第2話「告白ドッキリ-その2」
お祭りデートに行く前に、斗哉は如月の事を観察する事にした。
フルネーム『如月心乃香』
まあまあ可愛らしい名前なのに、見た目とはアンバランスな気がする。出席番号23番。背は高くもなく低くもない。よく言えば華奢だが、なんて言うか細すぎて、そそられない。女子はもっとふっくらしていた方が好みだ。
いつも眼鏡を掛けており、癖毛で毛量が凄い。よく言えばゆるふわ系の髪なのかもしれない。視力が相当悪いのか、授業中、目を細めるように黒板を睨んでる時がある。
勉強はそこそこ出来るっぽいが、運動神経は良くないようだ。バスケの授業中、顔面でボールを受けていて、あまりの鈍臭ささに吹き出しそうになった。
委員会は図書委員で、文芸部に所属。本の虫って奴? クラスでも目立たない存在で、友人も少なさそうな、典型的な陰キャだ。
授業中じっと如月の事を眺めていたら、ふっと彼女と目があった。慌てて如月は真っ赤になって俯いた。
ちょっと、男に告られただけでこの態度……ウブと言うか、男には全く免疫無さそうだ。
今まで自分の周りにいなかったタイプ。別の世界の人間の様に感じた。同じ人間と思えなかった。正直見下していた。
自分より「ランクの低い人間」……だから、何をしても許される……斗哉は無意識にそう思っていた。
***
ある放課後、大きな段ボールを抱え、フラフラしてる如月を見かけた。点数を稼ぐチャンスだと思った。如月をその気にさせた方が、ネタバラシをした時、絶対面白い。
「如月、大丈夫? 手伝うよ」
「え⁉︎ あ、八神君⁉︎ わわっ!」
突然声を掛けられて、如月は荷物を持ったまま、バランスを崩して倒れ込みそうになった。
本当に鈍臭いなと、斗哉は咄嗟に如月の体を支えた。不意に如月の体を、背後から抱え込む様になってしまった。ワザとじゃない。思ってたより、ずっと柔らかくて女子の体だと思った。
あんまりベタベタすると警戒されると、慌てて体を離す。
「あ、ありがとう」と如月は腕に抱えた荷物を落とさない様に抱え込んでいた。警戒はされなかったらしい。抜けていると言うか、経験が無さすぎて、男に対する警戒心があまりないのかもしれない。
斗哉は「手伝うよ」と如月の手荷物を持ち上げた。あまりの重さにビックリした。如月は「重いからいいよ、悪いよ」と慌て出したが、ここで引き下がっては、点数稼ぎが台無しだ。男の沽券にも関わる。それに情けない奴と思われたくない。
如月は「ごめんね、助かるよ」と申し訳なさそうに、何度も斗哉に頭を下げてきた。騙されてるとも知らないで、律儀な奴だと思った。
それと同時に、少し困った様に微笑んで、隣をちょこちょこ歩いて着いてくるそんな如月を、斗哉は哀れだなと感じ始めていた。
***
荷物を図書室に運び終わり、斗哉がふうっと一息着いてた頃、如月が図書準備室から急いで出てきた。
「これ、お礼。良かったら飲んで」と如月はお茶のペットボトルを斗哉に差し出した。そんなつもりじゃなかった。ただ荷物を運んでやっただけだ。こいつ本当に律儀だなと、斗哉はちょっと関心してしまった。今まで、周りの人間で、こんな気遣いをしてくる奴はいなかった。
なんだか少しくすぐったい。何なんだこいつ……。頭では素直に受け取った方が、好感度が上がると分かっていたのに、何故か斗哉は、素直にそれを受け取れなかった。
「あ、お茶嫌いだった?」と如月は申し訳無さそうに俯いて、ペットボトルを引っ込めようとした。斗哉は、それをどうしてか見ていられなくなり、慌ててそのままペットボトルを掴んだ。
「いや、嫌いじゃないよ。ありがとう」
斗哉がそうお礼を言うと、如月は柔らかく微笑んだ。斗哉はその初めて見る如月の表情に、何故だかドキッとした。
次の瞬間、ハッと斗哉は我に返った。今がチャンスとすかさず言葉を続ける。
「如月、今日一緒に帰らない?」
「……え? でも、これから委員会の仕事あるから」
「待ってるよ」
「いや、悪いよ。時間かかると思うし。……それにうち遠いし……」
「それなら尚の事送るよ。待ってる」
「……」
考え込む如月を、斗哉はじっと見つめる。自分と帰るのが本当に嫌なのか、体のいい断り文句なのか、見極める為に。いや、もう一押し……
「……やっぱ、迷惑? オレと帰るのイヤかな?」
「え? ……その……」
ここで断られるなら、本当に迷惑だと思われてる。でも――
「分かった。多分一時間くらいで終わるから、待っててくれると……嬉しい」
その「嬉しい」の一言で斗哉は確信した。もう如月は、オレの事が好きだ。
***
斗哉は教室で外を眺めながら、如月を待っていた。誰かを待つと言うのは、久しぶりな気がした。グラウンドで運動部が、何やら一生懸命に青春している。斗哉は冷めた目で、それを見つめていた。
***
「……八神君、八神君!」
その声に斗哉は慌てて覚醒した。如月が心配そうに、顔を覗き込んで来る。……ち、近い!
どうやらグラウンドを眺めながら、その内机に突っ伏して寝てしまっていたらしい。
「ごめん、お待たせ。帰ろっか? ……ふふっ」
如月が柔らかく微笑む。何? と斗哉は思ったが、如月は頬を指先でトントンと指摘する。「跡付いてるよ」と可愛らしく笑った。斗哉は恥ずかしさとプライドが同時に去来して、ううっと腕で顔を覆った。
***
「げっ……雨! さっきまで降ってなかったのに……」
斗哉は昇降口の扉越しに外を眺めて、嫌そうに呟いた。
「今日夕方から降水確率50%だったよ」
如月はそう言うと、鞄から折り畳み傘を取り出した。
「……一緒に入っていく?」
そう如月は、上目遣いで聞いてくる。こんな奴だったか? と斗哉は一瞬たじろいだ。どうも如月といると、ペースが乱される。嵌めてるのはこっちだ。調子に乗るなよと思いながら、斗哉は演じる様に「うん。助かるよ」と柔らかく返した。
***
外は大分薄暗くなってきていた。雨のせいか、外練の運動部の連中も早めに練習を引き上げており、生徒の数も疎だった。
如月が持ってきていた、小さめの折り畳み傘に、二人で入りながら歩く。雨が当たらない様にすると、自然と肩が触れる。柔らかく温かい如月の体温を感じて、斗哉はドギマギした。
(何で、如月相手にこんな……)
斗哉は、その奥底から湧き上がってくる謎の感情を、必死で押さえ込もうとした。振り切る様に、斗哉は如月に話しかけた。
「如月んちって、どこら辺なの?」
「駅向こうだよ」
「如月って、本好きなの?」
「え?」
「いやだって、図書委員で文芸部って……」
「良く知ってるね?」
「そりゃ……」
そう答えながら、ふっと如月の方を見ると、彼女とバチッと目があった。何故だか彼女の目を見ていると、吸い込まれそうな感覚に陥った。
息が掛かる距離に、彼女の顔がある。このままもう少し距離を詰めたら、キス出来そう……
そう感じて斗哉は我に返った。何考えてるんだ、自分は――
彼女はふっと視線を逸らした。
「ここでいいよ。ありがとう。ここからバスだから、その傘貸してあげる」
「え?」
ちょうどバスがやって来た。彼女はバスのステップに飛び乗ると、ドアが閉まる前に「お祭りの日は晴れるといいね」と柔らかく囁いた。
彼女を乗せたバスを見守りながら、斗哉は雷にでも打たれた様に、立ち尽くしていた。
つづく
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