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ムーン・トゥー・ラブ  作者: はく
1/1

ラノベを書きたい大学生

「俳優の宮田将暉さんと女優の小林奈々さんが昨日、ご結婚を発表されました。所属事務所によるとー」


いつもと変わらない朝。6時30分に起き、朝のニュースを聞き流しながら、朝食の支度をする。


「続いてのニュースです。本日は10月として、観測史上、最も冷え込む予報です。お出かけの際はー」


「いただきます。」ご飯に味噌汁、目玉焼き。

「ああ、いつもと同じメニューだな。だからと言って、明日のメニューを変える気はないけど。」独り言を呟きながら箸を進める。


「ー昨日、ついに全自動運転技術をもつ自動車がお披露目されました。このプロジェクトは、1年前に行方不明となった歌芸陽羊氏から引き継いだ-」


「ごちそうさまでした。」鼓七星はテレビを消し、食器を片付け、寝室へと向かう。


時計を見ると『7:00』 いつも通りの時間だ。今日の大学の講義の用意をし、着替える。ジーンズにパーカー。どこにでもいそうな量産型大学生の服装。

準備が終わったことを確認して七星は机に向かい、原稿用紙と鉛筆を取り出し、物思いにふける。



「ピピピーピピピーピピピー」

七星はハッと顔を上げる。8時のアラームだ。七星は1時間前から何も変わっていない原稿用紙と鉛筆をカバンにしまい家を出る。



大学までは徒歩15分。入学式の日から半年ほど歩き続けている、見慣れた道のりだ。

大学合格を機に始めた一人暮らし。仲の良い友人はいるし、やりたい勉強もできている。

だが、何か物足りない。


「おはよう!いつも通りの時間だな!」後ろから肩を叩かれる。

「おはよう。颯太。」七星が振り返った先には金髪の短髪頭が。

「…。やっぱりお前の金髪慣れないなぁ。」

「似合ってるっしょ?それにしても、お前、相変わらずひどい寝癖だな。」

「これは寝癖じゃなくて天パだ!」

「はいはい。」とお決まりとなった会話を朝から交わす。


「そー言えばさー、なんか自動運転の車が完成したらしいじゃん!俺買おうかな〜!」

「そんな金ないだろ。てか免許もないし。」

「早く免許取りてぇ!」


そんなたわいもない会話をしながら大学の正門をくぐる。

「一限目なんだっけ?」

「一、二限連続で日本文学史。」

「絶対眠くなるやつだ。」

「ただでさえ目立つんだから寝るなよ。」

「はーい。」



講義室につき、荷物を起き椅子に座る。

いつもと同じ席。窓側の後ろから2番目。


前の席には茶髪ロングの女の子。ぼーっと後ろ姿を眺めていると、彼女が振り向く。

「あ、おはよう!七星先生、執筆活動は順調ですか?颯太くんは眠そうだねぇ。」


透き通るような白肌に、大きな、そして吸い込まれそうなほど黒い目。

大人っぽくも、どこか幼さを残した印象を受ける少女だ。


「先生って呼ばないでよ。なんか照れるし。執筆はぼちぼちって感じです。」

「おはよう!明月ちゃん!今日も可愛いね!」

「もぉ!からかわないでよ!」と少し顔を赤らめる。

「七星くんの書いたラノベ早く読みたいなぁ〜。この前読ませてもらった小説、すごい面白かったから期待しちゃう!」

「ご期待に添えるよう努力します。」

「七星出してみろ!俺が添削してやるぜ!」

「颯太には任せられない!講義終わったら桐川先生に添削してもらうから。」と言いながら、七星は昨日から1行も進んでいない書きかけの原稿用紙をカバンの奥にしまう。

「ちっ!俺の手にかかれば大ヒット間違いないのにな!」と不満を口にする颯太と呆れ顔の七星を見て、少女は笑う。



終業のベルが鳴り、やっと解放される。

隣では大きな伸びをする颯太。

「七星くんは午後は講義なしだっけ?」

「うん」

「いいなぁ〜。お昼食べたら執筆の続き?」

「うん。部室で先生にアドバイスもらいながら続きを書くつもり。」

「そっか。頑張ってね!」手を振り颯爽と講義室を出ていく明星さん。


そんな姿に見惚れていると、隣から脇腹を小突かれる。

「見てたな?」ニヤニヤしながら聞いてくる颯太。

「見てない。」

そんな七星の返事にお構いなく颯太は続ける。

「あれは、明月ちゃん、お前に気があるぜ。」

黙ったままの七星の肩に手を置き、

「まあ、せいぜい頑張れよ!俺はサークル行ってくるから!」と言い残し講義室を出て行った。


1人残された七星は、頬がニヤけるのを我慢して、食堂に向かうことにした。



昼食を食べ終えた七星は、特別棟の1番奥、『文芸サークル』のプレートがかかった部屋の前にいる。

1週間ぶりの部室だ。

前回、書き上げた小説を提出しに来て、明月さんに読まれ、異世界もののラノベを書いて欲しいと頼まれて以来だ。

しかし、全く筆が進まず書き終わったのは、初日に書いた原稿用紙2枚とちょっとだけ。

これまで小説はたくさん書いてきたし、七星自身、異世界ものが好きでよく読むから、自信があっただけに気持ちの落ち込みようは大きい。

七星は大きなため息をついて扉を開き、中に足を踏み入れる。


「桐川先生いますか?」


部屋の中には大きな本棚が十数台。その他に部員が本を読んだり、執筆をしたりするための机と椅子が10セットほど。しかし、この時間は1番奥の席で本を読んでいる人が1人いるだけ。

肩まで伸ばした真っ黒なセミロングヘアに、太陽の下を歩いたことがないのではと疑いたくなるような病的な白い肌。

一見、女性に見えるが男性であり、この大学の文芸サークル顧問であり、人気小説家でもある人物である。

そして、七星が探している人物こそ彼である。


「桐川先生。」


七星が呼びかけるも彼は、本を読むのをやめるそぶりを見せない。


「桐川先生!」

「なんですか?七星君。何度も呼ばなくても聞こえていますよ。」

「だったら返事くらいしてくださいよ。」という七星の小言は受け流され、

「作品の添削ですか?いや、その顔を見る限り、上手くいってないようですね。残念ですがラノベは私の専門外です。」と豪快に七星の頼みの綱を切ってくる。


「そうなんですけど、ラノベも小説も同じ書き物ですし?何かアドバイスをもらえればと思ったんですけど…」

「私が小説を書く時は、題材について取材をして理解を深めてから書きます。七星君も異世界とやらに行ってみてはいかがですか?」

「行けるなら行ってますよ!こっちには戻ってこないかもしれないですけど!」そう言って、七星は彼と反対の席で執筆を始める。



「ん〜。異世界で現代世界の知識を使って無双するのは決まりとして、何で無双するかだよなぁ。魔王を倒すのは定番すぎるしな。商売始めるか?料理?スポーツ?」


七星は今まで読んだ作品を思い出しながら、構想を練っていく。


「やっぱ、ヒロインは大事だよなぁ。エルフかな?時代設定は中世ヨーロッパで魔法が使える世界もいいな。転生した主人公をヒロインが助けてくれて、そのお礼にヒロインの悩みを解決しちゃう的な?」


アイデアが浮かぶも一向に話がまとまらない七星のダダ漏れな心の声に痺れを切らした桐川が声を荒げる。


「七星君。うるさいです!」



家に帰った七星は夕食の支度をしながら自分の将来を考える。

将来は小説家になりたい。ラノベ作家でもいい。高校2年生の夏から小説を書き始めて2年が経つ。

しかし、賞に応募するも佳作止まりで、小説で暮らしていく目処は立たない。


「そんなに簡単なことじゃないよなぁ。」


いつも通り夕食を食べた七星は、いつも通り風呂に入り、布団の中で読みかけの小説を開く。

そして、執筆に行き詰まったら小説を読むに限ると言わんばかりに読み進めていく。


ふと眠気を感じ時計を見ると『0:00』

「そろそろ寝るか。」と七星は読みかけの小説を閉じ、電気を消して眠りについた。

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