正直者が馬鹿を見る
「私、一生懸命頑張って皆の為に攻撃を受けて来たんだよ!!さっきだってみんなが囮になれって言うから……なのに何で追放だなんて……」
「はぁ?ろくに盾にも囮にもならない癖に口だけは一人前かよエアリ!」
「ひっ!?」
「有名なバージアス家の娘だから仲間にしてやったが、ここまでゴミだとは思わなかったぜ……」
怒鳴られると身体が動かなくなる。
父様、母様、お兄様もお姉様は血を継いで優秀な戦士だったのに、なぜ私はこうなのだろう。
「とにかくお前は俺達のパーティには不要なんだよ、それだけ持って消えろ」
数枚の銅貨、これじゃあ1日生きて行けるかもわからない。
「あ、あの……預けていた宝剣は?」
家族の形見、その宝剣をパーティの金庫に預けていたはず。
「は?そんなもの金に変えたに決まってるだろ?ま、迷惑料としてありがたく受け取ってやるよ……何だ?何が文句があるのか?」
ああ……やっぱり。
正直者は馬鹿を見る。
傷だらけの男を家に上げて、殺されてしまった家族達と私は一緒だ。
地面に散らばる銅貨を集めて、私は1人で生きていくときめ……
「はいこれ、君のだよな?」
「あ、はい……」
「それで盗み聞きしていたんだけど、パーティから追放されたばかりだよね?」
ただ頷くことしか出来なかった。
自分があまりに惨めだったから。
「急で悪いんだけど、俺のギルドで働かないか?」
「え?」
嬉しかった、でもすぐにまた騙されるかも知れないと思った。
「あ!えっとお金はちゃんと払うよ。分け前は半々でそれと嫌なことはさせない、約束する」
「……本当ですか?」
本当私ってチョロい、自分でもそう思う。
さっきまでもう誰とも組まないと決めたはずなのに。
……いや違う、そう思ったのは目の前のこの男の人の瞳を見たからだ。
黒い瞳に黒髪、ちょっと冴えない感じだけれど何故だか信用出来る気がした。
「……名前、何て言うんですか?」
「やば、自己紹介してなかったな、俺は……」
ネスト・フェイス、それが私の新しい仲間だった。
◇ ◇ ◇ ◇
「お前はもう用無しなんだよ、ネスト」
「……冗談だよな、ライアン?」
ギルド『銀月の猛牙』、そのギルドリーダーであるライアンがそう言い放つ。
「真面目も真面目、大真面目さ!実はな、昨日お前が見つけてくれた奴を含めて丁度ギルドメンバーが50人になった所なんだ」
それは俺が1番よく知っている。
何故ならライアン以外のギルドメンバー全員は俺が世界各地から集めて来たからだ。
「それが何で俺を追放する話になるんだよ」
「ネスト、お前は知らないだろうがギルドメンバーが50人を越えると大規模ギルドとして王国に金を納めなければならないんだよ。その額が馬鹿にならなくてな……お前への報酬が高すぎるってギルド内から文句が止まらなくてな」
……あまりに下手すぎる嘘だ。
これだけの人数で今までどれだけの依頼を受けて来たと思ってるんだ?
「金は妹の治療の為に必要だからだ、そもそもギルドを大きく有名にする代わりに対価を貰う、そう言う約束だろ」
「おいおいそんな怖い顔をしないでくれよ、でも実際無駄金は本当に無いんだ、なぁロール?」
「はい、無駄金は全くありません」
ロールは最初期からいたギルドメンバー、そしてライアンの恋人だ。
噂じゃロールには散財癖があると聞いたことがある。
「だそうだ、それにギルド内からも色々意見が上がっていてな。何故鑑定スキルのお前が副リーダーなのかとか、Sランクギルドの副リーダーには相応しくないとかな。いや俺はそんなことは思っていないぞ?でもなぁ、ギルドリーダーとしてはメンバーの意見とギルドの尊厳を守らなきゃいけないんだ」
「ここまで来て約束を破るのか?」
「破りたくて破っているわけじゃ無い、仕方なくだ。多くを救う為に多少の犠牲はつきものだろ?まぁ、どうしてもと言うならギルドに残ってもいいが、副リーダーはロール、そして報酬は10分の1になるが……」
ふざけている。
それじゃ薬を買えない、妹の病気が悪化して死んでしまう。
「……わかった、ただ1つ約束しろ。金輪際互いに関わらないと」
そう吐き捨て俺はギルドを後にする。
ちらりと見えたライアンの顔、俺の言葉にライアンは笑っていた。