第6話「告白ドッキリ 如月心乃香side-その3」
7月12日(土)
お祭りの日を目前にし、心乃香はとんでもない事に気がついた。
(着ていく服がない……)
デートなんかした事がない心乃香でも、流石にそれなりのカッコをしていく必要があると、今更ながら気がついた。
自分が持っているのは、ラフな服ばかり。心乃香は、服は動きやすさと丈夫さと着心地が、最も重要だと考えていた。
お小遣いで、服など買った事はない。大体オシャレな服を着ようとも、着るのは自分なのだ。どんなに着飾ろうがたかが知れてる。虚しいだけだ。そんな物に貴重な小遣いを割くなら、読みたい本を買った方が、数百倍自分にとって有益だ。
今から買いに行くか……いや、残りの小遣いで買える服などたかが知れているし、何で八神の為に、そこまでしなくてはならないのかと、腹が立ってきた。
心乃香は、人に弱みを見せるのが大嫌いだった。出来れば人に頼りたくない。弱い自分を見せたくない。
これは、弱者ならではの発想なのかもしれないが、弱いからこそ「虚勢」を張る。
やたらと怒鳴ったり、威張り散らし周りを牽制する人間がいるが、あれは弱さから来る虚勢だ。自分が弱いと悟られない様にしているのだ。弱い自分を隠す処世術なのだ。
正直、親兄弟であっても頼りたくない……弱さを見せたくない……が、今回は緊急事態だ。
***
心乃香は、意を決してそのドアをノックした。
「お姉ちゃん、ちょっといい?」
「え? どしたの?」
普段、こちらからは殆ど話しかける事が無いので、姉はビックリした様だ。
社交的で、明るく、人生を謳歌している様な自分とは正反対の姉だ。
何かしらいいアイテムを持っているはずだ。
「何か、いい感じの服、貸して欲しいんだけど?」
「は? いい感じの服?」
「……具体的には、男を籠絡させられる様な服」
「え⁉︎」
しまった、どういう服がいいのか全く分からなくて、ストレートに聴き過ぎた。
「えっと、デートに着て行くような服?」
何でこんな事、身内に打ち明けなければならないのだ。恥ずかしくて死にそうだ。
ただ姉は、自分の様子に些か勘違いした様だ。
「男を籠絡するデートって、あんた援交とかしてんじゃないでしょうね⁉︎」
「え⁉︎ 違うよ! そんなんじゃないし! ……相手同級生だし」
「何よ、ビックリさせないでよ! あんたみたいな真面目なタイプ程、転げ落ちたらヤバイっていうからさ……焦ったわ」
姉は今更、自分を大分誤解しているところがある。大人しく見えるのは、他人と関わるのが面倒だからだ。別に自分は真面目でも何でもない。
「あんたと同級生って事は、中坊でしょ? そんなの、胸の開いた服着てけば一発よ!」
心乃香は、自分の真っ平らな胸を見下ろした。
「却下。胸以外で」
姉も自分の胸を見て察した様だ。他人にそう思われるのは腹立たしいが、実際、立派な胸を持ってないので仕方ない。
「それじゃ、足! 足出しなよ!」
「え⁉︎ やだよ。夜に足出したら、蚊の餌食だよ」
オシャレって大変だと、心乃香はもう心が折れそうだった。
「え? 夜にデート?」
「お祭りに行くから」
「あーなるほど! 先に言ってよ! だったらピッタリなのあるじゃん! お母さんー! ちょっと〜!」
え? 母親も巻き込む気かと、ギョッとした。これ以上身内に知られたくなかった心乃香は、姉の裏切りにヤキモキした。
***
「どうこれ? お母さんは、こっちの明るい色の方が、心乃香に似合うと思うんだけど」
「えー? 紺の方が大人っぽいって。相手、心乃香の同級生だよ? 可愛いより、大人っぽい方がいいよ。ねえ、心乃香はどっちがいい?」
正直どっちでも良かった。母親と姉は当の本人より、自分達が主役の様に浮き足立っている。
女性のこのノリ……学校でも覚えがある。全く自分には理解できないが。
「じゃあこっちで」
姉の感覚の方が、今の流行りに合っていると思ったが、明るい色の方が、夜に映えそうな気がした。どれだけ目立つかが肝心だ。えー! と姉は、自分の提案が受け入れられなかったことに、不貞腐れた。
「試しに着付けてあげる」
母親が嬉しそうに、浴衣セットを一式畳に並べ出した。
***
浴衣なんて、小さな頃以来着た事がなかった。全身鏡に映る浴衣を着ている自分の姿を見て、心乃香は確かにこれはいいアイデアだと思った。
浴衣というか、着物はどんなボディラインでもそこそこに見える。普段見慣れている制服とも大分違うので、ギャップも大分ある。
恋愛にはギャップが大切だと、昔、安西先輩が講釈を垂れていた事を思い出した。
姉は「髪はどうするの?」と、聞いてきた。そうか髪……自分は癖毛で毛量が凄いので、上手くまとまらないのだ。折角浴衣を着たって頭がこれでは、浴衣の価値も下がってしまう。
「私がやってあげる! 髪飾りは、これなんかどう?」
心乃香はこの時、姉がいてくれて、初めて良かったなと思った。
姉は器用に、心乃香の髪を整えていった。流石リア充。そのテクニックは半端じゃない。サイドの髪を編み上げて、心乃香の髪を落ち着かせ、赤い鮮やかな髪飾りを、器用に挿してくれた。
姿見を見て心乃香は驚いた。まるで別人だ。ちゃとした手順を踏めば、自分でもここまで見える。オシャレというのは偉大だと思った。
「眼鏡どうするの? 外したら? そっちの方がぜったい可愛いって!」
「いや、眼鏡外すと全然見えないし……」
「あんた、昔コンタクト作ったじゃない? アレしていきなよ」
「でもコンタクトはな……」
心乃香はコンタクトが苦手だった。昔コンタクトを作ったのだが、着け心地が嫌いで、結局眼鏡に戻ってしまった。
でも、ここまで仕上げてもらったのだから、完璧な状態で臨みたい。オシャレというのは「我慢」をすると言うこととなのかもしれないと思った。
心乃香は洗面所に行き、コンタクトを着けてみた。まだ度は合ってる。ただ、目が痛い。きっとその内コンタクトに水分を吸われ、目も乾いてくる筈だ。出来れはデートは一時間。それでケリをつけたいと思った。
完全な姿になった心乃香を見て、母親と姉はワーワーと騒ぎ出した。「可愛い!」「絶対いけるよ! 流石、私の妹」などと言いたい放題だった。挙句、母親が「心乃香が、男の子と付き合う日が来るなんて……」と涙ぐんできてしまい、心乃香はこの二人に申し訳なくなった。
付き合ってないし、好きでもないし、寧ろ大嫌いだ。明日その男を、コテンパンにやっつけに行くなどと、口が裂けても言えないと思った。
自分の親兄弟に対して、こんな罪悪感を抱かせるのは、全部八神たちのせいなのだ。
心乃香は、改めて復讐を成功させる為、自分を奮い立たせた。
つづく
「面白かった!」「続きが気になる、読みたい!」「今後どうなるの⁉︎」
と思ったら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろんかまいません。
ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。
何卒よろしくお願いいたします。