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第三話 リトルリーグ編③

2014年6月ー(土)


AM6時32分48秒


俺はいつも通り目を覚まし、上半身を起こして少しだけボーッとする。ここで二度寝はしないが、目が覚めると同時にすぐ行動に移す、自衛隊の人達みたいなストイックさは流石に持ち合わせていない。


俺が朝早起きする理由は、体を起こしたいのも勿論あるが、それ以上に朝こうしてボーッとする時間が必要なのだ。


ーああ今日も試合があるのか。集合が9時だからあと1時間はゆっくりできる。何も考えずにダラダラと準備をしよう。ー


いつもであったらそんな感じでゆっくりできるのだが、今日はそうもしていられない。


本日の俺たちの試合第三試合、午後1時プレーボールだ。その前に行われる二試合は今後の為にも自分の目で観戦しておきたかった(因みにうちのチームは9時に集まって練習をした上で合流する予定だ。)


第一試合の開始時刻は9時だから、大体1時間程は体動かせるな。


俺は隣で寝ている千聖を起こさないようにゆっくりと部屋を出た。


下に降りると母親がお弁当の準備をしてくれていた。


俺がボーッと過ごしてる朝に、毎日こうしてせっせとお弁当を作ってくれる母には、本当に頭が上がらない。


頭の中でありがとうと思いつつも口では、おはよ、走ってくる。とだけ伝えて家を出た。


外に出ると意外にも過ごしやすい気温で、上着の一枚でも着ればよかったかなと思うくらいであった。


俺は試合観戦に行く分、試合前の全体練習には参加できない。その為、代わりに個人でアップと調整を行う。


少し冷え込む朝ではあるが、今日の天気は雲ひとつない晴天だった。体も軽いし、ランニング後の素振りや守備練も軽快にこなすことができる。つまり、今日はとても調子がいい。


そんな体の調子と天気の良さとは裏腹に、俺の心の内は穏やかではなかった。それは頭で考えられるものではなく、腹の底に溜まるような、説明がつかない、漠然としたものだった。


その漠然さが、余計と不安を煽ったのである。


ー今日の試合、何か変な予感がするー


そうは思いつつも、どうしようもない。試合前なんていつもこんな得体の知れない不安に襲われながら、ここまでやって来たんだろう。


そう自分に言い聞かせて、アップを終わることにした。


この不安が的中するとは、この時夢にも思わなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


本日の試合が行われるひたちなか市民球場第二グラウンドには、朝の8時40分ごろに到着した。グラウンドでは先行チームがシートノックを行っており、もう少しだけ早くくるべきだったかな、と少しだけ後悔した。


俺はバックネット裏の1番後方の席に陣取る。後ろの方がよく全体を見渡せるのと、寄りかかりやすいのはありがたい。


ノックを終えるとレギュラーも何も関係なく、選手一同がトンボ(グラウンドを整備するための道具)を持ち、それぞれのポジションを慣らしていった。


数に限りがある為、当然手持ち無沙汰になる選手もいる。その選手はトンボを持っている選手。特に相手チームの選手のところに足を運んでわ、


「代わりますよ。」


と声をかける。相手チームの選手も


「いや大丈夫っす!大丈夫っす!」


と応じる。


両名とも内心では、俺がやんねえと監督にキレられるんだよ!と思っているに違いない。


声は聞こえなくても、今グラウンドで行われているやり取りが手に取るようにわかった。


野球に限らず、同じ年代の人であれば、ある程度は共感できる部分があるのは面白いなと、珍しく野球とは全く関係のないことを考えていた。


さあ整備も終わった、選手たちがベンチ前に整列し、審判も出て来た。これからプレーボールだ!


って時に、横から声をかけられた。


「君もしかして、水戸南リトルの佐藤君?」


急に声をかけられて、びっくりして振り向くと、そこには俺とは正反対の、高校生と言われても違和感ないほど、高身長の男が立っていた。


髪は無造作に長く、少し前の時代のヤンキーがプリクラを撮る時みたいな、ルーキーズの映画版に出てくる赤星のような髪型に、目は少し垂れつつも鼻筋はピンと伸びている甘いルックスをしていた。


コイツ垂らしだな、と思ったのが第一印象である。


それよりもコイツはなぜ俺のことを知っている?偵察に来る時はいつも、市販のジャージを着ている。俺だとバレる理由はない。


「なんでバレたんだって顔してるね。芸能人でもあるまいし、面白い反応するな佐藤君は」


こっちが肯定もしていないのにこの男は勝手に俺を佐藤と呼んだ。まあその通りなんだけど。


「隣座っていいかな?」


俺が頷くと、男はニコッと笑って隣に座って来た。


はい、垂らし確定。そう頭の中で思いつつも、自分から名乗らないコイツは俺に聞かれるのを待ってるんだろうなと思った。


「お前だれ?どっかのリトル所属なん?」


初対面にこの尋ね方、こちらはモテるはずが無いなと我ながらに思った。


すると相手の男は、嫌そうな顔ひとつせず。


「あれ?知らなかった?君なら俺のこと知ってるもんだと思ったよ。」


勿体ぶってんじゃねえよと思いつつも、この焦らしがモテか?モテの秘訣なのか?名前とかよりそっちの方が俺には気になっていた。


「あ、始まるね。」


視線を戻すと、ピッチャーの投球練習が終わり、審判がプレーボールを告げた。


さあ、見させてもらおうか!なんてこっちの気持ちを見計らうかのようにー


「俺ね、山代廉也。笠間リトルリーグのエースだよ。」


「!!」


俺は笠間のエースがいることよりも、なんでこのタイミングで言うかなって文句が先に出そうになった。


まさか、そんな・・・。笠間リトルのエースが何故こんなところに?まさか俺と同じで偵察が目的なのか?だとしたら俺の名前を知っていることにも合点がいく。


俺たちの試合にも偵察に来ていた。つまり俺たちの試合のデータは、相手に握られているわけだ。


俺は冷や汗をかいた。こっちは試合の中で探りを入れていくしかないのに加え、千聖で笠間リトルの攻撃を凌がなくてはならない。ただでさえ厳しい状況なのに、それに追い打ちをかけるが如くであった。


正直戦慄するしかなかった。


「なんで俺のこと知ってるのかって?そんな・・言わなくてもわかるでしょ。

あ、言っておくけど偵察したからとかではないよ。少年野球大会についてまとめたあのサイトを見たわけでもない。あれはひどすぎるからね。」


それは同意見。ていうか、コイツさっきからこっちの考えを読んできてる。観察力がずぬけているのか。

どちらにしても、考えて野球をするような俺に似たタイプだろう。


「じゃあ、なんで俺のこと知ってるんだよ。」


山代はあっけにとられたような顔をした。


「いやいや、俺たちの世代で君の事を知らない奴はいないよ。」


「君あれだろ。ごめん呼び方忘れちゃったんだけど、2年前の水戸市民で、4年生ながらエースだったろ。」


そういうことか。2年前の水戸市民、俺が投げた試合、千聖が野球を始めた試合、そして俺が投げた最後の試合。


「周りより明らかに小さい俺と同い年のやつがさ、6年生相手にとんでもないストレート投げてたのが印象的でさ。俺も一回でいいから打席に立ちたいし、投げ合いたいと思っていたんだよね。」


「天下の笠間リトルのエースに言われるのは、光栄だね。」


「もう投げないのかい?そのグローブをしている左手の傷、思ったより良くなかったのかな?」


「何が言いてえんだよ。」


「ごめん怒らせる気はなかったんだ。ああ、それとも別の要因かな?そういえば、君が2年前最後に投げてから入団した子、確か同性の、佐藤千聖さんだっけ。それで彼女が現チームのエース。しかし、実力は到底君にかなうとは・・・。」


そこまで言って、山代は考え込んだ。


前言撤回だ。こんな風に人の過去にグイグイ入り込んでくるこいつがモテるはずがない。少なくとも、俺は仲良くなれそうもない。


「ああ、なるほどね。そういうことか。第一印象とはうって変わって優しいんだね。佐藤君は。」


コイツと喋るのは面倒だな。言っている間にもうツーアウトになっていた。テンポがいいな。


「俺さ、お前と喋りに来たわけじゃねえんだわ。邪魔だからどっか行ってくんねえかな。」


言ってからミスったなと思った。これじゃ、この話はしたくないと相手に言っているようなものではないか。


山代は分かりやすくニヤッと笑った。


「それはごめん。でも君も俺に聞きたいこととかあるんじゃないかい?さっきの御詫びに少しで良ければ」


「必要ねえよ。」


俺は飽くまで試合を見つつ言った。そういえばコイツ、さっきから俺の顔ばかり見て一つも試合みてねえじゃねえかよ。


「お前のことは試合中に丸裸にしてやるよ。相手が誰だろうと関係ねえ。どんな情報があろうと、どんな戦力差があろうと、最終的には俺たちが勝つ。」


山代は一瞬だけ面を食らったような顔をしたが、すぐにニヤッと笑い


「いいね、君。面白いよ。」


といった。


「邪魔したね。試合楽しみにしているよ。」


というと、早足に山代は去っていった。


うるせえばあか。一回表分の時間返せ。そう思いつつも、俺はわかりもしない笠間リトルの事ばかりを考えていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


AM11時27分57秒


水戸南リトルリーグの選手たちを乗せたバスが到着したと千聖から連絡があった。


今日の試合のベンチは三塁側なので、俺はバックスタンドの最後列から三塁側スタンドへと移動して、チームの荷物を開けるだけのスペースを確保しておく。


少しして、主将の土井垣を先頭に水戸南リトルの面々がスタンドに姿を現した。


俺を見かけるなり、千聖が大声を出しながら駆け寄って来た。


「ひろー!!あんた今日私のこと起こさないで無視して行ったでしょ!!同じ部屋なんだから起こしてから出てってくれてもいいじゃん!あたし危うく遅刻しかけたんだよ!?」


水戸南リトルの6年生を除く面々とスタンドにいらっしゃる、他チームのご父兄様の方々もギョッとしてこちらを振り向いた。


水戸南リトルの連中も俺たちが同棲している事は知っていつつも部屋まで同じな事は知らなかったようだ。


6年の奴らは何度も似たようなやり取りをしているせいか、違うところに視線を逸らしている。


土井垣は複雑そうにしているが、圭祐はモードを切り替えて、試合に注目しているようだ。


「あー、悪かった悪かった。次からは起こすよ。だからそんな怒るなって。」


「あんたいつもそうじゃん!こういう時茨城弁だとなんで言えばいいの?お前いっつもそうだっぺよ!」


アホ、そんな茨城弁・・・正解だ。


バカな。千聖が正解を導けるだと?


「いいから、早く荷物下ろせよ。他の方に迷惑だろ。」


圭祐の声掛けで、一斉に動き始めた。この面々の中でこいつだけは、俺が話したい事を直に聞いてくれる。


「で、どうだった?偵察。他のチームのいい情報はあったか?」


「ああ、それなんだけどよー」




「なるほどな、笠間リトルの山代も同じように偵察に来てたのか。」


「ああ、しかもこっちのこと知ってる風だったぜ。あいつは偵察はしてないとかほざいてたが、初戦の俺たちの様子は知られている前提で試合を組み立てなくちゃいけねえ。」


「確かにめんどくさいことになったな。」


でも!と言った感じで立ち上がった。そして、試合中のグラエンドを見ながら言った。


「探りが入っているのかどうか。それすらもわからない状態で試合に入るより何倍もいいさ。お前がさっき山代に言ったように、全部丸裸にしてやればいい。試合前の情報戦で全て決まるなら、学生野球なんてやる必要がない。」


確かに、と思うと同時になんでこいつが主将じゃないんだろって思った。


まあこいつが主将になったら、今みたいに作戦を練る時間は取れないとは思うが。・・・こいつならそこまで見越してそうではあるな。


「行こう。俺たちもそろそろアップを始めないとな。」


「だな。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


PM1時4分42秒


両チームのシートノックが終了し、グラウンド整備が行われている。


俺たち水戸南リトルリーグが先攻3塁側ベンチ、笠間リトルリーグが後攻1塁側ベンチだ。


格上相手に、先行というのは何ともやり辛い。格下が格上に勝つための1番手っ取り早い方法とは何か。


それは、相手のミスを待つことだ。野球とは面白いくらい一つのプレーで流れが変わってしまうスポーツなのだ。


相手の攻撃のミスを皮切りに、後攻で一点をもぎ取る。それが1番やりやすい。だから、基本みんな後攻を欲しがるのだ。


まあ、そんな事言っても始まらないんだけど。


俺はヘルメットを被り、元々してある左手のグローブをつけ直し、お気に入りのLVルイヴィトンのTPXを握りしめ、三塁側ベンチから飛び出した。


今回のグラウンドには別室のブルペンはなく、両ベンチのファールグラウンドの端に2つのマウンド取り付けられている、甲子園と同じタイプだった。


一塁側ベンチのファールグラウンドでは、山代が投球練習をしていた。綺麗なフォームで様々な球種を投げ込み、テンポよく球数を投げていた。


振り向き様に目が合った気がした。何したって無駄だよって嘲笑っている気さえした。


上等だよ、やってやるよ。


「ね。」


「!!何だよ急に」


山代ばかりに目を囚われていたのか、背後に千聖がいる事に全く気が付かなかった。


「千尋、今日おかしいよ。少し余裕がないっていうかさ。」


「何でそう思うんだよ。」


「だって千尋、いっつもうざいぐらい私に声かけに来るじゃん。今日まだ何も言われてない。」


俺は一瞬固まった後に、吹き出してしまった。グラウンドの中で歯を見せることはあっても、声を出すことはなかったから、意外な自分に少しだけびっくりした。


確かに、今日スタンドで一言二言交わしただけで、まだしっかり話をしていなかった。


そう思うと、俺がいつもしてることってなんだか、過保護な気がした。まあ、同い年でもこいつは妹みたいなものだ。手がかかるのは当然なのだが。


「確かにそうだな。どうだ?今日の調子は。しっかり抑えてくれんのか?」


「何で笑ってんのよ。キモいわよ。」


「先制点、取って来てやるから。お前は楽に投げることだけ考えろよ。」


「私三番なんだけど。ひろ君返すの、私の仕事じゃない?」


確かに。


「じゃあ、俺たちで点取ろうぜ。誰かさんのためによ。」


俺はもしかしたら、自分のためにも千聖に話しかけていたのかもしれないな。そんなことを考えた。


「整列だぜ。」


土井垣が呼びかける。そうか、そういやお前主将だったな。


ホームベースを跨ぎ、笠間リトルの面々と向き合う。

なるほど、体の大きさにそこまでの差はない(俺よりは全員でかいけども)が、皆それぞれに威圧感というか、自信を感じる。


きっと、これまでの大会や練習で死線を超えて来たのだろう。


その中で山代が、余裕そうに俺を見つめているのが気に入らなかった。


笠間リトルのメンバーがグラウンドに散っていく。シートノックを確認したところ、当たり前ではあるが穴という穴が見つからなかった。


それどころか、さすがは強豪リトル。まじまじと見ていると気圧されそうな、魅せるプレーをしていた。


山代が投球練習を始める。軽く流しただけのストレートだが、シュッと心地よい音を奏でて、ミットに吸い込まれている。


いい球投げるな、人間性以上にモテそうな彼の球質にうっとりしていると、あっという間にラスト!!ボールアップ!の掛け声が聞こえた。


俺は走って左打席サークルの近くまで行き、できるだけ打席に近い場所から山代のストレートを観察した。


いい球だ、付け加えるならキャッチャーもいい肩だ。


こりゃ先が思いやられるなと思いつつ、俺は打席に入った。


審判のプレイボールの掛け声が響き、山代が第一球のモーションに入る。


俺もそれを迎え打つ為、体全体でリズムを取り、山代が左足を上げたタイミングで右足をあげる。


山代のフォームのタイミングは掴んだ。対して癖のない綺麗で理にかなった体重移動。そこから放たれたボールはーー


まっすぐホームベースのど真ん中を通過し、キャッチャーミットに吸い込まれていった。


ストライク!と審判がコールし、一塁側からの声援が響く。


なんだ?今の腑抜けたボールは。こいつの本気がこんなものではないのは分かっている。実際に山代は余裕そうな表情を浮かべていた。


決めた。粘る。粘って粘って、今日の山代の情報をできるだけ引き出そう。後ろには圭祐と土井垣がいる。

アイツらに繋げば、一点は取れるかもしれない。


土井垣だったら、ワンチャンスで2.3点の可能性もあるのだ。


そう心に決め、打席に入り直す。しかし、その決意とは裏腹に山代の二球目もど真ん中のストレートだった。


一瞬思いっきり引っ叩いてやろうかと思ったが、体の力みを感じたので、手を出さすに見逃した。


これでカウントは0-2、追い込まれた。守備位置を確認すると、内野は定位置、外野が少しだけ下がり気味だった。


成程、こちらから手を出させて、ヒットなら別にいい。それ以上にこちらの能力値を確かめる魂胆か。


願ってもない。だったらお望み通り出塁してやるよ!


三球目の真っ直ぐを弾き返し、センター前に運んだ。

ノーアウトのランナーが出塁する。


俺にもう少しパワーがあれば柵越えを狙ったんだけどな、と思いつつも無い物ねだりしても何にもならないと言い聞かせ、頭の中を切り替える。


ナイバッチー!!のベンチの掛け声と、誰かの掛け声から始まるアカペラ応援。少年野球の醍醐味だ。


2番圭祐。アイツも考え方は俺と似ている。できるだけ情報を抜き取るための粘りのバッティングと走塁で掻き乱すのが俺たち1.2番コンビの強みだ。


しかし、山代は相変わらず気の抜けたボールを真ん中に集めていた。右打者の圭祐は敢えて流し打ちをし、ライト前に運んだ。


俺は一塁から二塁を回って一気に三塁を陥れた。これで、ノーアウトランナー一三塁だ。


圭祐、その程度の球だったらいつでも、どこにでも打てるぞって顔が言っている。あいつも、こと野球に関してはなかなかいい性格をしている。


どんな事情かは知らないが点はもらえる時にもらっておく。


3番の千聖が右打席へ。アイツは土井垣と同じで何も考えていない。初球のストレートを弾き返し右中間へヒット。


三塁ランナーの俺が先生のホームを踏んだことに加えて、一塁ランナーの圭祐が三塁へ到達する。


一点先制した上に、ノーアウト一三塁と、先ほどと同じ状況を作ることができた。


更に、バッターは土井垣だ。上手くいけばここで、大量得点もあり得る。


今日の山代は調子が悪いのだろうか?ストレートは俺の想定ほど走ってはいないが、それでも普通に考えたらいい投手といえる。


みんなの打撃もバカにできたものではない。それぞれうまく左右に打ち分けができている。


更に四番の土井垣だ。


いい流れなんだ。確実にいい流れのはずなのに、俺の中で何かが引っ掛かっている。


あの笠間リトルのエースがこんなはずはない、と。


掌の上で転がされているような感覚を覚えながら、俺は土井垣の打席を見つめるのだった。

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