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八百万の精霊使い  作者: 好風
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三章 戦う理由 4

 時折くだらないことで脱線しながらも頂上を目指す一行。

「……加速」

 ぼそっとフィルが呟いたかと思うとその姿は消えさり、後に残るは斬殺された一角兎の死体だった。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 抜き身の剣を杖に息を切らすフィル。加速した時の流れの中で独り、襲いかかってきた一角兎を斬り殺していたのだ。

「フィル! ウサギ相手に飛ばしすぎだ」

「そうですよ。これじゃ、私たちの訓練になりませんよ」

 ラティの振り返った先には、一角兎と同じように斬殺された獣の死体がいくつも転がっていた。

「すまない。つい、精霊が使えるのが嬉しくてさ」

 精霊符を使わない戦いに、若干酔いしれいてるフィルだった。


「ねぇ、ねぇ、ちょっと休憩しない? お腹減ったし」

 ピアの提案によって昼食を取り始めることに。ただし実践演習中と言うこともあり、食事は弁当などといった気の利いた食事では無く、

「携帯食は相変わらずもそもそするよな」

 水気の無いビスケット状のソレを噛み砕いては飲み水で流し込む。

「食感もそうだけど、味がも少し濃いと嬉しいんだけど」

「味はわざと薄味にしてあるらしいよ」

 双子の愚痴にファイが応える。

「味が濃すぎると、その分飲み水の消費が増えるらしいって」

「確かに、言われてみればそうですね」

「長期探索は、パーティーに一人は水の精霊使いが必須なんだよ」

「水の精霊ってもな、飲料に耐えうる水となると結構難しいよな」

 液体や水に分類される精霊は多いが、口にして大丈夫ともなれば限られてくる。また、飲料できる水を出せる精霊がいたとしても、それが激流とかだったりすると汲むのも難しい。

「食事って大変なんだね」

 しみじみと呟くピアの言葉に、誰もが同感だった。

「でも、携帯食が食べられるうちはマシだよ。大概は探索中に食料は尽きるからね」

「…………」

 第一線で活躍する憑依使いの言葉だけあって重たかった。

「食料が尽きたらどうするんです?」

「んー、現地調達?」

 キョトンと小首を傾げては、背後に転がる兎へと指さすファイだ。

「獣の肉が食べられるのはまだマシな方かな。毒蛇やサソリに虫なんかも食べたりするんだよ」

 過酷なことこの上ないサバイバルな体験談にぐぅの音も出なくなる一同だった。

 自分の言が原因とは言え暗くなっていく食事風景に、困り顔で頬を掻くファイ。何とはなしに話題を変えることにした。


「フィル君。一つ疑問に思ったんだけど」

「ん?」

 いきなり名を呼ばれ、まじまじと見つめていた携帯食から顔を上げるフィル。

「フィル君ってば時の精霊と契約したのはこの間なんだよね? だったら、それまでの戦いはどうやっていたの? 戦闘訓練もあるんだよね?」

「あー、俺の戦いか」

 ファイに自らの戦闘スタイルを語っていなかったことを思い出す。

「俺の戦い方は――」

「フィルは精霊符使いだぞ」

「そうそう」

「フィルさんの精霊符使いは凄いですよ」

 フィルが答えるよりも先に三人が教えてくれた。

「精霊符使うの? 珍しいね。趣味で使ってる人は何人か見たけど、実戦で使ってる人なんて知らないよ。見てみたいかも」

 興味津々な眼差しを向けてくる幼なじみに、フィルは少しだけ困った顔をする。

「ファイ救出の時に持っていた精霊符のほとんどを使い切ったからな。一応、精霊紙を仕入れてはあるけど、まだ符化が完了してないんだよ」

 腰の符入れ用ポーチから用紙の束を取り出した。それらには精霊力を留めておける精霊図の文様が描かれてはいたが、まだ活性化は成されていなかった。

 でも、それらをパラパラと捲っていけば、

「二枚だけは終わっているな」

 数枚だけは精霊符化の下処理が済んでいた。

 後は精霊力を注入すれば精霊符として完了である。


「俺の精霊を貸そうか?」

「モノクの精霊か……俺が使っても微妙なんだよな」

 友人の提案に難色を示す。癖の強いモノクの精霊を使いこなすにはそれなりに修練が必要なのだ。

 フィルは少し考え、

「ファイ、ピア。二人の風を貸してくれないかな?」

 そう頼んできた。

 そんな二人の協力によりフィルが精霊符最後の仕上げを終えるのを待って、実践自習は再開することに。


「ラティ、頂上まで後どれくらいなんだ?」

「だいたい、半分くらいですね」

 方位と時間と太陽の位置で現在地を割り出す。

「ねぇ。この先って、異様に木々が倒れてるわね」

「最近、誰かが激しい戦闘でもしたんじゃないのか?」

 危険領域なのだ。他の探求者が戦闘を行っても不思議じゃないし、妖魔同士が戦うこともあり得る。

「でも、ちょっと酷すぎない? まるで、竜巻でも襲った跡みたいなんだけど」

「地表でこれだけの戦いをするなんて……」

 遺跡内部、それも最下層ともなればそこそこ高位の妖魔もいるのだが、地表部分にいないはずだ。

「すっごくやばそうな予感がするな」

 精霊を使い、音で周りの様子を探ろうとしたモノクだったが、それよりも先にピアが異変を感じ取っていた。

 一点を指さし、

「グリ――むぐぅ!?」

 悲鳴じみた声を上げるも、咄嗟に背後からモノクがその口を塞いだ。

「シィ! 黙ってろ。気付かれるだろ」

 小声で訴える。

「グリフォンって、隔離領域を住処にしてる妖魔だろ。どうして危険領域にいるんだ?」

「先生が言っていた危険度が増しているとか言う話では?」

 ルーモニの古代遺跡へと行く切っ掛けとなった話を思いだす。

「それにしたって、グリフォンは無茶苦茶だろ。何が起こってるんだよ……この間の龍もそれだったとか?」

「それは解らないよ。でも、かなり危ない状況かも」

 ファイの顔つきが険しくなる。

 龍ほど恐くはないが、隔離領域に住まう中でも上位に位置する妖魔だ。

 精霊憑依が出来る普段の状況ならまだしも、Cランク相応の武力とDランクパーティーじゃ相手が悪すぎた。

 ゴクリと生唾を飲み込むファイ。

 気付かれないうちに距離を取らないと。

 細心の注意で周りに視線を走らせる。その隣ではラティとフィルが小声で相談していた。

「どうします?」

「逃げるしかないだろうな。ファイはまだしも、俺達には無理すぎる」

 至る考えは、ファイと大差なかった。

「モノク。消音を頼めるか」

「消音か? 今使う――」

「いい加減、放しなさいよ――って、あっ!?」

 口を塞ぐモノクの手を振り解いて叫ぶピア。自分のしでかしたことに気付き自らの手で慌てて口を押さえるも、手遅れだった。

「KuOooooooo――――!!」

 大きな嘴から甲高い嘶きを響かせ、グリフォンはピアの声に反応した。

 次の瞬間、周りの木々を薙ぎ倒しては迫ってくる。

「ピアの馬鹿やろ!!」

「モノクがいつまでも、あたしの口を押さえてるのが悪いんでしょ!!」

 罵り合いながらも慌てて逃げだす双子。続いて他の三人も駆け出すが、グリフォンの速さには適わなかった。

 背中の翼で空を舞い、怒濤の勢いで迫ってくる。

「私が時間を稼ぐから、みんなは逃げて」

 雷槍を作り出しては身構える。

「そんなこと出来る訳ないだろ!! お前だって、精霊憑依が出来ないじゃないか!!」

「でも、私なら疾風の精霊がいるから飛んで逃げれば」

「ダメですよ! 幾ら疾風の精霊でもグリフォンからは逃げられませんよ!」

 ラティも否定し、ファイの隣に立つ。

 その際、上空目掛けて閃光の精霊魔法を放った。何か有れば、通達に使える精霊を目印に使えと言われていたのだ。

「えぇい!! 突風!」

 最初に動くはピア。突風の精霊によって巻き起こされた風で吹き飛ばそうとする。

 反射的にファイが自らの風の精霊を呼ぶ。

「疾風!!」

 二つの風が合わさり、暴風並みの威力がグリフォンに襲い掛かるのだが、背にある翼の羽ばたきによって掻き消されてしまった。

 否、威力は相手の方が勝っていた。

「お願い、蛍石!」

 咄嗟に蛍石のペンダントを投げつけ、目の前に壁を出現させてはそれを防ぐ。

「クッ! やはり、これくらいの風じゃ勝てないか」

 奥歯を噛み締めるファイ。妖魔は強い種ほど高位の精霊と融合して造られていた。

グリフォンほどの妖魔ともなればその精霊力も強大で、同じ風属性で勝とうものならば、台風クラスの精霊をぶつけるしかなかった。

「みんな、耳を塞げ!」

 モノクが言えば、けたたましいまでに激しい音が戦場に鳴り響いた。

 その大気の鳴動により生まれた衝撃波がグリフォンを襲う。

 対してグリフォンはその大きすぎる嘴を嘶かせた。

「KuOooooooo――――!!」

 発せられた超音波が衝撃波を相殺してしまった。

 そして、グリフォンの前肢である鳥のかぎ爪が襲い掛かってくる。

「光よ!」

 咄嗟に放ったラティの閃光が目眩ましとなり、寸前でグリフォンの攻撃をずらしてくれた。

 何とか最初の攻撃はやり過ごしたものの、誰一人としてこの戦いに勝ち目が見えなかった。

 希望があるとすれば、上空に打ち上げた閃光で救援が来ることなのだが、未熟な探求者パーティではその間生き残ること自体が難しそうだ。

「加速!!」

 武器として携帯してきた腰の剣を握りしめ、体内に宿っている時の精霊に命じる。

 刹那、フィルの姿がぶれた。

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