周囲にはいる。だから、出るわけにいかない。まるで、監獄のようである。何故魔物が入ってこないのか。エディットは尋ねた。恐らく誰だって気にするところである。答えは簡潔で明白だった。

 何と、聖水なるものがあるらしいのだ。

 まるでゲームである。素直にエディットは思った。現実逃避だった。前世で聖水がある、等と言われても先ず以て信じない。だが此処は異世界である。あると言ったらあるのだ。何と言ってもスキルがあるくらいである。聖水位あっても普通だと思わなければいけない。その聖水を定期的に村の周りに撒く事によって、魔物の侵入を防いでいるのである。但し万能ではない。弱い魔物に限る。エディットは思った。もし突破されたらどうするのだろうと。村の周りには柵らしい柵もない。あっても農作物を害獣から守る程度のものである。もし強い魔物が侵入したなら、大きな街から退治してくれる人を呼んでくるのだろうが、果たして間に合うだろうか。反面、無理だろうな、と、冷静に考えてもいた。せいぜい聖水に頑張ってもらわなければならないわけである。因みにこの聖水、神官が作ると聞いて、エディットは驚いた。スキルは見る、聖水は作る。一体神官とは何なのか。果たして人間であるのか。会えるだろうか。出来れば十歳になった時には、会いたいものである。今の所、会える見込みは全くないのだが。

 前途多難過ぎて、溜息が出た。

 ただ、エディットには困難な事も、他の子供にとってはそうではない。

 この村にはもう一人子供がいる。そう、村長の息子、ロドリグである。彼はエディットの二歳上。エディットが八歳になった年、彼は十歳になった。エディットが己のスキルを知りたがっていたように、それはロドリグとて例外ではなく、分かりやすく浮足立っていたのだ。この時には村にはもう一人子供が増えていた。ロドリグに妹が出来たのである。七つ下の。だからと言ってエディットに絡みに来なくなったわけではない。寧ろ三歳の子供の相手など御免なのだろう。自慢がてら、余計に会いに来るようになっていた。

 大人よりずっとロドリグは口が軽く、エディットは、スキルを見てもらうためにはアグロレーの街に行かなければいけない事を知った。とは言え、それが何処にあるか、どのように行くのかは分からないままである。ただその街に名前も知らない領主様がいる事が分かったくらいである。 

「見てろよエディ、すっごいスキルをたっくさん手に入れてくるからな!」

 その領主様が御座す街へと出発する前日、エディットに向かい自信満々な顔でロドリグはそう言った。

 果たしてスキルは手に入れるものなのだろうか?

 そう思ったものの、エディットは言わなかった。後複数所持できるのかどうかも気になった。何と言っても彼女の両親は、一つずつしか持っていないのだ。だが世の中にはそれこそ沢山持っている人間もいるのかもしれない。もしそうであれば、素直にズルいと思った。羨ましいの極みである。

 出来ればロドリグ君が一つしか保持していませんように。

 エディットは、信じてもいない神に祈ったのだった。

 ただでさえ見下されている所、更にとなったら耐える自信がなかったのである。

 ロドリグ少年が出発してから、エディットの周囲は平和だった。主に心が。心身ともに伸びやかに生きているのを感じていた。たった数日の話である。しかしそれ程にストレスを感じている事が分かったのだ。今は未だ十歳と八歳だからいいようなものの、このまま成長していったらと考えると、気分が暗澹とした。果たして、耐えられるだろうか。急に気分が重くなった。

 そのようなエディットの心など知る由もなく、帰って来たロドリグはそれはもう明るい表情であった。相当良いスキルだったのだろうと、誰が見ても気付く顔である。胸を張って彼はエディットに言った。

「驚けエディ! 俺には体術のスキルがあるんだ!」

「すごいね!!」

 間髪入れずに誉めたものの、その凄さはエディットにはよく分からなかった。体術、と、聞いてもピンとこなかったのである。拳法的な事? このくらいの認識だった。ただ、褒めなかったら機嫌を悪くするので、大袈裟に驚いてみせたのだ。

 だってへそを曲げると後々本当に面倒なんだよ。

 エディットは、八歳であって八歳ではないので、内心で零したのである。

 一応、分からないながら体術のスキルについて、エディットは考えてみた。恐らくスキルにも系統があるのだ。そして体術、と、言うからには戦闘に特化しているのだろうと。同時に、自分には要らないな、と、思ったのだった。戦う意志がないからである。対象が何であれ、戦闘など恐ろしくて無理。しかしロドリグにとってはそうではないのだろう。

「強くなって守ってやるからな、エディ!」

「うん!」

 男の子だもんね。強くなりたいんだろうな。

 冷静に考えながら、表面上は嬉しそうに返事をしたのだった。

 ただ実際問題、割と本気で強くなって欲しいとは思っていた。村の為である。周囲に魔物が出ると聞いて以来、不安を覚えていたのだ。大体村長の息子であるからには、村を守るのは当然なのではないだろうか。体術のスキルとやらがどのようなものか知らないながら、精々強くなって村民を安心させてほしいと願ったのである。そうすれば、多少偉そうでも目をつぶる、とも。

 そういえば、結局スキルは一つだけだったのかしら?

 疑問に思ったが、わざわざ機嫌を損ねる必要はないので口には出さなかった。

 同時に、自分が望まないスキルを手にする事もきっとある、と、その可能性にも気付いたのだった。今まで、水と光しか知らなかったので、そう言う魔法めいたものしか考えていなかったのだ。もしかすると、剣だとか弓だとか、そう言う戦闘に特化したスキルを得る可能性もある。

 神様、出来れば平和的なものでお願いします。

 信じてもない神に祈ったのだった。


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